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50 Best Non-Hip Hop Albums of 2020

今年もジャンル問わずできるだけ多くの知らない音楽に触れようと努めていた。自身の中での大きな変化として、これまであまり得意ではなかったシンガー・ソングライターものをちゃんと聴けるようになったこと、そしてエレクトロニック・ミュージックをしっかり聴くようになったことが挙げられるが、こうして50枚選んでみるとそういった変化が現れているような、そうでもないような。

順位付けはなく、リリース日の順。一覧表(見出し)の下に各レビューがズラッと並んでいます。ジャケ写ではなくYouTubeを貼ったのはすぐに聴けるようにするためなので、ぜひ聴きながらどうぞ。

Flanafi『Flanafi』(1.20)

「ベッドルーム・Pファンク」と形容されているのを見かけたが、なんだかしっくり来るかもしれない。インディー・ポップ〜シンガー・ソングライターの系譜っぽい雰囲気なんだけど、D'Angelo、Sly and the Family Stone、あるいはJ Dillaといったソウル〜ヒップホップからの影響は間違いなく感じられる。なんだか2020年代になったなあ、と実感した1枚かもしれない。

Paysage d'Hiver『Im Wald』(1.25)

ブラック・メタルがアンビエント音楽になり得ると考えついた人は何らかの賞に値する。ここでは轟音のギターと激しいこと極まりないドラムが確かに鳴らされているのに、2時間超通して聴いても全然疲れないし、何なら精神が凛とする。

GEZAN『狂(KLUE)』(1.29)

<これはこれからこの時代が始めなければいけない革命に対する注意事項><シティ・ポップが象徴してたポカポカした幻想に未だに酔ってたい君にはおすすめできない>。1月に出たこの作品を最初に聴いた頃のことを思い出すと、ああ、あの頃からこの国は不正義と不穏な空気の読み合いに覆われていたのだなあと思い出す。新しい時代をサヴァイヴする術を模索しながら、アルバム全編にわたりBPMを統一し踊れる作りにもなっている。「全感覚祭」をはじめとして、本当に熱狂を生み出すのが上手いバンドだし、それで持ちに足ついた物言いに救われる。この狂った国のことを忘れさせてくれると同時に、向き合う強さも与えてくれる稀有な傑作。<新しい差別が人を殺した朝/正しさってなんだろ?/想像してよ 東京/新しい暴力を 何でもって乗り越えよう?>内田直之が手掛けたこのアルバムのダブ=残響が、2021年こそはこの世の中全体に響き渡っていくことを信じて。

Tame Impala『The Slow Rush』(2.14)

もはやDaft Punkとやっていることがあまり変わらないくらいの領域まで来てしまったこのバンド。でもしょうがない、誰でもこういうの好きなんだもん。春先に窓を開けた車内で聴いて、「こいつぁいい」と太鼓判をドカン。

BTS『MAP OF THE SOUL : 7』(2.21)

「俺は一体誰だ?」と問いかける「Intro: Persona」、「音楽がオレの心を揺さぶらなくなったら?それが最初の死になるのか」と歌う「Black Swan」、「リスペクト」という言葉の内実を問う「Respect」、とにかく彼らの楽曲は自らの置かれた状況に自覚的で率直だ。だからこそARMYたちは心置きなく彼らに心酔できる。「Dynamite」は別格で名曲だが、このアルバムのようなしっかりと自分たちと向き合う表現をしてきたからこその境地だと、心から思う。

Sibusile Xaba『Ngiwu Shwabada』(2.28)

ジャズ風味のギターを聞かせる南アフリカのシンガー・ソングライター。ズールーの伝統音楽とポピュラー音楽を混合したムバカンガの要素も受け継いでいる、らしい。何もわからないままに聴いたが、ジャズ・ギターの爽快感ととにかく特徴的な節回しが何故かしっかりと溶け合っていてすごい。

Bad Bunny『YHLQMDLG』(2.29)

アルバム2枚にミックステープ1枚と大活躍だったBad Bunny、その中でもずぶ揃いだったこちらの作品。ラテン・トラップ〜レゲトンの良曲がズラッと並ぶ65分は壮観だ。「Yo Hago Lo Que Me Da La Gana(俺はやりたいことをやる)」というタイトル通りこれで一つやりきったのか、下半期に出した2作ではロック・ギターのサウンドを取り入れるなど新機軸も模索中?

