記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

『魔王物語物語』プレイ感想

 遊びました。

書きます。

ネタバレあります。ご注意を。


はじめに

 中盤くらいまでは神懸かった面白さでした。その面白さがどんなものだったかと言うと……自分が主体的に遊んでいく中で、ちょっと考えることが常にあり、定期的に嬉しいこと、気になること、おどろくことが発生し、それらが積み重なって山場が生まれる、これを何度か繰り返す。“面白いゲーム”の具現化。格ゲーでコンボ喰らい続けて足が地面に着かない、みたいな。いつ止まるんだこのラッシュ…ッ!みたいな。

中盤からはさすがに少し疲れました。また、自然回復量が上がる一方で回復速度は一定なので、【ただ待つだけの時間】が生まれていました。攻略を考えると回復アイテムは温存したいので、退屈だけど待つのが最適だと感じるんですよね。さらに、増えた空きビンの数に対抗するためか、敵の強さや仕掛けの厄介さが増していくのも大変でした。一般的なRPGと違って、ラストダンジョンもラストバトルもスルッと始まるので、あまり気持ちが盛り上がらないのもありました。

エンディングを見たあとは用語集を読んで、自分でしばらく考えて、それからストーリー解説を見て、納得して、これを書いています。【原住民の廃都】のBGMがやたらうるさいのも、今ではいい思い出になっています。地底はちょっとだけ覗きましたが進んでません。公式サイトあらためて見たらレアアイテム1割ぐらいしか取れてなかった……

 この記事は、大きく分けて二部構成にしようかな。前半は、中盤までの神懸かった面白さが実際にどのように実現されていると感じたのかを書きます。後半は、ストーリーについて少し考えてみようかなと思います。

神懸かった面白さ

 あらためて書くと、このゲームの面白さは以下のようなものでした。

自分が主体的に遊んでいく中で、ちょっと考えることが常にあり、定期的に嬉しいこと、気になること、おどろくことが発生し、それらが積み重なって山場が生まれる、これを何度か繰り返す。

一つ一つ見ていきましょう。

自分が主体的に遊んでいく

 まず、ゲームを始める前からそういうゲームだと予告されます。

クリア条件
「魔王物語」の結末を見つけること。

こんなゲームです
・デモシーンはほとんどありません。
 決められた道筋はなく、そこそこの自由度があります。

・キャラのお好みカスタマイズが楽しめます。
 被ダメージを無視して攻撃力に特化してみたり、気力を上げてスキル使いまくってみたり。

・油断するともの凄い勢いで全滅します。
 装備品をうまく使い分けて難所を切り抜けるか、
 必要以上にレベル上げして力技で突破するかはお好みでどうぞ。

・次は何をどうしろとは誰も教えてくません。
 そういう意味ではとっても不親切なゲームです。


昔っぽいRPGのような、そうでもないようなプレイ感をお楽しみください。

公式サイトより引用

平たく言えば【拘束が弱いゲーム】ですね。ゲームを始めてすぐに自由に動き回れるようになれます。もうこの時点でちょっと嬉しいんですよね。しかも拘束が弱いだけで、誘導自体はちゃんとやるんですよ。ゲーム冒頭では自分の部屋に案内されて【初戦闘&セーブ】をちゃんと教えてくれますし、水辺の前では危険を予告してくれます。

ちょっと考えることが常にある

 おもに以下の四つが生み出しています。

・ちょっと変わったエンカウントシステム
・体力∥回復剤の管理
・マップ攻略
・成長要素

どれも深く考え込む必要は無いけども、ちょっと意識する必要があります。それぞれ見ていきます。

・ちょっと変わったエンカウントシステム
 戦闘に参加する敵の数と、位置関係。戦闘が有利になるように、この二つを戦闘前に考える必要があります。さらに敵シンボルによってマップ上の移動の仕方に個性があるので、そこも考慮しなくてはなりません。他にも、赤色の敵シンボルはスゴく強いが一度倒すとしばらく復活しないので、なるべく倒しておきたくなります。

・体力∥回復剤の管理
 回復剤はとても貴重なので、使うタイミングを考える必要があります。戦闘後に少しだけ自動回復できるので、そこも考慮してどのタイミングで回復剤を使うかちょっと考えさせられます。あと一部のスキルは残りHPが減っていると使用可能になるので、やはり少し考えることになります(HP補正ある装備付け外しすればいいけどめんどくさい)。そして回復剤が減ってくると、【先へ進むか?戻るか?】の判断をする必要があります。

・マップ攻略
 「あそこの宝箱どうやって取るんだろう?」が随所で発生します。【天牢の塔】や【空想の果て】など後半のマップはギミックがあり、どうすれば先に進めるのか少し考える必要があります。

・成長要素
 後述する【嬉しいこと】を担当する要素です。考えるポイントとしては、

・どのアイテムを買うか?
・どのスキルを取得するか?
・どのアイテムを装備するか?
 └どのアイテムの熟練度を伸ばすか?

