リサーチャーのためにリサーチを回してみた話【RESEARCH Conference2024ポスターセッション発表内容】
リサーチといえば、「ユーザーのためのリサーチ」が一般的だと思います。しかし今回はリサーチャーのために、リサーチャーを対象としたリサーチをした話をします。
きっかけは、「リサーチャーが社内で少しずつ増えてきたのに、リサーチャー同士でプロジェクトを超えて情報交換する機会がなく、お互いが何をやっているか知らないなあ」とふと思ったことから始まりました。
思い立ってからすぐ、同じくリサーチを担当している2人に声をかけて週一回の定例を設けることになりました。
それまで、リサーチに関する会議はPJごとに閉じられていたので、「リサーチチーム」という枠組みでの会議自体が初めてでした。
プロジェクトを超えてリサーチ結果とリサーチのナレッジを活用するための根っこづくりに奮闘した約二ヶ月について書いていきます。自分のために詳細に書き残したいので少し長くなりました。
ちなみに、この話はRESEARCH Conference2024のポスターセッションという企画で発表したポスターの内容になっています。先に概要を知りたい方はこちら↓
リサーチャー同士でモヤモヤを共有してみた
リサーチ体制に対する個人的なもやもやはたくさんあったのですが、初めてのリサーチ定例会議を通して他のリサーチャーも同じことを考えていたことがわかりました。それまでリサーチャー同士で話す機会が少なかっただけで、実はみんなそれぞれにいろんな課題を抱えていたのだなあと思いました。
挙がった課題は大きく分けて以下の二つです。
1️⃣リサーチャーとしての問題:リサーチ方法が体系化されていない
今回初めてリサーチャー同士で定例会議を始めたくらいなので、リサーチのやり方は各々がこれまで試行錯誤してきて良い方法だと思っているやり方で進めてしまっていました。
実践で培ってきたナレッジもシェアする機会がないので、せっかく見つけた良い方法や失敗した経験なども他PJのリサーチャーには共有されないという状態で勿体無いことになっていました。また、属人化しているせいで新人のオンボーディングでもリサーチのやり方について教えにくく困っていました。
2️⃣PJチーム全体での問題:自分が担当したPJ以外で実施されたリサーチの結果について把握できていない
基本的に戦略策定に関わる各チームは自分が担当したPJのリサーチ内容しか知りません。その結果、同じようなインサイトを別々のリサーチで発見するという勿体無いことが起こっていました。社内の調査結果全てを把握するのは難しく、過去の調査結果から今後のアイディアに繋がりそうな材料がたくさん転がっているのに拾うことができないという状況でした😭
ちなみにですが、弊社はZ世代を中心に若年層の価値観を元にした戦略コンサルを行っており、これまでのリサーチもほとんどがZ世代を対象にしています。そのため、調査テーマが違っても共通のインサイトを元に各分野で追加調査をして深ぼることがよくあるんです。
例えば、「現在の若年層は親子の同質化が起きている」というインサイトを過去の調査で得ましたが、これを今後ヘルスケアやエンタメなど多岐にわたるカテゴリーで戦略に活かすことができますよね。
こういった問題から、担当外の調査で得たインサイトも効率よくインプットしておきたいと感じているのでは?という仮説が立ちました。アトミックリサーチのように、インサイトがまとまった場所があると良いのではないかとぼんやりアウトプットを想像していました。
次の調査によってこの仮説は浅はかだったな、と感じることになるのですが(笑)
リサーチャー以外にインタビューをしてみた
リサーチャーの目線での課題を洗い出した後は、リサーチャーではないけれど、リサーチ結果を閲覧・活用する社内のメンバーにインタビューをさせてもらうことに。
過去の調査資料を振り返る経験があったかを聞くと全員がYesとの回答でした。
インタビューを通して分かったことは、
仮説の「過去に得たインサイトで参考になりそうなものへピンポイントで辿り着きたい」というニーズよりは、
過去に実施した類似調査を全体的に把握したいというニーズの方が強いことがわかりました。
つまり当初想定していた、インサイトがまとまっている場所をつくりダイレクトにアクセスできるようにするという解決策はあまり意味がないということです。
インタビューでも、「自分自身で肌感を掴みたいから、必要に応じて発言録や録画から見返したい」との回答がありました。確かに、背景情報をよく理解せずにインサイトに直接アクセスできるのはリスクが高すぎるし、短絡的な考えだったな〜と反省しました。
知っている誰かが思い出さないと過去の類似調査資料にたどり着けないという現状があり、「そもそも進行中のPJに類似したテーマの過去の調査があるかどうかを知りたい」というニーズに応えねば、と思いました。
さらに、進行中のPJに類似したテーマの過去の調査があることを知っていたとしても、担当リサーチャー以外該当の資料を探すことが困難であるという問題も顕在化していました。
これは1️⃣リサーチャー内での問題:リサーチ方法が体系化されていないにも起因する問題ですが、資料の残し方が確立されておらず、各々が好きなように資料を残してしまっていたことが要因です。
以上が、リサーチャー以外にもインタビューをしてみて整理できた課題です。
二つのアプローチで課題を解決することに
リサーチのデータベースづくり