寺尾紗穂『北へ向かう』(3.4)

本当に真摯な表現者だと思う。それは亡き父を歌った「北へ向かう」もそうだし、11月にリリースされた日本各地のわらべうたを収集した『わたしのすきなわらべうた2』もそうだった。目の当たりにしたことと真摯に向き合うことで生まれる生き生きとした表現が息づいている。

Dogleg『Melee』(3.13)

この曲のMVを見て、もはやノスタルジックな気持ちになってしまうことに驚いてしまう。人と人との密接なつながりが減っていく中で、エモーションを失わないようにこの映像を繰り返し見た。にしても全編に渡って途切れることのないエモーションの奔流。でも不思議と疲れない。やはりエモは爽快だ。

Shabaka and the Ancestors『We Are Sent Here by History』(3.13)

「我々は歴史の手によってこの場に立たされている」。タイトルを訳すとしたらこうなるだろうか。西アフリカの口頭伝承文化「グリオ」を扱った今作は、イギリスのジャズ・シーンを牽引するサックス奏者=シャバカ・ハッチングスがアフリカのミュージシャンたち=The Ancestors(祖先たち)と組んだ2作目だ。歴史のつながり、そしてその起源に明らかに自覚的であるグループ名やタイトルであるが、ここで描かれている歴史は直線ではないように思う。下記の評文に詳細は譲るとして、ここでは歴史の直線性、ひいては西洋中心主義的なものまでを射程に捉えた問であるように感じる。

The Weeknd『After Hours』(3.20)

抜群に売れ、抜群に評価されながらもグラミーに黙殺された1枚。「Blinding Lights」はTikTokでもめちゃくちゃバズっていた。それにしても不思議な人だ。とにかく美しい歌声なのに、そこには常に陰があり、それでいて躁状態のような制御できない感覚もある。聴いているとハイとダウナーが一挙に両手を引っ張り始める。

Dua Lipa『Future Nostalgia』(3.27)

「Future Nostalgia」はもちろん80年代へのノスタルジアを指すのだろうけれど、今となってはもはや3月以前の世界に対してもノスタルジアを感じるようになってしまった。その二重のノスタルジアの中でひときわ輝くこの作品はおそらくここから年を取らないだろう。そう思えてしまうほどの至高のポップ・ミュージック。

Lakecia Benjamin『Pursuance: The Coltranes』(3.27)

ニューヨークのサックス奏者による、ジョンとアリスのコルトレーン夫妻による楽曲を収めたアルバム。参加している面々もコルトレーンの楽曲に全然明るくないぼくだが、とてつもなくかっこいい王道ジャズ・アルバムといった趣で楽しめた。

KeiyaA『Forever, Ya Girl』(3.27)

2018年末に出たEarl Sweatshirtのアルバム『Some Rap Songs』の余震は2年たった今でも続いており、MIKE、Medhane、Navy Blue、MAVIなどヒップホップの領域だけではなく当然ながらR&B〜ソウルの世界にも広がっている。この作品にもMIKEがプロデュースで、AKAI SOLOとコラボ作も出していたBSTFRNDがミックスとマスタリングで参加している。しかしプロデュースは大半がKeiyaA本人が手掛けていて、酩酊感のあるユラユラのトラックが彼女の歌声と溶け合って、濃厚な音世界を構築している。

NNAMDÏ『Brat』(4.3)

シカゴを拠点に、10を有に超えるプロジェクトを掛け持ちするマルチ・プレイヤー。盟友のSen Morimotoと同じく、確かなテクニックに裏打ちされた、何でもあり・ごちゃまぜの音楽性。こういうふざけているのか真剣なのかわからないアティテュードに惹かれる。

