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余白あるミッションが企業の輪郭をつくる:Galapagos Supporters Book⑫(前編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第12弾は、今回のシリーズAからガラパゴスに株主としてご参画いただいた、THE FUNDを運営するシニフィアンの朝倉さんです。

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■朝倉祐介 プロフィール
シニフィアン | 共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の調教育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社を経て、大学在学中に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを創業。同社では、Post-IPO/Pre-IPO双方のスタートアップを対象とする経営支援事業、並びにIPO後の継続成長を目指すスタートアップを対象とした産業金融事業を通じて、スタートアップに対するリスクマネー・経営知見の提供に従事。主な著書に『論語と算盤と私』『ファイナンス思考』。
政策研究大学院大学客員研究員。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

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C向けのブランド力と新規事業のポテンシャル

ーー最初に朝倉さんの自己紹介をお願いします。

朝倉:シニフィアンの朝倉と申します。「THE FUND」というグロースキャピタルを運営しており、ガラパゴスさんにはシリーズAラウンドから参加いたしました。新卒でマッキンゼーに入社後、学生時代に仲間と作ったスタートアップが(当時はベンチャー企業とよんでいましたが)資金調達をするタイミングで代表に就任しまして、その会社を売却する流れで入社したのがミクシィです。

中平:今日の主なテーマとして、祖業がありながらも新規事業がブレイクしていく場面においてどう未来へ向かっていくべきか、朝倉さんのご経験をもとに伺っていきたいと思っています。まずは、ガラパゴスという会社、メンバーに対してどのような印象をお持ちかお聞かせいただけますか?

朝倉:Slack等々でも日々やりとりしていますが、非常にフラットでオープンな文化を志向されている組織、という印象を持っています。

中平:それは株主に対しても、という感じですよね。

朝倉:そうですね。良い話も悪い話も、内容に関わらず積極的に開示していこうとする姿勢を感じます。これはラウンドに参加して以降も、参加する前の投資検討のやりとりを通じても感じたことです。中平さん含めた経営メンバーの方々にも浸透している印象があります。

中平:朝倉さんとお話していて、我々にとっての祖業、具体的にはアプリ開発事業(AIR Design for Apps)に対して気を配ってくださっているんだなと感じる発言が多くて、感謝してるんです。

朝倉:そうなんですか?

中平:デューディリジェンスの過程で、粗利率が格段に良くなっているのを見て「現場のメンバーが搾取されている懸念はないか」と聞かれて。「より良い待遇ができるよう努めている」とお答えしたのですが。朝倉さんに対して勝手にクールなイメージを抱いていたので、人に対する温かみというか、現場への心遣いに良い意味でのギャップを感じました。

朝倉:血も涙もない銭ゲバなので...お持ちのイメージで合っていると思います(笑)

中平:ミクシィさんでの改革によってそんなイメージができあがったんでしょうか(笑)

朝倉:それは強いでしょうね。

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▲ 競走馬の調教師をしていた過去を持つ朝倉さん。かつて働かれていた日高育成牧場を今でも大切に想われています。

中平:当社の場合、祖業のアプリ開発事業がある中で、2019年9月に広告デザインの事業が立ち上がりました。その事業を成長させる過程で、やはり血を吐くほどに大変なことが沢山あったんです。朝倉さんはミクシィの社長に就任後、停滞していた組織とサービスを革新されたご経験をお持ちだと思います。特に「モンスターストライク(以下モンスト)」が大ヒットしましたが、当時のミクシィには、新しいものが生まれる土壌があると感じていましたか?

朝倉:非常にポテンシャルが高いとは感じていました。優れたエンジニアがたくさんいましたし、資金も十二分にありました。具体的には100億程度ありましたからね。あと、強烈なブランド力。僕自身も元々はド零細スタートアップの経営者をやっていたからわかりますが、それって喉から手が出るほど欲しいものじゃないですか。

中平:欲しいですね。

朝倉:零細スタートアップのサービスだと、最初は誰も見向きしてくれませんが、既にブランド力を持つ、特にtoCサービスの強い印象がある会社がサービスを生み出せばみんな着目してくれる。これを活かさないのは本当にもったいないと感じていました。

中平:とはいえ、すでに出来上がっているブランドが足枷になるというか、新しいものが生まれにくい状況もきっとありますよね。そこにはどのようにアプローチされてましたか?

