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My Favorite Things of 2024
今年もお世話になりました。
生活の変化が著しく、慌ただしくも充実した一年になりました。
皆さんはいかがでしたか。
気がつけばこのような年間のまとめを、場所を替えながら干支一回りほど続けているようです。
ここまで来たら晩年まで貫き通してみたいという気持ちも少しばかり芽生えています。
記録を残すことよりも、分かち合うことに段々と興味が移ってきているので、ぜひ「自分もこれ好きだったな」「これが面白かったよ」など、お会いした際には皆さんのお話も伺えたら嬉しいです。
Music
Spotifyによれば、年始によく聴いていたのは、Jeremiah Chiu『In Electric Time』。ポリフォニックなシンセサウンドが心地良いです。彼がJosh Johnsonらと共に参加しているプロジェクト、SML『Small Medium Large』も刺激的な即興ジャズアルバム。デジタルとフィジカルの間を模索するような音像に惹かれました。Carlos Niñoの諸作といい、最近のInternational Anthemは好みのリリースが続いています。
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夏から秋にかけては、Total Blueのセルフタイトル作を何度もリピートしました。抑制的で、浮遊感があって、肌に合う。オッパーラで遊んでいる時に、Lighthouse Recordsの平井くんから「あれはBenedekがやっているバンドらしいよ」と教えてもらってビックリしました。普段(?)との振り幅が凄い。でも、その幅、めちゃくちゃ共感できます。
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オーストラリアのバンド、Mildlifeの新作『Chorus』も期待通りの好内容。『Musica』のセルフリミックスはDJでも何度かプレイしました。早くライブが観てみたい。来日しないかな、で言えば、Isaiah Collierもそうですね。昨年の『Parallel Universe』に続き、4月に出たカルテット作『The Almighty』も非常に熱量の高い作品で聴き惚れました。顔面全体で受け止める感じのアルバム。
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前作が生涯通じてのフェイバリットな一枚となったCatbugも、待望のアルバム『Musjemeesje』を届けてくれました。これがまた透き通るように美しい作品で……。どこか知らない場所を収めた写真集を一枚ずつめくって眺めているような感覚と、すぐそこ、目の前でギターを爪弾き歌ってくれているような遠近感が両立していて、聴いているだけで溶けそうになります。
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Movie
年始のハイライトは、バス・ドゥヴォスというベルギーの監督に出会ったことでした。同時公開された『Here』『ゴースト・トロピック』の二作は、いずれも本当に些細なお話。人との出会いや関わり合いの中で生じる、言葉にすればこぼれ落ちてしまうような感情の断片を、柔らかく包み込んで、そっとそこに置いてみた、みたいな作品です。『Here』の主人公のひとりが近所の人にスープを配り回る様子を見て、この映画のジャンルを“スープ・ミニマル”と勝手に呼んでいます。
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同じ時期に、三宅唱監督『夜明けのすべて』もありました。気にかけること、声をかけ合うことについての映画。少し前なら、こういう繊細で善良な人間関係の描写に対して、現実との距離を見定めていたはずですが、今、この歳になって、素直に大切なことだなと受け止められますし、そういった理想をフィクションで描く重要性は日に日に増していると感じます。
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もうひとつ、これもまた小さな作品ですが、メキシコのリラ・アビレス監督『夏の終わりに願うこと』も忘れられません。7歳の少女が病気で療養中の父親に会うため、田舎の実家を訪ねるという、たった一日のお話。物心つくかつかないか、の頃の、“うまく表現できないけど、心の中にもくもくと立ち上がる感情の狼煙”のようなものを、大人の思い込みや決めつけを排して、誠実に描いているなと感じました。子どもは家族を含む、沢山の関係の中で育つのだなとも。糧にしようと思います。
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今年のトップ10は以下の通りです。
1.バス・ドゥヴォス - ゴースト・トロピック
2.三宅唱 - 夜明けのすべて
3.リラ・アビレス - 夏の終わりに願うこと
4.アリーチェ・ロルヴァケル - 墓泥棒と失われた女神
5.アレックス・ガーランド - シビル・ウォー アメリカ最後の日
6.ビクトル・エリセ - 瞳をとじて
7.トッド・ヘインズ - メイ・ディセンバー ゆれる真実
8.パブロ・ベルヘル - ロボット・ドリームズ
9.フリーヌル・パルマソン - ゴッドランド/GODLAND
10.イルケル・チャタク - ありふれた教室
TV Series
今年一番人にオススメしたTVシリーズは『エクスパッツ~異国でのリアルな日常~』かもしれません。かねてより“誰も悪くないけど、みんな決して良くもない”といった群像劇が好みで、これもまさに、登場人物それぞれの思い込みや自己欺瞞が複雑に絡み合うことで、状況がどんどん取り返しのつかない方向に転んでいく、という作品です。冷たくも美しく聳え立つ香港のビル群も見もの。エピソード5は白眉の100分間!