Yves Tumor『Heaven to a Tortured Mind』(4.3)

ロック的なアプローチには驚いたが、寸分の隙もないプロダクションへの偏執狂的なほどまでのこだわりには更に驚いた。というか引いた。

この作品については伏見瞬氏による評文が素晴らしい。

Jon McKiel『Bobby Joe Hope』(4.24)

カナダのミュージシャン、Jon McKielはネットで購入した中古の機材の中に残されていた、前の持ち主の録音データを使ってこの作品を作り上げたという。アルバム・タイトルの「Bobby Joe Hope」はその前の持ち主の名であり、ここに見知らぬ二人によるコラボ作品が誕生した。その制作の経緯の面白さもさることながら、出来上がった作品がなかなかどうしてかなり上質なサイケデリック・ポップになっているのも素晴らしい。

Pink Siifu『Negro』(4.29)

今年はFly Anakinとのタッグ作『FlySiifu's』も素晴らしかったラッパー=Pink Siifuが4月にリリースしたこの作品は、フリー・ジャズ〜ハードコア・パンクの要素が全面に押し出された攻撃的で衝撃的な作品。怒りで埋め尽くされたこの作品に耳を貸すべき。しかし何度声を上げればその声は届くのだろうか。『FlySiifu's』のような耳当たりの良いスムースなヒップホップに酔いしれる人はこの叫びも目撃しなければならない。

井手健介と母船『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』(4.29)

踊ってばかりの国、ROTH BART BARON、羊文学、Wool & The Pants、Group2、betcover!!などなど、今年の日本のロックはサイケな良作が多かったが、その中でもこの井手健介と母船は別格で良かった。T-Rexを思わせるような歌舞いたサウンドがフィクショナルな歌詞世界とぴったり符合した、50年遅れてやってきたグラム・ロックの大傑作。

Leven Kali『HIGHTIDE』(5.1)

Tuxedo、Playboi Carti、Drakeなどの作品に参加してきたシンガーのソロ作。実はこれは2枚めになるが、何故かよく話題になっていて聴いた。職人的な気質を感じるほどに、とにかくウェルメイドなR&Bアルバム。

Pantayo『Pantayo』(5.8)

トロントを拠点に活動するフィリピン系5人組。フィリピンの伝統的な鐘楽器=クリンタンを使ったポップスで、エスニックな要素は全面に押し出すわけではなく楽曲の中にしっかりと組み込んでいる。その同居具合が極めて新鮮で驚いた。楽曲からはフィリピンの風景は浮かんでこず、あくまでトロントで暮らすフィリピン系移民たちの音楽なのだなと思うし、その地に足のついた表現が温かい。

Odunsi (The Engine)『Everything You Heard Is True』(5.13)

ナイジェリアの「Alté(オルテ)」というムーヴメントの担い手の一人。アフリカ音楽の要素もそこかしこに感じるが、現行R&B〜ヒップホップの要素を大幅に取り入れたクールな質感が特徴のシーンである。でも積極的にこのシーンを掘っていたわけではないので、もっと面白い作品もたくさん出ていたんだろうなと悔しい思いをしている。

Charli XCX『How I'm Feeling Now』(5.15)

「quarantine(=隔離、”自粛”)」は今年の頭には知らなかった単語だったのに、今では完全に脳みそに定着してしまった。まだまだ世界がZoomの使い方に慣れている段階だった4月に、彼女はこの状況下でアルバムを制作することを発表し、更にはその制作のプロセスの多くをファンたちと共有した。そうして作り上げられたこのアルバムはそれでも紛れもないCharli XCXの音楽で、「なんとかやっていけるのかも」と安らぎを感じた同業者たちも多かったのではないだろうか。BTS『Be』への影響を考えるまでもなく、今年の音楽制作の新たなスタンダードを切り開いた1枚にして、クオリティ的にも申し分ない大傑作だ。

