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欠けていたもの

2024年11月15日、大阪。
0-1で敗戦し、2年前の冬から始まった、SC相模原のJ2復帰への道筋が絶たれた。

スタイルを失い、色を失い、勢いを失った夏場から秋。
昨夏、もう負けてたまるかと涙を流していたこの場所で、この2年弱の旅の終焉を迎えた。

6月の監督交代の是非は言うまでもない。博打を打って勝負に臨んだ以上、結果が全て。


今節の敗因がそれだけとは言わないが、退場者が出た時点で「ああ、負けるんだな」と感じた。
クラブの一番の目標である昇格に向かって徳俵に足がかかった状態で、チームを引っ張るはずのベテラン選手がプレー以外の言動によって退場になるということは、チームもその程度の覚悟だったのではないか、と思わざるを得ない。


6月のホーム松本戦、戸田前監督の解任からパニックが収まらないまま迎えた試合。
魂のフットボールとスタジアムの一体感で逆転勝ちを収めたあの時、これは行けるぞと確かに思っていた。
しかし、そこから状態が上向くことはなかった。

シュタルフ監督を迎え、それまでの堅守型のチームから点を取って勝てるチームへの転換を図った。
多くの選手を夏移籍で迎え、8月の中断期間明けは別のチームとなっていたが、ついぞこのチームの理想の姿を見ることはなかった。

チームは守備のルールと人員を変えた結果、軽率なミスから生まれた綻びを突かれる失点が激増した。
去年からの叩き上げの選手と、新加入してきた選手のズレも期間を経るに従って少なくはなってきたものの、完全に埋まった訳ではなかった。
美しくデザインされた得点は幾分増えた印象があるが、それに伴って支払った代償がとても多かったように映った。

個人的に何より気になったのは、チームから勢いが失われたこと。
負けていても、控えの選手がピッチの選手を鼓舞し続けるあの姿勢が、9月頃から消えていったように思う。
当然だと思う。8月にアウェイで2戦連続で後半追加時間中に決勝点を挙げられ悲劇的な敗戦を連続で経験し、今の相模原には「負け癖」がついてしまった。

もちろん、チームのために汗をかき、走って、もがいた選手・スタッフが沢山いたことは分かっている。その部分は手放しに感謝の念しかない。

けれど、あれがいいこれがいいとブレた方針を提示した状態で頑張って結果が出るほど、きっとこの世界は甘くない。


終盤戦スローガン、「VOLLGAS」を発表した際、西谷社長は「SC相模原こそが、J2昇格を手繰り寄せるに相応しい存在」とのコメントを残していたが、それは明確に違うと断言できる。

どのチームも、持てるリソースを尽くし、昇格を目指して本気でひたむきにしのぎを削っている。
独自のスタイルを貫くチーム、不器用なまでに一辺倒の戦術に拘るチーム、他のクラブの何倍もトップチームに予算をかけるチーム、着々と何年もかけてスカッドを組成・成熟させていくチーム。
方針がブレて、勢いを失ったクラブがそこに割って入る余地などない。
率直に、他の昇格を争うクラブに対して失礼だと思った。

昇格を目指す他のクラブにはあって、相模原にはなかったもの。
"覚悟"の差を感じた。

終盤戦スローガンが発表された時、その疑念は益々大きくなっていた。

「VOLLGAS 〜全身全霊」というスローガン自体は否定したくない。
クラブとして熱を高める共通の合言葉は必要だし、ビジネス的な側面からも、間違ったことはしていなかったと今も思っている。

けれど、スローガンを発表したタイミングに失望していた。
発表は、ホーム北九州戦の数日前だった。

あの頃のSC相模原は既に崖っぷちで、前節はアウェイで、首位・大宮アルディージャとの試合があった。
ビジネスとしてはホームゲームの前で発表をするのは間違っていないし、準備期間の段取りもあっただろう。

けれど、そうして設定されたあの発表日を迎え、「大宮には最初から勝つ気がなかったのか?」と思った。
あの沈みに沈んだチーム状況から脱するには、アウェイで今季J3リーグ最強の大宮を叩くくらいの気概を持ってクラブも終盤戦に臨むしかなかったのではないか? と今でも歯噛みしてしまう。