朝倉:環境を変えようという考えはあったと思います。前提をお話すると、ミクシィって非常に先進的なサービスを作ってきた会社なんです。それこそ祖業は「FIND JOB!」というWEB系人材の求人サービスです。あとはプレスリリースサービスの「@press」は元々イー・マーキュリー(ミクシィ設立当時の社名。2006年に株式会社ミクシィへ社名変更)が作ったものですし、実はSNSにたどり着く前に様々なサービスを生み出して、いい感じのヒットを当ててきた会社だったわけです。そういう経緯から、本来はアントレプレナーシップ(起業家精神)に満ちた組織だったんじゃないかと感じていて、どうしたらそれを取り戻せるのか、試行錯誤していました。

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既存事業のアイデンティティと変化の障壁

中平:おそらく、会社全体として8割9割の社員が既存事業に関わっているから、新しいことを生み出す気概のある人って少数派なわけじゃないですか。新規事業を生み出そうとする時に起きやすい現象が、他部門から冷たい目で見られるという...。

朝倉:ありますね。

中平:ミクシィは当時どういう雰囲気だったんですか。

朝倉:既存事業以外のことは、なかなか考えにくい環境ではありました。面白いことに、僕が入った頃のミクシィって、例えば営業利益でいうと1/3を「FIND JOB!」が稼いでいたんですよ。

中平:え!それは意外ですね。

朝倉:ミクシィと言えばSNSの会社だという印象がありますよね。でもSNSを担当している部門の営業利益が下がる一方、それを下支えするかのように「FIND JOB!」が稼いでいるわけです。だけどその事実は社内でもほぼ認知されていないんですね。なぜならば当時、96〜97%程度の社員がSNS事業に携わっていたわけですから。

中平:ものすごいアンバランスですね。

朝倉:そうなんです。3%ぐらいの社員で、33%の営業利益を叩き出す事業をリーンに運営している、実はそういう会社だったわけです。

中平:へー!

朝倉:社員も、自分たちの会社は「 SNSを開発し運営する会社」だというセルフイメージを持っているんです。外部、つまり一般ユーザー、あるいは市場関係者から見ても同様ですよね。かつ、SNS事業を強化するために人を採用し続けているわけです。古くからいる人は、祖業から事業の変遷も見ているから、過去に変化を体験しているんですね。「新しい事業ができたり、事業の軸足が移っていくこともあるよね」って。

中平:「変化は当然あるだろう」と。

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朝倉:そうそう。そういう人たちは歴史を経験しているんだけれども、新しく入っていた人たちは新卒でも中途でも、出来上がったSNS事業に携わるということを前提にして入社した人たちなんです。

中平:なるほど。

朝倉:変化の過程を見ていないから、そこから飛び出して新しいものを作るプロセスがイメージしにくいんですよね。

中平:初めてのことですしね。

朝倉:成功体験が大きいほどに「既存事業を維持すべき」と思ってしまうのは無理のないことで、特にSNSの観点では当時日本ナンバーワン、誤解を恐れずに言うとほぼオンリーワンに近い状態でしたから。そんな中でTwitterやFacebook、LINEのような新しいバリューを提供するプレイヤーが出てきたんです。そこからは大変ですよ。

コンセプト設計にはノータッチで同質化戦略を推進

中平:「私たちはこうである」という、固定観念にも近い自信みたいなものが出来上がっている状態の中、朝倉さんは入社されたわけですよね。

朝倉:そうですね。

中平:それはそれは大変だったろうと思うんですよ。最初にどんなことに取り組まれたんですか?

朝倉:役員に就任する以前の話ですが、SNSの利用実態がわからない状態だったので、ユーザー流入の可視化とか、インテリジェンス的な機能を実装したりするところから始めたと記憶しています。

中平:SNS事業の改善を推進したりとかは?