Moses Sumney『Græ』(5.17)

ダニエル・ロパティン(Oneohtrix Point Never)、FKJ、Thundercat、Jill Scott、James Blake、Nubya Garcia、Shabaka Hutchingsなど多くのゲストを招いて作られた2作目は20曲入りのダブル・アルバムとなり、真のジャンルレス、そして突き抜けた表現として我々の目の前に現れた。「Amp up the masculie, you've got the wrong "i"(=男性性を増幅せよ、お前は間違った”私”を持っている)」ととりつかれたように歌うMoses Sumneyは、このアルバムで音楽的にも歌詞的にも「グレー」を体現し、それをありのままで受け止めることを我々に突きつける。

The 1975『Notes on a Conditional Form』(5.22)

BTSとの親和性を何となく感じる。両者とも程度/ポジションの差こそあれ、圧倒的なポピュラリティを獲得しながらも伝えたいメッセージを(ヘイター共が眉をひそめるほどに)率直に表現している。グレタ・トゥーンベリのスピーチから始まるこのアルバム。「I don't like going outside, bring everything here」という歌詞がロックダウンを予見していたかのような「People」はとにかくノイジーなパンクだが、その後作品はハウス、エモ、アンビエント、AOR、ソウルなどなど、見境なくその枝葉を広げていく。その大胆さと器量に勇気づけられた。

Holy Hive『Float Back to You』(5.28)

サイケデリック・フォーク・ソウルとでも言うべき、軽やかで爽やかでありながらもどこかどんよりとした雰囲気がとにかくツボだった。Amy Winehouse、Bruno Marsなど並々ならぬビッグ・ネームのバックを努めてきたドラマー=Homer Steinweissが中心となっているだけあってパーカッションの使い方が絶妙で素晴らしい。

Kate NV『Room for the Moon』(6.12)

ロシア・モスクワのアーティスト。妙にノスタルジアを感じるニュー・エイジ風エレクトロ・ポップ。生楽器がかなり使われているところがミソのような気がする。ベースラインがずーっと気持ちいい。

Ulthar『Providence』(6.12)

メタルの新譜はあまり聞けていなくて、昔から好きなバンドの新作+いわゆる「批評系」音楽クラスタやメディアで話題になっているものをちょいちょいつまみ食い、といった現状。だから今現在のこのシーンにおける「評価軸」みたいなものもあまり良くわかっていない。が、このオークランドのバンドのアルバムは素直にめちゃくちゃかっけ〜!と思った。でもなんでかはよくわからない。ブラック・メタルよりのデス・メタル。この折衷感がツボなのかもしれない。

Arca『KiCk i』(6.26)

Arcaの作品を新作として聴いたのは今回が初めてだった。確かにカッティング・エッジな音像だとは思ったけれど、想像以上にポップなものだなとも感じた。聞けばこれは思い切りそういう方向にかじを切った作品だそうな。やっぱ前衛と俗がぶつかるその地点が一番面白いし、そここそが真の前衛だなと改めて。

Thiago Nassif『Mente』(7.3)

リオ・デ・ジャネイロの新世代シンガー・ソングライター。アヴァンギャルドなサウンドスケープで包まれてはいるが、実は肉感的なファンクネスあふれる1枚。

mom『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』(7.8)

正直ここまで化けるとは思ってなかった。これだけ尖っていて若い才能がメジャーなフィールドで活躍できていることには希望しか感じない。「アンチタイムトラベル」の中の一節、

スカスカの頭を許してくれる
そんな偽物の聖歌みたいな歌が
みんな好きなんだな

この憤りが聞き流されてしまうようなら、この国のポップスに未来はない。

ラブワンダーランド『永い昼』(7.15)

本日休演の岩出拓十郎を中心にしたレゲエ・バンド。<彼岸のラヴァーズ・ロック>と掲げられたテーマの通り、どこか現世感が希薄な幻惑のサウンド・スケープ。「恋のモーニングコール」のときめきに完全にノックアウトされてしまった。