結局、VOLLGAS発表後初の試合となったホーム北九州戦は3失点で完敗を喫し、結果的にクラブと現場の一体感はより無くなったように傍から見てて映った。

とはいえ、失った勝ち点は戻らないし、今季積める勝ち点はもう最大3ポイントしかない。

我々は、勝負に負けた。


誰かの進退やクラブの体制について僕が言及するのはおこがましいとは思うものの、ひとつ言えるのは、
「もう、二度とこんなシーズンを送らないでほしい」
ということに尽きる。

SC相模原は、強さが売りのクラブではない。地元に完全に根付いている訳でもない。
その中で、このクラブが現在地域やファンに対して提供しているものは「夢」に他ならない。
このクラブが大きくなる道のりを見守りたい、あの選手が頑張ってるから自分も頑張ると思い直したい、いつかあの有名なスタジアムで多くの人と一緒に身が震えるほどの大きな声援を送りたい。
思うところは人それぞれだが、誰も彼もみんな、そういう「夢」を抱いている。

しかし、そんな多くの人の夢は、あっという間にしぼんでいった。
僕にはSC相模原以外に魂を捧げるクラブはいないけれど、そうではない人もたくさんいる。
他の用事の合間に来る人、ユニークなプロジェクトに惹き付けられ心踊った人。
そんな人達が抱いていた夢を、SC相模原は壊してしまった。

2年前、たくさんの言葉で夢を語っていたあの頃。誰しもが浮かれたと思う。
しかし、方向修正し徐々に期待がしぼんでいく中、チームに対する説明や、これから先の練習場やクラブハウスなどに関する説明も何もなかった。
目の前に広げられていた風呂敷が畳まれない、このやり切れない思いが分かるだろうか。

こうした人たちは数の多寡こそ分からないが、間違いなくいる。
きっと、その人たちがスタジアムに戻ってくる可能性は低いと思う。

「サガミスタ倍増」を掲げたシーズンで、結果的にファンを減らしてしまう機会損失を起こしてしまった。
シーズン終盤の勢いを失ったホーム・ギオンスを見ると、焚き付けた熱は冷めるのもあっという間だと感じた。

大した経験こそ無いものの、根っこの方針がブレたプロチームが良い結果を掴み取るシーンを、僕はスポーツで見たことがない。
チームを変える決断をするにしても、もっと早いタイミングで舵を切るという選択肢もあったのではないか。兎にも角にもタイミングがあまりに中途半端だった。
あんな有り様で、結果を掴めるわけがない。


試合後のアウェイ応援スタンド、目の前にある手すりにうずくまって泣いたあと、多くの人と無言もしくは簡単なことばを交わして両手で握手した。

西谷社長がスタンドに上がってくるところに出くわした。
無言で握手し、お互い肩を叩いた。沈痛な表情だった。

 
誰に真の責任があるのか、正直僕には分からない。
けれど、選手には選手の、ファン・サポーターにはファン・サポーターなりの、監督には監督の、クラブやその責任者にはその肩書きなりの責任がある。
もしかしたら、僕が感知できていないところにも何かがあるのかもしれない。
僕にそれは分からないし、きっとこれから先も分かることはないだろう。

けれど、もう二度とこんなシーズンを送ってほしくない。
誰かが責任を取って腹を切って、来年以降クラブが間違いなく変わるのであれば、責任を取ってほしい。
けれど、誰かの引責があった上で、未来のSC相模原が変われなければ、それは意味が無い。

誰かに責任を取って辞めてほしいわけじゃない。クラブに変わってほしいんだ。
その結果が腹を切るということであれば賛同するけれども、過去の清算ではなく、未来のためにこのシーズンの始末をつけてほしい。


多くの夢を持った選手が集まった。
2年前、魅力的なプロジェクトに心が踊った。
このチームならいけると思ったことが、何度もあった。
けれど、結果はこうなった。

最終節の後、また厳しい冬がやってくる。
今のクラブに欠けているものを認識し、また新たに戦うしかない。
時間は前にしか進まない。大きくなると決めた以上、もう後戻りはできない。

覚悟をもって、戦おう。


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