朝倉:そこは携わっていないです。誤解なきように申し上げると、僕はサービスのコンセプト作りや設計には一切タッチしないと決めていたんですよ。

中平:なるほど。

朝倉:実はそういう話自体は好きなんですけどね。僕はエンジニアではありませんが、自分でもC向けサービスのコンセプトを作ったりしていましたし。学生の時起業したネイキッドテクノロジーという会社は、僕以外のメンバー全員理系の研究者でした。「未踏プロジェクト」(情報処理推進機構が主催する「未踏ソフトウェア創造事業」)の研究テーマをベースに事業を作っていて、一番最初にやったのは2006年、テーマは「ソーシャルグラフを活用したマーケティングエンジン」。

中平:早い・・・早すぎる(笑)

朝倉:そう、早すぎて時代の先を行ってしまったんです(笑)今でこそ「ソーシャルコマース」と言いますが、我々は「ソーシャルデパートメント」と言っていました。やや話が脱線するのですが、開発実験のために、携帯専用の SNSなども作っていたんです。ガラケーの時代にですよ。サービスのコンセプトは色々考えましたが、当時SNSと言えばミクシィで、「日記は書くのが大変だから、短文でいい」と「つぶやき」にして、かつ、タイムライン形式にしたんです。

中平:ほぼ、あれですね(笑)

朝倉:たしかTwitterのローンチが2006年の7月で、僕らが出したのが2006年6月なんですよ。

中平:おお、勝ってる(笑)

朝倉:実は僕らの方が早かったんです。世界初のつぶやきサービス(笑)あくまで自称ですけどね。そういうサービスって世の中にごまんとあったでしょうから自慢にはなりませんが、ネタとしてよく話してます。

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中平:根本としてはサービス開発や研究がお好きだということですね。

朝倉:そうですね。一旦就職をしてからネイキッドテクノロジーに戻った時は、ガラケー向けのミドルウェアのサービスを作っている会社でしたよ。詳細は割愛しますが、同一言語から、同一のアプリケーションを、異なるキャリア・デバイスに展開できるミドルウェアです。

中平:なるほど。

朝倉:言語を作るって、自信のある学生がやりたがることですけど(笑)ネイキッドテクノロジーはそういうことをやっている会社でした。ライセンスを提供して、自分達でTwitter クライアントを作ったり、オリジナルSNSを作ろうとしたりとか。現在シナモンのCEOである平野が共同創業者でしたが、彼女は「スマホでキャリアメールはダメだ。カカオ(カカオトーク)がいい」と当時頻繁に言っていたこともあり、メッセンジャーアプリを作ろうとしたりもしていましたね。LINEも、最初カカオのスクショから想起されたという逸話がありますが、僕らも2010年末〜2011年初頭あたりは、そういう話ををずっとしていました。

中平:SNSが好きではありながら、ミクシィでは自分の意向を捨てて、サービス思想の議論には入らなかったということですね。その時は事業部長とかに任せていたんですか?

朝倉:そうですね。執行役員に就任して以降は、基本的にSNSのサービスコンセプトには立ち入らないようにしていました。それ以前の平社員当時も、SNSには携わっていませんでしたね。

中平:そう言いながら、当時不甲斐ない経営陣に対して、「全員辞表を出してください」と伝えた話は有名ですよね。

朝倉:実話ですが、当時のミクシィの人に怒られるので最近、話さないようにしています。

中平:じゃあやめときましょうか(笑)当時の経営陣とのそんなやりとりを経て、社長に就任されました。その時、ゲーム事業の種はすでにあったのでしょうか。

朝倉:執行役員の頃にDeNAさんとゲーム事業に関する事業提携を進めましたが、これが発端ですね。SNS上のゲーム運営事業に関するモバゲーとの連携ですね。当時、ミクシィもサードパーティーアプリを自社SNS上で展開しており、その意味でDeNAさんは同業者。一般的には「差別化戦略」を推し進めますが、僕は「同質化戦略」を遂行しました。一言で言うと、運営を全部DeNAさんにアウトソースしたんです。それから社内の空いたリソースを使って、スマホアプリのゲームを作る方に舵を切る戦略をとりました。

中平:なるほど。新しい種は、ゲーム以外にもありましたか。

朝倉:ありましたよ。買収案件もいくつか進めましたし、自社でも新たに事業を創出しようという取り組みを行いましたね。元々笠原さん(ミクシィ社現取締役/ファウンダー)が「新しくプロダクト作りをやりたい」と仰っていたので、そうしたことができる環境を整えると同時に、社内から新規事業を起こせる制度づくりなどを行いました。

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▲ 北海道で運営されている牧場にて。大事に育てている愛馬との触れ合いはリフレッシュの機会に欠かせません。

後編に続く(リンクは以下)

▲先日発売された朝倉さんの新刊。イラストや具体例を交えながら、経営に必要な仕事術について分かりやすく解説されています。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)