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そのほか、皮肉に次ぐ皮肉に苦笑いするしかない『THE CURSE/ザ・カース』、谷田歩演じる戸澤の凄みにノされる『TOKYO VICE』s2、凍てついた景色と拗れた性格の人物ばかり出てくる『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』、コリン・ファレルの憑依芸とクリスティン・ミリオティの悲哀に魅せられ続ける『THE PENGUIN』など、今年も充実したシリーズが目白押しでした。
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Theater
今年は残念ながら演劇を鑑賞する機会がグッと減ってしまいました。こまばアゴラ劇場が閉館してしまった影響も大きい気がします。そんな中、直近観た、贅沢貧乏『おわるのをまっている』は、5年もの間に溜め込んだアイデアと、深化した社会/人間洞察が渾然一体となって鮮やかに開放されていて、とても感銘を受けました。すごく良いなと思ったのは、主人公マリのワンサイドな話じゃないといいますか、海外赴任で明らかに浮かれていてイマイチ気が利かない夫のヨウを、突き放すわけでもなく、かと言って、同情するわけでもなく、絶妙な位置から描いているところでした。
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ワワフラミンゴ『たずね先』も唯一無二な世界観が炸裂していて、最高でした。元々、理路整然の一歩手前、というか、起承転結のギリギリを縫って紡いだような演劇が好きで、そこにバシッとミートする作品だったなーと感じます。終演後、俳優陣による『かに道楽のテーマ』と『All I Want For Christmas Is You』の合唱を聴かせていただきました。意味不明でしたが、至福の時間でした。
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9月には幸いにも、ピナ・バウシュ『春の祭典』を目撃することができました。爆発的なエネルギー、迸る生命力、とてつもない熱量の渦……どう表現をこね繰り返しても、全くもって言葉が追いつかない、驚異のパフォーマンス。かなり後方の席でしたが、観終わった後には充分過ぎるほど、体中に余韻が残りまくってました。
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Book
読書もまた同様、かなりペースが落ちていて、いつになく積読の量が増えていく一年になってしまいました。こればっかりは致し方ありません。
数少ない読了した作品から選ぶとすれば、まずはシェハン・カルナティラカ(訳:山北めぐみ)『マーリ・アルメイダの七つの月』。激しい内戦下にある1990年のスリランカが舞台で、もちろん全くと言っていいほど時勢に関する知識を持たないまま読み始めたのですが、幽霊となりスーッと色んなところに飛んでいく主人公の設定も影響してか、文体にも一定の疾走感があるのと、色んなジャンルを横断して行ったり来たりして飽きがこないこともあって、上下巻のボリュームがあっという間でした。ミステリーでもあり、ラブストーリーでもあり、現代史モノでもあり、ホラーっぽいところもあったり、ひとことで作品の全容を捉えることが難しく、なかなかレコメンドしづらい、けど、めっちゃ面白いです。
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デルモア・シュワルツ(訳:小澤身和子)『夢の中で責任がはじまる』は知る人ぞ知る不世出の才能による、強烈な短編集。冷静に状況を俯瞰できているようでいて、実は自分が一番焦っている、といった視点が全ての話に通底していて、共感できる部分が多々あります。その精神状態が著者そのものにも段々とオーバーラップしていくという、哀しすぎる人生の顛末が、より一層文章の魅力を引き立てているようにも感じます。訳者の小澤さんは今年『ベル・ジャー』の新訳も担当されていて、そちらも読みやすくてグルーヴのある、頭に残りやすい素敵な翻訳だなと思いました。