『Tchic tchic - French Bossa Nova 1963 1974』(7.17)

フランスでリリースされたボサノヴァを集めたコンピレーション。ブラジル発祥の音楽がフランスで花開いた時代の記録。一度「輸入」というプロセスを挟み込むことで、一つの「様式」として特定のムードを醸し出す機能が強化されているかのような、エキゾチシズム溢れる音楽たちは本家よりもいい意味で「気楽」に聞くことができて、その「気楽さ」こそがこの夏ぼくが切望していたものでもあったのかも知れず、とにかく心にしみた1枚。

KMRU『Peel』(7.23)

今年、長いこと積んであった飛浩隆の『零號琴』という小説をついに読んだ。“特種楽器技芸士”のトロムボノクという男が、<美縟>という惑星の首都全体を使って作り上げられた巨大楽器<美玉鐘>を使って、假面劇の伴奏をするという極めて壮大な小説である。その壮大な音の波の描写がとにかく素晴らしく、ほとんど一気に読み終えてしまったのだが、そこで実際に鳴っている音など想像することすらできないと思っていた。しかし、ケニアはナイロビの電子音楽家によるこのアンビエント作品を聴いて、あの<美玉鐘>の音はひょっとしたらこんな感じなのかもしれないと思った。静謐で美しく、そして生きもののような、大きな海のような有機的な鼓動を感じる。

Fontaines D.C.『A Hero's Death』(7.31)

今年はついに1本もライブを見ずに終わってしまった。もともと足繁く会場に足を運ぶわけではないのだが、フジロックに出演予定だったFontaines D.C.が見られなかったことは悲しく思う。これだけド直球なロック・サウンドに食らったのは久しぶりだった。というか、ロック聞かなきゃ、という気持ちにさせられた。いつか絶対生で見る。

Popcaan『FIXTAPE』(8.7)

A.G. Cook『7G』(8.12)

49曲、2時間39分。ものすごいボリュームだが、断言しよう。これはぼくが人生の中で聴いてきた2時間超えの作品の中で最も刺激的な作品だ。Aphex Twinを否が応でも思い出させる強烈なドラムンベースから始まるこの作品は、ニュージャックスウィング〜アンビエント〜グランジ〜そしてSiaの “Chandelier” のカバーに至るまで、考えられる限りのポップ・ミュージックの領域を横断しながら、それでいてアートワーク通り灰色のテクスチャが全体を覆っている。

Slauson Malone『Vergangenheitsbewältigung (Crater Speak)』(9.16)

ブルックリンを中心とするジャズ〜ヒップホップ・コレクティヴ=Standing On The Corner。MIKE、Medhane、Solangeなどのプロデュースに関わり、そのどれもが圧倒的な高評価を受けている。そんなSOTCの中心人物であるJasper Marsalis(Wynton Marsalisの息子)の変名であるSlauson Maloneのソロ・プロジェクト。昨年発表の『A Quiet Farwell, 2016–2018』の続編、あるいはBサイド的な作品だと思われる。自分の中の恐れや孤独を紡いだこの音楽はどこか室内楽的な温度感も感じる優しい9曲。

Sault『Untitled (Rise)』(9.18)

ベスト・アルバムの中で選んでいるRun The Jewels、GEZAN、そしてこのSaultの3作品に通底して言えることは、作品が世界に対して言葉というアクチュアルな(形にして手に取ることが可能な)形式をもって抵抗するだけではなく、言外の部分でも我々の体を揺さぶり、語りかけていた点である。悲しみ、怒ることと音楽の律動に身を委ねて踊ることは矛盾しない。そんなことは、James Brownが何十年も前に教えてくれていたことだけれど。

Idles『Ultra Mono』(9.25)

今年はUKドリルにもやられたが、UKのパンクにもやられた1年だった。Nothing、Fontains DC、そしてIdlesである。特に無機質でインダストリアルなそのサウンドはUK特有といった感じ。Kenny Beatsも関与していることもあり、全体的にヒップホップ寄り。特にこの「GROUNDS」はパンク版「Simon Says」といった趣。

