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境界線上で怪異が騒ぐ ― 闇に手を伸ばす祓い屋ープロローグ第2話ー

Case.1「廃校」―幽影が刻む記憶―

プロローグ

prologue 廃校―異界への序曲―Ⅱ

岡山県某所ぼうしょにある、木造建築の古い学校の校舎。

古いとは言っても、廃校はいこうとなった後、地域の文化施設として再利用されることになり、全体的に近代的に改修リノベーションほどこされている。

しかし、その外観や設計は、昔ながらのおもむきを意識したデザインが残されており、どこかなつかしさを感じさせる。

廊下には月明かりが、新しい木枠きわくの窓ガラスをかして差し込み、やわらかな光と影が交差している。

新たに張り替えられた木材は、まだ新しいかおりをただよわせていた。

わずかに湿しめを含む空気が、廃校だったころの名残を思い起こさせるようにわずかに古い木材のにおいを混ぜている。

新旧しんきゅうが入り混じった独特の香りが漂う空間の中、重い静けさが廊下を支配していた。

その静寂せいじゃくやぶるのは、二十代なかば程の男女二人の足音と、時折、床板ゆかいたきしむ音。

その音が廊下に響き渡るたび、まるで建物自体が何かをささやいているような気配を感じさせる。

男性は、黒い革製のブーツにグレーのズボン、黒いシャツとジャケットを着用し、背中には登山用の40Lほどの黒いリュックを背負っている。リュックのショルダーストラップにライトが付けているためか、両の手は空いている。

女性は、同じ黒い革製のブーツに、紺色のワイドパンツと白いシルクのブラウス、やわらかなベージュのトレンチコートを着て、小さな茶色のリュックを背負い、左手にハンディライトを持って男性の横を歩く。

一見すると廃校探索や肝試きもだめしに訪れたカップルのようだが、二人の表情はおふざけ感やワクワクとしたような明るいものではなく、真剣そのもの。

二人が歩くたびに廊下の古い木材がきしむ音が聞こえる。廊下に響く足音が、不自然に耳に残る。遠くで、誰もいないはずの廊下から微かに何かが動く音がした。

二人は緊張感を帯びた目でまなく周りを観察し、わずかな違和感や、動くものを逃さないと言わんばかり。

廊下を進む中で女性がふと立ち止まった。

「......悠真ゆうま、まだ怖いの?」

唐突な問いに、悠真と呼ばれた男性は驚いたように振り向くが、彼女の表情はいたって真剣だ。

「怖いって、何がです?」

「......見える・・・ことが」

彼女の言葉に一瞬だけ目を伏せた悠真は、すぐに前を向き直りながら短く答えた。

「怖いですよ......。でも、誰かがやらなきゃいけないだけです。見える者として、はらえる者として。......それより、灯華とうかさんは、どうです?何か、感じますか?」

灯華と呼ばれた女性は、その小さい顔を、コクリと縦に動かして頷く。

「校舎は特に変なところはないかな......けど、気配は間違いなくする」

「邪悪なものですか?」

「うーん......」

悠真の問いかけに灯華は首をかしげて真っ暗な廊下の奥を見ている。

「......わかんない」

「そう、ですか。......取り合えず、行きましょう」

その言葉に灯華が何も言わないまま、微笑みながら小さく頷く。

そのまま、二人は暗い廊下を進んでいく。



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