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また、今年はノンフィクションやエッセイにも少しトライしてみようと思い、たまたま手に取ったのが、小野和子『忘れられない日本人 民話を語る人たち』でした。東北の地に暮らす市井の人々を繰り返し訪れて、彼らが語り継いできた民話とその人生の歩みを記録するという、途方もない試み。特に印象に残ったのは、最初のうち「自分は民話を語るような年齢でもない。頼まれても困る」と言っていた男性が、祖母との思い出を反芻するうちに語り部になっていく、また語りを通して自分の人生を見つめ直していく、というチャプターでした。自分は折に触れて、誰かと語らうことで自身の精神の安寧を保ってきた節がありましたが(相手をしてくれる友人や家族に感謝です)、これからは誰かにとっての良き聞き手でもありたいと強く思うようになりました。
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Comic
夏の終わりに書店で出会った、メグマイルランド『棕櫚の木の下で』がとても印象に残っています。幼少期の記憶って、一枚絵に似ていて、流れよりも瞬間をキャプチャしていることが大半だと思うのですが、この作品はその感覚が根底に息づいている気がします。ダイナミックな筆致も読んでいて気持ち良いです。『夏の終わりに願うこと』もそうですが、子どもの感受性が育まれていく物語にめっぽう弱くなりました。
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そのほか、早々に解釈することを諦め、理屈の外で浴びるように読み耽った佐々木マキ『ゆめみるナッティー・ナンバーズ』、最も好みの類のユーモアが詰まっている榎本俊二『ザ・キンクス』(笑いの間の取り方が『マスター・オブ・ゼロ』や『アトランタ』に似てませんか!?)、こういうブロマンスの描き方があるのかと驚いた城戸志保『どくだみの花咲くころ』、今作もとんでもないところまで連れて行かれた齋藤潤一郎『武蔵野 ロストハイウェイ』、コミックジャーナリズムという表現手法の生々しさに気圧されつつ、今まさに起きている惨状と頭の中で接続しながら読み進めたジョー・サッコ(訳:早尾貴紀)『ガザ 欄外の声を求めて』など、様々なタイプの作品に出会うことができました。
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Exhibition
美術館にも数えるほどしか足を運べていませんが、国立近代美術館『中平卓馬 火―氾濫』はとても見応えがありました。中でも大病からカムバックした後のエネルギッシュな作品群が、これまでの論理的な生き様としっかり接続しているように見てとれて、これぞ人生だ!と喰らいました。
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そのほか、シアスター・ゲイツの利他的で輝かしい足跡に驚いたり、アレック・ソスの捉える人物と空間の妙に圧倒されたり、要所で記憶に残る展示に行くことができました。北海道立近代美術館のジュール・パスキン特集、沖縄県立美術館の「沖縄美術の流れ」特集、名古屋市美術館の𠮷本作次特集など、全国各地での巡り合わせも豊かな時間になりました。それにしても、DIC川村記念美術館の休館が残念でなりません。なんとかならないのでしょうか。
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Other
ゲームは全くと言っていいほどプレイできませんでした!今は購入したまま放置していた『FINAL FANTASY VII REBIRTH』を進めています。『龍が如く8』も、なんなら昨年からの積み残しの『バルダーズ・ゲート3』も『Marvel's Spider-Man 2』も全部中途半端……。そういえば『エルデンリング』のDLC(PS5版)を意気揚々と購入したのですが、自分がクリアしたのはPS4だったことをすっかり忘れていて、4,000円ほど無駄にしました。皆さんもお気をつけて。
大相撲は毎日ちゃんとチェックできた場所とそうでない場所がはっきり分かれたムラのある一年になりました。尊富士 優勝の瞬間を札幌のビジネスホテルのテレビで見届けたことはずっと忘れないと思います。最近は臥牙丸のYouTubeにハマっています。大島部屋や玉ノ井部屋の朝稽古を見学に行く回がオススメです。
来年も素敵な作品との出会いがありますように。
それでは皆さん、良いお年を!