存在不確定のカラス
「今日は何を書いたものか」と固まったまま画面を見つめること数分、遠くから『夕焼小焼』が流れてくるのが聞こえてきた。
ということは、午後五時である。あまり意識することはないが、この辺りは午後五時になるとこの曲が流れる地域だ。
自治体単位でそうしているところも多くあるらしいが、私が住んでいるところはそんなことはなく、単に近くにある何らかの工場の退勤時間を示すチャイムに用いられでもしているのか、それがここまでうっすらと聞こえてくることがあるのである。
とはいえ、これを聞くのは稀なことだ。
私が起きている時間は基本的に何らかのコンテンツに入り浸るためにイヤホンを付けており、環境音が耳に入ることは少ない。
それに、イヤホンを付けていなくても聞こえることが稀なのである。それほどまでに遠い場所で鳴っている曲なのか、曲の鳴るタイミングが不定期なのか、あるいは単に私の幻聴なのか。
午後五時付近に辺りを散策してみることで真相を確かめることは容易だが、強いてそうするまでの情熱は今のところない。
偶然午後五時ごろに外出して偶然この曲が流れている場面に遭遇し、「ああ、この曲はここから流れていたんだなぁ」というふうになるのを待つくらいはしてみてもいいかもしれない。
なにせ探す対象が音楽であるので、「今日こそ見つけてみせるぞ」とかいうふうに覚えていなくても明らかに聞こえるか聞こえないかするのがいい。
その時の私が烏と一緒に帰っているのか、あるいは群れに逆らってどこかへ向かう途中なのかは定かではないが、聞くことが出来たら今日のことを思い出してみることにしよう。
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