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何だかわからないけど「ダメ」なこと

声楽業界には「とりあえず『ダメ』と言われていること」が存在します。その一つが「作り声はダメ」という論です。多くの声楽学習者にとって、これは一度は耳にしたことがある言葉でしょう。

この場合の「作り声」は、ほぼ間違いなく「声音」、つまり声の音色を指します。では、音色は本当に「作ってはいけない」ものなのでしょうか?

結論から言えば、音色は「作る」ものであり、それは声楽において最も重要な技術です。そのテクニックを確固たるものにするために、声楽家は長い学びの旅を歩み続けるのです。

ただし、音色を作る際には、作為的に聞こえないようにすることが大切です。「作る」という行為そのものを否定してしまうと、音色の調整を意識せずに行い、結果的に制御の効かない声になってしまうでしょう。

そもそも、耳に届く声はすでに自然な形で加工されています。さらに加工するのではなく、その加工をより正確に、狙い通りに行えるようにすることが声楽発声の本質であると言えます。加工自体を拒むのではなく、その過程を意識し、磨き上げることが必要です。

まずは、声帯から出る「元の音」をしっかりと把握することが不可欠です。そのベースとなる音を理解した上で、そこから自分が望む音色を作り出すことができれば、あらゆる音色を自在に操ることが可能になります。

例えば、野球のピッチャーが「投げられればどんなフォームでもいい」と考えていたら、正確に狙った場所にボールを投げることはできません。望む球を投げるためには、フォームやモーションを「理想の球を投げるために」整える必要があります。そして、ボールが手を離れる瞬間までのすべての体の動きが連動し、その結果として狙い通りの球がキャッチャーミットに吸い込まれるのです。

声も同様に、音が口から出る瞬間までの全ての過程が重要です。音色を作るとは、単なる作為的な操作ではなく、自分の体を最大限に活用し、音を自在にコントロールする技術であると言えるでしょう。

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