まだ終わっていない。まだ終われない。
11月12日、第32節・アウェイ琉球戦。
前半終了間際にクロスから得点し先制するも、受け手に回った後半に自軍ファールからPK、FKを立て続けに沈められ逆転負け。
沖縄市比屋根のスタジアムには、FC琉球の勝利を称える「勝利のうた」が流れていた。
『勝利の歌を歌おうよ いつかその夢叶うから』
『生きてる喜び感じよう 今の自分を信じて』
大音量で流れる曲、楽しそうに踊るチア、大勢のホームチームサポーターの手拍子、エイサー仕込みの指笛。お祭り騒ぎの様相だった。
その中、静かに行なわれた、敗者・SC相模原の挨拶。
スタンド、選手・コーチ、両者の誰一人として何も言葉を発することすらできないまま、我々は向き合った。
キャプテン・瀬沼優司が手を挙げ一礼し、皆もそれに揃って一礼した。
やっと金縛りが解けたかのように、パラパラとした拍手の音と、叱咤の声援が飛んだ。
試合後、悔しさとやるせなさを押し殺すために噛んでいた下唇が切れていた。
今季、敗れたあとの辛い後ろ姿を何度も見てきた。
沼津・金沢・奈良・山形・今治・松本・八戸・大宮、そして琉球。
悔しくて写真を撮れなかった試合の方が多い。
全身が沸騰するかのように頭に来て、笛が鳴るや否や、アウェイスタンドを飛び出して帰った試合もある。
勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。
去年の勝てなかった時期も、今季上位キープしていた時期も、ずっと同じ思いだった。
そのはずだったが、八戸戦、アウェイで立て続けに後半追加時間に決勝点を叩き込まれて連敗を喫した時、僕はブレた。
純粋に、「このチームは負け癖がついた。もう昇格は無理」だと思った。
新八戸駅へ向かうバスの途中、このチームの去年からの道程を思い返していたら、悔しさとやるせなさに感情を全てかき乱され、気付いたら出涸らしになった心だけが残っていた。
個人的には今季は昇格するつもりで応援していた分、昇格を無理だと思ってしまった手前、僕にはもうスタジアムに行って応援する資格がなくなったと思った。
あの頃は、自動昇格の可能性がだいぶ厳しくなり、ファン・サポーターの間、またチームも目標が個々にブレていたように感じていた。
僕自身、感情の折り合いがついていなかった。
当然今もついていないけれども。
けれど、すがれる何かが欲しかった。
10月2日、SC相模原は終盤戦スローガン、『#VOLLGAS 〜全身全霊』を発表し、改めて昇格に向けて残り試合を勝利目指し全力で戦うことを表明した。
正直なところ、この発表にも思うところが無いと言えば真っ赤な嘘になるが、兎にも角にもクラブの方針は示されたので、僕はそれに従って、改めて昇格に向けて応援しようと思い直せた。
けれど、一度勝負の女神からそっぽを向かれてしまったチームは上手くいかないのが常。アウェイ大宮・ホーム北九州・アウェイ琉球で泥沼の3連敗を喫した。
また、サマーブレイク後の9節に絞ってみれば、2勝1分6敗。得られた勝ち点はわずかに「7」。
とても汚いことばになってしまうが、もはや今のSC相模原は「今まさに沈みかけている船」のようにしか見えない。
なぜ勝てないのか。どうしてこうなったのか。思いは巡る。
色々な人から意見を聞く。その中で、自分が感じていることも当然ある。
大抵そうした話になると、議論は何パターンかの推測に帰結し、虚しさのみが生まれる。
こんなはずじゃなかった。
また空虚な気持ちに支配された僕は、ふと今季のSC相模原が最も輝いた試合、第18節・松本山雅戦のインサイド動画を見返した。
松本に2点を先制された後のロッカールーム。
どんな時でも頼れる、俺たちのキャプテン瀬沼優司がチームを鼓舞していた。
「1点ずつ返していこう」
「ひっくり返せるぞ」
「ひたむきに戦っていれば、絶対自分たちにもう1回流れ来るから! 」
「皆で気持ち強く持って!ひっくり返すぞ!」
夏以降、納得のいかないことが沢山ある。天を仰ぎたくなるようなプレーやチームの姿も多くある。
見放してしまいたくなる気持ちになることもある。
けれど、誰よりひたむきで、誰よりチームのことを考えている瀬沼キャプテンの言葉を聞いていたら、涙が溢れてきた。
そう、まだ何も終わっちゃいない。
このままで終わるわけにもいかない。
当然、戦局は圧倒的に不利。上昇の機運も掴めていない、厳しい戦い。
普通の「全身全霊」で戦っても望む結果は得られない可能性の方が高いだろうし、とてつもないパワーで臨んでも行けるかどうか、もう分からない。
落ち込みたくなるし、見放したくもなる。
けれど、もうこのチームにやってもらうしかない。
他の選択肢はない。過ぎた時間は帰って来ない。
時間は常に今から未来へ向かって流れている。
普通に考えたらとても厳しい。
けれど今はもう可能性の話をする段階ではない。
より良い結果が得られるよう、全てをぶつけるしかない。
打算も計算も無い、ただただ愚直な戦いへ突き進むしかない。
「ひたむきに戦っていれば、絶対自分たちにもう1回流れ来るから! 」
「皆で気持ち強く持って!ひっくり返すぞ!」
行けるか、行けないかの問題ではない。やるしかないんだ。
だからもう、僕も信じるしかない。
SC相模原はまだ終わってないし、終われない。
何も恐れずに、全てをかけて、ただひたすらに、前へ。