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屋久島編〜 「同じ」

「真後ろに、いるよ」

振り返ると

石の上に乗った
一匹の猿が、
茶色と金色が混じった
透き通ったガラス玉のような丸い瞳で
同じように石に腰掛けておにぎりをほおばるわたしを見つめていた。

フサフサとした
艶のある薄茶色の体毛が
微風に揺られていた。

「あなたは、ぼくと同じ?ちがう?」

「あなたは、こわい?
こわくない?」

たくさん話しかけてきた。

「わたしは、あなたとはちがう。
だけどあなたと同じだよ。
わたしはこわくないよ。ただ、わたしの食糧を食べているだけだよ。」

「ふうん。あなたも何かを食べているんだ。
ぼくも今から食糧を食べるよ。」

そう言って、
足元に転がっている木の実や葉っぱを掴んでほおばった。

一線上に腰掛けた
フサフサとした小さな一匹と、のっぺりとした大きな一人。

それぞれの頬は、
詰め込んだ食糧で円く膨らみ、縦に動いていた。

お互いに、
似通った行動に滑稽さをかんじながら。

お互いの存在を許し合いながら。

しずかにそっと、
時は流れていった。

(「同じ」2024 小澤まゆか)

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