冥丁『古風』(9.27)

80〜90年代の無国籍な日本のアンビエント音楽が「Kankyo Ongaku」としてもはやされる中で、これでもかというくらい邦楽のエッセンスをまぶしたこのエレクトロニック・ミュージックが新鮮に響いた。妙にエキゾチシズムからは距離をとったその温度感が稀有だ。

Róisín Murphy『Róisín Machine』(10.2)

「Dynamite」のヒットもあった今年、ディスコ・リバイバルの勢いはまだまだ止まらない。とりわけ今年はダンスフロアが閉鎖された。猥雑なあの匂いを最後に感じたのは、去年だろうか?それとも70年代だろうか?この作品を聴いているとその時代感覚が捻じ曲げられていく快感がある。

Luedji Luna『Bom mesmo é estar debaixo d'água』(10.14)

アフリカ系ブラジル人シンガー・ソングライター。ブラジル音楽らしいサウダージも感じながら、しっかりと骨太なグルーヴとメロウな雰囲気はシティ・ポップとの連結も可能。とにかく美しい音楽だ!

Oliver Coates『Skins n Slime』(10.16)

ロンドンの王立音楽アカデミーを記録的な成績で卒業した彼が、こんな実験的な音楽をやっているのに驚いた。クラシックってもっと頭でっかちで権威主義で保守的なものだと思っていたから。業界全体はそうなのかも知れないが、個々のミュージシャンそうでもないのかも知れない。チェロの音を加工して作られたアンビエント〜シューゲイズ的音世界にただただ圧倒されるべし。

Oneohtrix Point Never『Magic Oneohtrix Point Never』(10.30)

セルフタイトル作にして自己言及的・内省的な作品と評されるこの作品が、これほどまでにすんげー作品だと今後何をどうやって行くのか気になる。

高井息吹『kaléidoscope』(11.4)

君島大空、石若駿、King Gnuなど多くの才能が参加している1枚。晴れた日の昼寝で見る夢のような、とにかく心地よく繊細でずっと浸っていたい1枚。アンビエンスとロック然としたバンド・サウンドが同居しながらも、それが互いに鏡合わせになっていて、まさに万華鏡なり。

君島大空『縫層』(11.11)

この「笑止」でのメタル・サウンドの使い方には度肝を抜かれた。こんなバランスの曲はこれまで一度も聴いたことがなかったから。まっさらに新鮮な音像にビビることは年々少なくなってきてはいるが、やはりその驚きには特別なものを感じる。

Seba Kaapstad『Konke』(11.13)

ドイツのミュージシャン、Sebastian Schusterを中心とするドイツ/南アフリカのネオ・ソウル混合ユニット。アフリカ要素は小さじながらも、楽曲の完成度がとにかく高いため、繰り返しのリスニングに最適。とにかくゴキゲンなグッド・ヴァイブスを邪魔されたくないときにおすすめ。

青葉市子『アダンの風』(12.2)

私たち、もともと魚でしたものね。
Mikikiのインタビューより)

沖縄滞在時に着想を得たプロットを元に作り上げた架空の映画のサウンドトラック。祈りのような、荘厳で美しい音楽と言葉に耳を澄ましていると癒やされるのは、疫病退散のおまじないを沖永良部島現地の言葉で唱えた「血の風」のような楽曲に、しっかりと言霊が宿っているからだ。表現というものに全霊で向き合わないとたどり着けない境地に彼女はいる、そう感じるまでに研ぎ澄まされた作品である。

Taylor Swift『Evermore』(12.11)

7月にリリースされた『Folklore』よりもこっちのほうがしっくり来た。冬だからかな?少し失速気味だったAriana Grandeの作品と比べると、これほど簡素な音作りの中でしっかり表現しきってしまうTaylorの凄みが浮かび上がってくる。

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