などがあります。そのほかにも、アップ系アイテムを使うキャラの判断∥アイテム作成するかどうかの判断などもありますね。

 考える要素を見ていきました。とはいえ、これは個別のシステムを見ただけです。大事なのは並べかたになるわけですね。ここも隙がありません。考える要素の強弱を変えて織り交ぜてくるんですよ!体力管理で言えば、最初は【自動回復に頼る→回復剤使用】の判断を繰り返した果てに【今回は撤退するか?進むか?】の大きな判断になっていくわけですね。なにせ【死んだらセーブ箇所までやり直し】なので、進捗を無駄にしないためにもゲームが進むにつれて的確な判断が求められます。

しかも強弱だけでなく、エンカウント∥体力管理∥マップ攻略∥成長要素が並列して絡み合って提供されるので、常に刺激があって退屈しないんです。

定期的に嬉しいことがある

 常にちょっと考えること、を見てきました。これはいわば課題であり、実際にはこれだけでは続けられません。ご褒美あってこそです。頑張ったら嬉しいことが起きて欲しいですよね。考える要素の一つに挙げた成長要素が、嬉しさを湧き上がらせてくれます。

・ガラスのかけら三つ→空きビン
・レベルアップ
・熟練度アップ
・アイテムドロップ
・宝箱(アイテム∥金)
・アイテム購入
・スキル解放(スキルポイント入手)
・ショートカット解放
・魔法の種
・攻撃値一定以上要るヤツ

この辺ですね。種類が豊富なのがいいですよね。嬉しいことが多い。当然ですが、こちらもペース配分が素晴らしいです。予測できるかどうかを上手く使い分けている印象です。この予測、大きく分けて発生タイミングと効能の二つがあるようです。【いつ起きるか?】【どのくらい嬉しいか?】この二つが予測できるかどうかですね。以下、無理矢理まとめてみました。文字で。

■嬉しいことに対する予測可能性まとめ
 ‐ガラスのかけら×3個→空きビン:発生◎ 効能◎
 ‐レベルアップ        :発生◎ 効能○
 ‐ショートカット開通     :発生○ 効能◎
 ‐スキルポイント入手     :発生△→○ 効能◎
 ‐熟練度アップ        :発生△ 効能◎
 ‐アイテム購入        :発生○ 効能○
 ‐スキル解放         :発生○ 効能○
 ‐宝箱            :発生△ 効能△
 ‐アイテムドロップ      :発生△ 効能△
 ‐装備品宝箱         :発生△ 効能○
 ‐魔法の種          :発生○ 効能△
 ‐攻撃力一定値以上要るヤツ  :発生◎ 効能△

かなり大雑把ですが、三段階で表現してみました。こんな風に、嬉しいことが【いつ起きるか?】【どのくらい嬉しいか?】の予測が完全にできたり、ちょっとできたり、できなかったりするわけです。嬉しいこと自体に飽きにくくなってるんですね。まぁちょっと恣意的な見方をし過ぎているかもしれませんが……

序盤から中盤にかけての見せかたが本当に素晴らしいんですよね。「ネズミ一体ずつ駆除するの大変だなぁ」→「ファイアウェイブつええええ!」とか。レベルアップや熟練度アップで一気にラクになる感じとか。「大きなカエル強すぎる!!」→強くなってリベンジとか。無限とも思えるぐらい嬉しいことが定期的に発生してました。ヤバい。

定期的に気になることがある

 ちょっと考えることがあって、上手くプレイした結果、嬉しいことが起きる。これを繰り返すだけでもゲームはかなり面白いんですが、それでも“飽き”という悪魔は必ずプレイヤーの元におとずれます。この悪魔を封じるためにはもう一つ二つ、仕掛けが必要です。このゲームでは【気になること】を定期的に発生させて飽きを軽減させています。

【気になること】だと【ちょっと考えること】と同じような意味になってしまいますね。ここでは、あんまり考えなくてもいいけど気になること、とします。それはおもにストーリー進行が担います。

