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相模原の漢、瀬沼優司

地元である相模原で戦うことのできたこの一年半、一瞬たりとも後悔がないくらいピッチ内外全力で過ごしました。

引退コメントより

「一瞬たりとも後悔がない」
この言葉に嘘偽りが微塵もないことは、SC相模原での彼を応援した人であれば、全ての人が理解できると思う。

2023年の夏、栃木SCからの期限付移籍での加入が発表された時、
「あの瀬沼じゃん」
と驚いた。

話は2021年の11月に遡る。
相模原がJ2残留争いをしていた時、僕は瀬沼優司という選手を知った。

ホーム最終戦、順位争いをしていたらツエーゲン金沢が劇的な勝利を飾ったのをギオンス帰りにDAZNで眺めて絶望した。
相手選手をかわしてそのまま敵陣内を単騎独走、GKとの一対一を制してゴールへボールを流し込み、そのまま歓喜に沸く金沢サポーターの待つゴール裏へ一直線へ駆けていく姿が強烈に印象に残っている。

ゴールを決めた金沢の背番号10の選手、瀬沼というらしい。調べたところ、相模原出身の選手だった。
何の因果か、SC相模原のJ3降格を色濃くしたのが地元出身の他クラブの選手であることを知り、苦虫を噛み潰す思いだった。

1年半の時を経て相模原にやってきた時、そうした因果・経緯を飲み込んだ上で入団を決めてくれたことがとても嬉しかったことを覚えている。
迷うことなくユニフォームに39番を圧着した。


SC相模原の瀬沼優司という選手を語る時、何をどうしてもそのキャプテンシー、人間性を外すことはできない。

常にチームのことを考え、常に勝利を目指し、常にファン・サポーターに寄り添う姿に心打たれた。
書くだけなら簡単だが、毎日、毎瞬、それを続けるのは容易なことではない。

ピッチでは常にチームの先頭に立ち、猛然と相手に迫った。瀬沼がいると守備が締まる感覚があった。
途中交代してベンチに下がってからもずっと立ち上がり、戦う仲間に声をかけ続ける姿が格好良かった。

前監督・戸田和幸氏は「キャプテンは彼以外いない」と太鼓判を押して、2024年シーズンは期限付移籍の選手でありながらチームキャプテンを務めた。

2024シーズン、アウェイでは発狂したくなるような悔しい敗戦が多くあった。
アウェイの敗戦後の挨拶はとにかく辛い。選手もスタンドも、半分以上が下を向いたり茫然自失とするような試合もあった。

けれど、瀬沼だけはどんな試合のあとも毅然と前を向き、我々の顔を見て深々とお辞儀をしていた。

アウェイの移動中、駅や空港でチームと遭遇してしまうことがある。
そういう時は距離を置いてそっと見ていない振りをしてやり過ごす。

けれど、瀬沼はチームのグッズを身につけている人を見つけると、自分から声を掛けに行くと聞いたことがある。
遠い中応援に来てくれたことへの感謝、次節も勝利目指してまた練習に励むことをあの真摯な姿勢で伝えて、両手で握手をするのだという。


瀬沼の人間性を称えるエピソードは枚挙に暇がないけれど、最たるものは今季8月のアウェイ八戸だと僕は思っている。

遠いアウェイの地、ベンチメンバーから外れていたのを見て「瀬沼がいないアウェイは心細いな」と少し気を揉んでいた記憶がある。
しかし、フィールドプレーヤーのアップの際、チームキャプテンとして挨拶をしたのは、ベンチ外の瀬沼優司だった。

首からはチームスタッフの入館証を提げて、サポートメンバーとして試合前ウォーミングアップに参加していた。
アップの列には加わらず、フィジカルコーチと共に出場する選手に声をかけて盛り立てる姿に心打たれた。自然と涙が出た。

これだけ、実直に「献身」を貫けるアスリートを僕は他に知らない。
自身もプレーで飯を食う中、サポートメンバーとして遠征帯同することに葛藤があったであろうことは言うまでもない。
しかし、その折り合いをつけて遠いアウェイで俺達の瀬沼がキャプテンとして居てくれること。

まるで後光が差しているかのように尊い存在になった。


相模原でのプレーを見ると、全盛期よりも幾分スピードが落ちているように見えた。
走り方を見るに、治らない怪我と付き合っている箇所があったのだと思う。

それでも、シーズン終盤に差し掛かるとプレーは鋭さを増し、替えの利かない身体を張って、「献身」をその身をもって示していた。

地元出身、[Alexandros]の閃光のメロディに載せた個人チャント、
「相模原の漢 瀬沼優司」
「俺らの瀬沼 俺らの瀬沼 俺達の瀬沼」
という歌詞を聞く度に涙が滲むようになった。

引退という事実がとても寂しいし悲しい。
昇格を実現して、満面の笑顔になる僕たちのキャプテンの姿が見たかった。

もうせぬさんが率いる相模原が見れないと思うと、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになる。
けれど、誰よりも誠実で誰よりも真摯なせぬさんの決めたことなのだから、きっとそれが正解の選択なんだと思う。

チームの為にあれだけ尽くした選手がいたことを僕は忘れない。
いつか相模原がもっと大きいクラブになった時、「昔のSCSにはこんなに最高のキャプテンがいたんだ」と語り継ぎたい。そんな選手。

まだまだ寂しさは拭いきれないけれど、
「俺達の瀬沼」「相模原の漢 瀬沼優司」のまま、僕たちの記憶に永遠に刻まれる事実が少し嬉しくて。

尊敬、敬服、崇敬。
どんなに探しても、せぬさんを称える言葉には相応しくない。それだけ大きく尊い存在。
貴方のその姿勢、真っ直ぐな目、献身性に何度心が救われたことか。

せぬさん、次のステージでもご活躍されることを祈念しています。
そしてまたいつか、このクラブで共に見た夢の続きを歩める未来があることを願っています。

せぬさんの前途に幸多からんことをお祈り申し上げます。
瀬沼優司選手、現役生活、本当にお疲れさまでした。

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