父親の話
僕は父親を尊敬している。
あの事件が起きるまでは。
息子の僕が言うとファザーコンプレックスかと思われるが本当に尊敬している。
なぜ、尊敬してるかと言うと何でもできる男なのだ。
朝早くから、仕事に行きしっかりと働いている。
休みの日でも朝早く起きて趣味としての家庭菜園に水、肥料を与えたり、土を新しく変えたりしている。
また、飼っているアロワナ(熱帯魚)の水槽の掃除、
さらに調子のいい時は、ホットケーキなどを作っていてその匂いに釣られて朝目覚める時もある。
まだまだ、父親の朝活は続く。
家全体の掃除に、服の洗濯などもするのだ。
母親がやらずとも何もかも家事が終わってる時もあったりもする。
そして、その勢いは止まらず午後には小学校の時に僕が所属していたサッカーチームの指導をボランティアで行なっている。
父親がサッカーを学生の時にやっていた為、勧められて
僕も小学1年生の時からサッカーを習い始めた。
所属していた地元のサッカーチームは主にお父さんコーチが指導する形を取っている。なので、小学生の時は父親の仕事がなく休みの時は指導される事もあった。もちろん厳しかった。
そして、僕が小学校を卒業してサッカーチームを離れても
ボランティアとしてサッカーを指導しに行っている。
もう、10年ほども息子がいなくなってからもだ。
他のお父さんコーチは大体、息子が卒業したタイミングで一緒にフェードアウトして行くが僕の父親は違うのだ。
しかも指導の仕方が上手なのかはわからないが、
子供たちからも人気なようで練習も楽しいと好評なようだ。
保護者として来ているお母さんたちも、他の若いお父さんたちよりもイケてる顔らしく「あのお父さんコーチ誰の子なの?」「かっこよくない?」みたいな会話もあったと聞いた。自慢の父親なのである。
それから、コロナウイルスの影響により自粛期間に入り家にいる事が多くなった。
そこで事件は起きた。
唯一の父親の嫌だなと思うところを見つけてしまったのだ。
都市伝説がめちゃくちゃ好きなのである。
これは大どんでん返しだ。ダサすぎるのだ。
自粛により暇を持て余した父親は家でYouTubeで都市伝説の動画を見始めた。もう、止まらない、ずーっと見ている。
自粛によるストレスなどでコロナ太りや睡眠を取りすぎるなどダラダラした生活をしてしまう。
それにより、家でのちょっとしたトレーニングをするというのが一般的だろうと思ったが父親は違うのだ。
ストレスを都市伝説で消し去っている。少し恐怖さえ感じるのだ。
もしこの事が小学生の保護者の方たちにバレたらどうなるだろか。
さっきまで良さそうなお父さんコーチとして見られていたが
「あの人、子供たちに指導しているけど都市伝説好きらしいよ」などの話が保護者の中で回ったら
かなりのイメージダウンだ。ちゃんと、サッカー教えてるのかと不安にもなり
都市伝説の話を布教してるんじゃないかと想像してしまうだろ。
もしかしたら、近い将来に関暁夫と同じような髪型にしてしまわないかも心配だ。
ある日、僕が風呂を上がってから交代で父親が入る時があった。
風呂の中で音が聞こえたので耳を澄ましていると、シャワーの音に紛れて都市伝説の動画を流していた。
風呂の狭い個室であの空間だけが異世界となり父親はそこでパンドラの箱を開けているのだ。
その時だけは僕は風呂の中に用があっても扉を開けてはならない。
その日の夜に恐怖の中にも少し興味が湧いてきたので、つい聞いてみたら
これを読みなさいと敬語でありながら強制的な言葉で都市伝説の本を取り出してきた。
流石に分厚い本だったので次の日の朝に読まずに返却したら
父親からこれだけは覚えときなと、2025年に日本に大津波が来ると伝えられた。
信じるか、信じないかはあなた次第です。