サッカード素人の相模原市民が、専スタに心動かされ夢を見た話
オリジナル10。
1992年のJリーグ発足時の、最初の10クラブ(鹿島、浦和、市原、ヴェルディ、横浜M、横浜F、清水、名古屋、G大阪、広島)のことをそう称するらしい。
日本サッカー界を中心となって牽引してきた、由緒ある伝統クラブたち。
その一角、ジェフユナイテッド市原・千葉の本拠地、フクダ電子アリーナ(通称・フクアリ)を訪れた。
広い……。スタンドに屋根ついてる……。すごい。
フクアリから道路を挟んだ所には、これまた立派なクラブハウスと専用練習場が備わっていた。
最早、驚嘆の声しか出なかった。
伝統、一流、名門。そういった言葉が次々と頭に浮かんだ。
フクアリへ入場し、スタンドに足を踏み入れる。
芝、スタンド、空。
綺麗だった。
こういった陸上トラックなどのないサッカー専用のスタジアムを「専スタ」と言うらしい。
実は、この記事を上げた際に、ジェフサポーターの方々からフクアリに来て欲しい。千葉の専スタを見に来て欲しいとの声を多く頂いていた。
魅力がどんなものか分からず、今日までは少し困惑もあったが、行ってみて分かった。確かにこれは素晴らしい。
鮮やかなピッチ、大きなスタンド、スタンドを埋める蛍光イエローのジェフサポーターたち。
その色彩豊かな光景が、一つの作品のようだった。
試合に移る。
相模原は、2連敗中だった。
先週末のホーム磐田戦、週中のアウェイ甲府戦を2試合連続複数失点で落とし、厳しい状況が続いていた。
特に、4/21(水)のアウェイ甲府戦では、攻撃偏重の作戦からか、守備ミスが重なり失点をし、終始大劣勢を強いられるとても苦しい試合となった。
相模原の粘り強い守備が消えて、これまでの良かった記憶は霧散して、悪い方へずるずる引き込まれてしまいそうな、勝負の結果以上のダメージが残る後味の悪い試合だった。
そうした不安を抱えた中でのアウェイ千葉戦。
SC相模原が見せてくれたのは、あらゆる重たい空気を吹き飛ばす、会心の試合だった。
序盤に僕の推しである#9ユーリが負傷交代するなど、正直前半は重たい雰囲気が漂っていた。
それでも、相模原は持ち前の粘り強い守備が蘇っていた。
ボールを相手に持たれても、前を向かせない、自由にクロスを打たせない、シュートコースを絞る、ボックス内で競り勝つと言った、基本が徹底された堅実なディフェンスだった。
さあここからと思っていた後半7分。
#19舩木のボックス内へのロングスローを、相模原の誇るハイタワー#5梅井が頭で軽くタッチし、軌道を逸らす。
こぼれたボールを#10ホムロがゴールへ蹴り込む。キーパーに阻まれるも、ボールが空いたスペースに転がる。
そこに#27和田が猛然と走り込んで再び打ち込む。また弾かれる。
再び転がったボールを相手DFと交錯し這いつくばりながらも、身体の強い#24鎌田が必死にボールを僅かなスペースにかきだす。
そこに待っていたのは、#18白井だった。
2度のシュートで敵味方がぐちゃぐちゃになっていたボックス内で、狙い澄ました一撃が、相模原アウェイスタンド目の前のゴールネットを揺らした。
何度もトライして、挑み続けた末に取ったゴール。
身体が「立ち上がる」を超え、自然と飛び上がってしまった。
全員が長所を生かし、粘り強く泥臭く取った、相模原のスタイルを体現したような1点。
きっとまた相模原はやっていける、やってくれる。そう感じられたことが得点以上に嬉しかった。
ゴールを決めた白井がアウェイスタンドの目の前で他の選手やサブメンバーからもみくちゃにされる。
白井は今日が24歳の誕生日だった。
記念すべき白井のバースデーゴールは、SC相模原2021シーズン、開幕から2ヶ月を経て待望の「初先制弾」となった。
その後はジェフの攻勢が多く見られた。
相模原が得点した後から投入されたFWのブワニカの弾丸ロングスローは脅威でしかなかった。
何度も何度もコーナーキックを蹴られた。
94分のラストプレーとなったコーナーキックでは、ゴールキーパーの新井までもが相模原ボックス内に入っていた。
全力で周囲を鼓舞し、何としても1点を奪うという鬼気迫るものを感じた。
オリジナル10、あのジェフユナイテッド千葉が、死にものぐるいで相模原を攻め立てていた。
そんな再三の攻撃を全て耐えきり、相模原は1-0で今季2勝目、フクアリという素晴らしいスタジアムで初のアウェイ勝利を収めた。
アウェイスタンドに勝利の挨拶に来たとき、選手はもちろん、コーチ陣もとても嬉しそうだったのが印象的だった。そんな彼らを見てまた嬉しくなった。
きっとまた相模原の粘り強いスタイルから積み重ねていける。そう感じた。
一方で、降格圏内だった相模原に敗戦を喫したジェフの選手やサポーターからは無念さが滲み出ていた。
正直、気持ちはよく分かる。
逆の立場だったら、僕もめちゃくちゃへこむと思う。
ただ、そんな彼らを見て、一週間前の磐田戦で感じた憧れに似ているようで少し違う、"夢"のようなものを感じた。
Jリーグ発足時からあるジェフ。
立派なスタジアム、クラブハウスや練習場。そして30年の歴史。
あの綺麗で大きなスタジアムへジェフ戦を見に行くことは、ジェフサポーターにとってはもう当たり前のことなのかもしれない。
そして、そんな環境で上を目指して戦うチームを応援できることが、すごく眩しく見えた。
SC相模原にはまだクラブハウスや専用の練習場が無い。
平日の練習も、市内のスポーツ公園等を転々とながら活動している。
相模原は、クラブとしてもまだまだ道半ばだ。
しかし、小学校の校庭で練習をするところから始まった小さなクラブが、僅か13年でJ2という舞台でオリジナル10と堂々と戦えるまでになった。
今季、DeNAがトップスポンサーになった。
先週からは来場者に満足度を確認するアンケートを募ったり、5/9(日)の町田戦から場内演出を一新するなど、着実にDeNAの手が加わってきている。
今年発表された中長期計画によると、数年以内にクラブハウスを作ろうとしているらしい。
また、相模原駅北口の15haの広大な土地に新たな3万人規模のホームスタジアムを建設してもらうよう、クラブやサポーターから相模原市へ働きかけを行っている。
まだまだ発展途上だが、SC相模原の歩んできた13年間で積み重ねたものの内のほんの少しを今日の勝利で垣間見れた気がする。
これまでにクラブを育てて押し上げてきた人たちに過去から支えられ、今のチームがオリジナル10と同等に渡り合えるまでになったのだろう。
そして、その"今"の積み重ねが、フクアリや立派なクラブハウスを持つジェフのような一流クラブへの道へ繋がっていくのだと感じた。
いつか、鮮やかなピッチと大きなスタンドを持つホームスタジアムで、たくさんのサポーターから応援されるSC相模原を見たい。
相模原なら、きっとやれる。
一緒に大きくなってくれる。
フクダ電子アリーナとジェフユナイテッド市原・千葉。
相模原の"過去"を感じ、"今"の位置を確認し、目指すべき"未来"を夢見させてもらえた。
そんな長い時間に思いを馳せる1日になった。
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