現在進行中のPJに類似した過去の調査資料へ簡単にアクセスするためのシステムづくりをしました。そのためにまずは過去のリサーチ結果を活用する人が現状どのように資料を探しているのかをリサーチし、それをもとにデータベースに加えるプロパティを考えていきました。
インタビューの議事録や録画などの一次情報はGoogleドライブ、分析の議論で作った資料はnotionに保管されており、知りたい情報の粒度によってアクセス方法が異なります。それぞれの役割を改めて整理しながら、今回の「過去の調査結果から進行中のPJに活かせるものを見つけたい」というゴールに対して最適なフローは何かを検討しました。
ここの過程まで詳細に記していくと終わらないので一部のスクショを掲載するだけにとどめますが、結果的に今回の場合はnotionに残っている資料へいち早くアクセスできる方法を考えようということに決まりました。
最終的に作ったデータベースは、各調査PJに対して、「価値観キーワード」「調査カテゴリ」「世代」というタグをつけて整理しました。
価値観キーワードとは、社内の頻出のワードで、自社調査の中でわかった特定の世代が持つ価値観を示す言葉です。弊社が生み出した独自の造語などもあり、協議中に普通に飛び交う言葉なのですが、新人の人が初めて耳にする際に困惑しているということがインタビューでわかったので、タグにしていつでもそのワードが生まれた背景がわかる資料を探せるようにしました。
その他にも、調査カテゴリや調査の対象世代などをタグ化し、「過去の調査をすべて把握していなくても、今知りたい情報がデータベースに存在するかどうかを確認できる」ようにしました。
適当に関連ワードを入力してググるときのような体験をイメージをしていましたが、とりあえずは手動でタグを作って絞り込みができるようにしました。
そして各PJの資料は調査フェーズを示すタグをつけるようにしました。
これまでのリサーチをすべて振り返った結果、残されていた資料はほとんど「キックオフ」「仮説設計」「設問設計」「インタビュー情報」「個人分析」「全体分析」の6つに大別できることがわかりました。
各フェーズに資料は必ず一つというわけではなく、例えばチーム内での協議用資料は複数ありますがすべて「全体分析」というタグに収まります。
これによって資料タイトルがよくわからなくても、その資料がどのような情報を持っているのかなんとなく把握できるようになりました。
また、インタビューを通して「派生して始まったプロジェクトが複数あり似たような名前で残っているが、それらの関係性や時系列がわかりにくい」ということがわかっていました。この課題には、「同じ調査テーマから少しずつテーマを変化させていった長期PJの場合は、同じページ内でタブを分けていく」というルールにすることで対応しました。
※写真の「3Q_第1ターム」「3Q_第2ターム」
リサーチの教科書づくり
リサーチのデータベースづくりと並行して行なったのがリサーチの教科書作りです。システムの導入だけでは全ての課題が解決されるわけではないので、ルール化にも力を入れることで社内全体でリサーチのナレッジを浸透させていくための体制作りを目指しました。
例えば、データベースの使い方や資料の残し方は教科書にルールとして記して統一させました。
教科書といっても、弊社のリサーチャーは全員がリサーチ歴3年未満で、「これが正しいやり方」と言い切れる人はいません。そのため、かなりの時間をかけてじっくり話し合いながら作っていきました。「こういうやり方で進めましょう」という言い切りはせず、これまで試してきたやり方とそれぞれのメリデメを全て紹介することで、教科書を読んだ人が状況に合わせて選択できるようにしました。
そして
インタビューなどを通して、できるだけそれまでのリサーチ結果との関わり方を大きく変えることなく課題を解決できるように試行錯誤してきたつもりではありますが、
新しいシステムやルールはチームに浸透しなければ意味がないものになってしまいます。
現在は、リサーチの教科書やデータベースがうまく活用されるのかを検証中です。リサーチ経験の浅い新人メンバーにリサーチの教科書を参考にして簡単なインタビューを実際に回してもらっています。今後は、どういう点で迷ったか、わかりにくかったかなどをヒアリングし、教科書の修正を行っていく予定です。
おわりに
この取り組みをResearch Conferenceのポスターセッションで発表したところ、たくさんの人が同じ悩みを抱えていることを話してくださりました。「自分の会社でもやってみよう」とポスターの写真を撮って帰られる方も何人かいて嬉しかったです。
ただ、私たちの取り組みはあくまでも社内でリサーチをしっかりと回し、何度も何度も話し合いながら一番良い形を模索していった結果です。notionを使ったのも普段からメンバー全員が使い慣れているツールだったからですし、リサーチの教科書の作り方も弊社の調査内容の特徴に合わせて整理していきました。なので、そのまま模倣していただくよりは自社に合わせた最適なやり方を検討していただくといいかなと思います。
今回は限られた時間の中でまずはミニマムに解決することを目標にしていたので、一旦諦めたポイントもあり、これからも改善を続けていこうと思っています。弊社のリサーチャーもどんどん増えているので、リサーチチームの体制変化にともなってデータベースも使いやすく作り替えていければいいなと思っています。
最後まで長い文章を読んでいただきありがとうございました!