「ここはどこなんだろう?」
「なにをすればいいんだろう?」

といったところから始まります。あの洞穴のモールってヤツなに?とか。カワード?なんだそれ。行く先々でたまに出会う人に話かけると、少しだけしゃべります。初回会話時にガラスのかけらがもらえるのもスゴく上手い仕組みですよね。絶対一回は話しかけるようになります。

考えることや嬉しいことと同様に、気になることもいっぺんに提示しすぎないのがありがたいし、楽しいですね。ここで「上手いな~」と思ったのが、レーラリラの使いかた。ネグラに戻ってきたときに一番最初に遭遇するキャラクターなんですが、立ち位置(と花の有無)を変えることで、会話内容が変わったことを示唆しています。暗黙の通知です。そして会話の最後に「○○さんが来られましたよ」としゃべることで部屋に向かうよう仕向けます。

プレイヤーが部屋におとずれて物語や日記を読み始め、続きが気になりだしたら終わりです。ここもちゃんと仕掛けがあり、ルドルフは日記を通読することを中断させてきます。禁止されたことってやりたくなりませんか?それに、やりかけの物事は完了させたくなります。帰還する度にチェックしたくなるんですよ。ちなみにネグラへの帰還は、回復剤の補充という仕組みがおそろしく自然に誘導してくれます。他にも、
・セーブ
・ガラスのかけらと空きビンの交換
・アイテム購入
・鏡と向きあってスキル修得
・モールさんの掘り出し物
帰還する動機付けは豊富に用意されています。「ストーリーを進めるために帰還しないと」なんて思考は1秒も浮かばないんです。

あ、あと禁止されたらやりたくなるのはアーロンアーロンの部屋の奥の扉でもやってますね。こっちはしばらく通してくれない。ここも強弱を使い分けてますね。

定期的におどろくことがある

「やったぁ!」とか。「なんだこれ?」とか。そういったこととは別で、
「うわあああ!なんだなんだ?ハァ?!」みたいなおどろきがあるとゲームってもっと面白くなると思いませんか。あるんですよこのゲーム。そういうおどろきも。

初見殺しを至るところに仕込んでますよねこのゲーム。定期的にぶっ殺されて面白いです。死亡=最後のセーブからなので、理不尽になりすぎないように上手くさじ加減を調整している印象です。長丁場のあとに仕込む場合は、あるていど予測しやすくしている気がします。【広大な海】の鳥の群れとか。

レーラリラの最期とかスゴく面白いですよね。さっき書いたように、レーラリラはネグラでのストーリー進行通知&誘導係になっている(と思った)わけなんですが、徐々に通知が無くてもどうすればいいか分かってくるんですよね。分かってきた辺りで居なくなるわけです。めちゃくちゃ面白い形で。アーロンアーロン戦も構造がおんなじなんですが、こっちは死なない。予想外!

ルドルフ仲間になったし、次はナナが加入だな^^と思ってたらふつーに橋を渡っていってしまう。心地よい裏切り。じゃあクモが仲間に……ならない!三人目だれ?は?真っ黒なんだけどなにこれ?

積み重なりが山場を生む

 いろいろやってきて積み重なってきたモノがドカンと跳ねると面白いですよね。既にいろいろ書いてきました。まだ取り上げてないモノで山場と言えば、ボス戦です。全部で四回しかありません。ゆえに特別。

各キャラクターの物語を見てきているので、同行を求められたときに、力強く頷けます。なぜこの舞台でこの敵と対峙するのか分かっています。(個人的に、ラスボスはちょっと盛り上がらなかったけど……)

ゲストキャラクターのスキルが、過去、生き様、覚悟を体現した技名になっていて、否応なしに盛り上がります。うおおカットイン演出も!?双頭の悪魔戦がとくに素晴らしかった。戦闘でやったことは【ハッピーエンド至上主義→情壊連打】だったのですが、異常な破壊力の応酬でボルテージが上がって脳みそがおかしくなりました。音楽も最高に激しくてハイになれます。

 というわけで、このゲームはとても面白かったです。自分が主体的に遊んでいく中で、ちょっと考えることが常にあり、定期的に嬉しいこと、気になること、おどろくことが発生し、それらが積み重なって山場が生まれる、これを何度か繰り返す。特に【なんでも装備×熟練度】は象徴的なシステムですね。アイテムがどれも気になるし、意外な強さを発見したり、熟練度アップ自体が嬉しかったり。本当にスゴい仕組みです。作るのスゴい大変そう。

あと、エンカウントシステムの貢献が大きいんだと思いますが、ダッシュとか無いのに不便さを感じないマップ構成もスゴい。

ストーリーについて思ったこと

 物語それ自体をテーマにしているのが好きです。なんか、イイなって思いました。いままで意識したことが無かったので、興味深かったです。人間は物語をどう扱うのか、いろんな在りかたを見せてもらえるというか。憧憬、夢、過去、試練、教訓、戒め、嫌悪、唾棄、考察、復讐、終焉、演劇、紡ぐ……その他もろもろ。

ボス戦は物語で一番盛り上がる、主人公が葛藤を乗り越える瞬間を戦闘という形で体験するからいいんですよね。カタルシスってヤツですね。大陸ではこのあとどんな物語が生まれるんだろうって想像させられるのもスゴくイイ。

作中作を何度も体験するのがなんとも言えないよさがあって……RPGは役割を演じるゲームって意味だったなと、あらためて思い知らされるというか。キャラクターが【自分は物語の登場人物だ】と、自覚的に役割を演じるので、ある種メタ的なんですよね。だけど、それが一周回ってどんなゲームよりもRPGらしさがあるというか。上手く言葉にできませんが。

アーロン略が魔王物語について研究∥考察していたので、僕もしてみたくなりました。結末を想像するキャラクターをゲーム内に置くことで、プレイヤーにも想像させるのが上手いですよね。そこまで誘導を意識しているのかは分かりませんが。

魔王物語は駄作だったんじゃないか説

 駄作はちょっと言い過ぎかもしれません。大して面白くなかったんじゃないか、という考察をしてみます。とくにそれ自体に意味はありませんが。この記事全部そうですが、勝手に思ったことをテキトーに書いています。

・誰も面白さに言及していない
・ルドルフは竜の見た目を知らなかった
・作者は無名
・ラストダンジョンの会話シーンだけ見るとなんも考えずに書いてそう

この辺りがおもな根拠です。ルドルフが竜の見た目を知らないのは、おかしい気がします。魔王物語に登場する竜は、見た目に関する描写が一切存在しない……?それってちょっと……ねえ?ただこれに関しては、フロドナの村に伝わる物語を最初に聞いたときのイメージで固定されていたからなのかもしれません。

作者のハロルド・ディスターは無名で、小説家でもなんでも無かったようです。ラストダンジョンでハロルドらしき人物の会話が断片的に描かれますが、このときの会話から考えると魔王物語はかなり適当に作られていそうに見えます。(ここのシーンだけで判断するのは偏った見方かもしれませんが)(でもここしか情報が無いしなぁ)

・花の絵を描こうとしていた→やめる
・ずっと白紙→「物語はすでに俺の中にある」発言
・素人の提供したネタを利用して書く

この辺り、完全にワナビーって感じで僕も身に覚えがあります。やめてくれ。「なんとなく書いてる」とか、「何か強そうな敵を主人公が倒す。それだけだ。」とか、本当になにも考えずに行き当たりばったりで書いてる感じがあります。いきなり最後に魔王が登場しちゃダメだと思うよ。ちゃんと伏線張っていかなきゃ。題名も人に考えてもらってるし!

「そんな駄作なのに、なんでちょっと広まったんだ?」と思ったのですが、ここで出てくるのがゼルヒ・エルオントです。大陸の英雄である彼が本を拾って面白がったんだと思います。たぶんゼルヒはそういう作品の良し悪しが全然分からないタイプの人です(暴言)。力もあった、知略もあった、だが小説の良し悪しは分からなかったんでしょう(偏見)。ゼルヒが気に入ったから出版されたけど、駄作だったので全然広まらなかった。で、一部のマニアが物語自体よりも、著者やその目的∥結末を想像して楽しむようになった。だいたい、(おそらく)冒険活劇モノ…娯楽小説のハズなのに、「書いた目的を想像する」のは違和感があります。それすら伝わらないくらい拙い小説だったんじゃないかと邪推します。

他にも、各キャラクターが対峙するボスは、自分の過去の体験がメインであり、魔王物語はあくまでイメージの補助に使われている印象があります。魔王ハーディスもむちゃくちゃな性能だし、安易にメアリースーを出さないでください。

物語はただそこにあるだけ、だとすれば。ワナビーが素人のネタを元に書いた未完結の小説でも、川に流せば誰かの心の岸辺に着く。そうだったら面白いな。


おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?