【2/5追記】敵対的TOBに関するいち社員のつぶやき
「世界一を目指すって、なんのために?」
決して短くない年月お世話になっている牧野フライスがニデックに敵対的TOBを仕掛けられたと知った時、自分の頭をよぎったのは上の疑問だった。
既に先達の皆様の素晴らしい状況、感情面の説明がいくつもnoteに上がっており、勇気を貰った。にぎやかしにしかならないかもしれないが、いち社員の想いがどなたかの目に触れるのは無駄ではないはずだ。
牧野フライスという会社は一般の方にはとんと馴染み薄いだろうが、日本初のNCフライス盤(プログラムにより自動で金属を加工する機械)を開発したメーカーである。
日本初、と言ったが、先がけて意見表明してくださっている諸先輩方が挙げるように、牧野フライスの精神性というものは、他を押し除けて一番を目指すものでは決してない。
ナンバーワンではなく、オンリーワン。
牧野だけではなく、従来の工作機械業界自体がそうだったように思う。
それぞれの会社にそれぞれの素晴らしい得意分野があり、例え競合していたとしても各社のカラーがある。
2年に一度開催されるJIMTOF【工作機械見本市】において、競合他社の機械を見に行くと、必ず「マキノさんですか」と言われる。
お互いに差し障りのない範囲で情報交換をして、
「これからも業界のために頑張りましょう」
と言って別れる。
そう言える自社が、そしてこの業界が誇りだった。
よく牧野といえば高速高精度、と言われるが、それだけではなく重切削でゴリゴリ削れるラインナップも勿論揃えているし、何よりそれを買ってくださったユーザー様への手厚いサービスも売りだと思っている。
正直なところ採算度外視なところがあって、明言は避けるがほぼ利益にならない機種も生産し、メンテナンスを続けている。
なぜかって、それを必要とするユーザー様がいるからだ。
ものづくりに命をかけるユーザー様達の力になりたいからだ。
牧野フライスは、常に機械を使ってくださる皆様の方を見てきた。
しかし、ニデックの主張に「中国に負けない為に」「業界トップ」などの言葉はあれど、ユーザーを見据えた言葉はひとつも見当たらない。
ニデックの傘下に入ったとして、古い機種などは真っ先に切られる対象だろう。
このTOBのニュースが入った時、真っ先に牧野ユーザーの皆様が心配したのは今後のサポート体制なのではないだろうか。
改めて問いたい。
「世界一を目指すって、なんのために?」
数字だけ見て利益率が低いと言われればそれまでだ。
しかし、この数字の中には、お客様の会社の規模など関係なく、同じものづくりをするユーザー様への敬意と互いの信頼が隠れている。
単純に体重が減ったからと喜ぶべきではない。健康状態、むくみ、筋肉量など、体重の増減には様々なファクターが潜んでいるはずだ。
同じく数字に全てが現れる訳ではないということなど、ものづくりに携わる人間ならばよく知っている。
熱、剛性、工場温度、その他諸々の要因が複雑に絡み合って大きな差が生まれる。
自分は経営に関して門外漢なので詳しく言及することはできないが、牧野のシェア、利益率、様々な数字は少なからず我々社員の愚直さと誠実さが生み出したものだと信じている。
でなければ、アップダウンの激しい業界でここまで堅実に生き残ってはいないはずだ。
"業界トップを目指す"
聞こえはいいが、木を見て森を見ていないように感じてならない。
内部にいる人間として、敢えて断言する。
牧野フライスがこうしてユーザー様達に愛されているのは、技術力が高いからだけではない。壊れるまで、壊れた後もお付き合いする姿勢を信じ、この決して安価ではない機械を買って頂いているのだ。
そして、少なからず牧野フライスに務める技術者達は、この信頼に応えようと日々努力している。
そりゃあ人間なので酒の席で愚痴が飛び出る事もあるが、大多数の社員がこの仕事に誇りを持っているし、会社を愛している。
もしも買収が成功し、創業者の理念が失われた場合、牧野フライス、ニデック、双方が考えているよりも大勢の技術者が会社を辞するだろう。
恥ずかしながら、自分自身も子を持って初めて
「自分と他人は違う価値観を持っている」
と実感した。
同じ子育て世帯でも、子供を叱るタイミング、飛行機や新幹線に乗せる年齢、テーマパークに連れて行くか否か、皆ばらばらだ。
勿論、家人とも考え方は異なる。違う家庭で生まれ育ったのだから当然だ。
それでいい。そういうものだ。
知っているつもりになっていただけで、全く理解していなかったのだ。
自分の価値観は、絶対ではないこと。
ナンバーワンになりたいという姿勢は否定しない。
代わりに、オンリーワンでありたいという姿勢も否定しないでほしい。
強要しないでほしい。
奇しくも時流に乗るかたちだが、今は
「金と権力により、弱い立場の主張が押し潰されることのない社会」
であるはずだ。
牧野フライスだけではない。
大中小、企業の規模に関係なく、すべてのものづくりに携わる技術者達の声が。
この国と世界を、より良いものにしようと奮闘する人々の声が、かき消されることのないよう願って筆を置くことにする。
【2/5追記】
本noteについて、色々なご意見をありがたく拝見した。
PRだと思われていることには驚いたが、確かにそう捉えられても仕方ない。信じてもらえないかもしれないが、一個人が勝手に感じた事を述べただけである。
各方面からボコボコに怒られたとしても、法には抵触しないはず。逮捕はされない、多分。
批判、暴言、応援、色々あったが、まさしく上記で自分が言いたかったのは「自分と他人は違う価値観を持っている」という点だ。
ただ、このnoteがきっかけで、道端で牧野社員だとバレた仲間が殴りかかられても申し訳ないので、勿論牧野社員の全員が同じ思いではないであろうことは記しておきたい。
もっとも、自分個人としては順当に考えて買収は進むだろうと考えている。
上場しているのだから、そういうものだ。
ユーザー様と、牧野の技術者達を裏切ったのはニデックではなく何の対策もしていなかった牧野フライスだ。
技術者も、いい機械ができたぞ、と満足するだけではダメだったのだろう。本当に今更だが。全方位に申し訳ない思いでいっぱいだ。
牧野フライスの過度にPRしない姿勢はずっと変わらない。自分も下手だな、と思う事はあれど、基本的に謙虚な姿勢を好ましく思っていた。
上記で述べた通り、採算度外視な対応をいっ時したとしても、それが次の大口の受注に繋がってゆくことを実感している。
それでも、それらが愚策だと考える経営者もいるだろうし、それを批判はしない。
結果的にこのような形になってしまったのだから、改善点はあったに違いない。
買収後に本当に牧野フライスが従来通りの性能のものを作れるのか? は現段階ではわからない。どうなっても、死ぬ気でやれるところまでやるだけだ。
けれど、牧野がどうなったとしても、日本には特色ある素晴らしい工作機械メーカーが沢山ある。きっと皆様が、業界の穴を埋める機械を作ってくれると信じている。
まだ一応結果は出ていないが、どう転ぶにせよ今回の件は自分自身の大切なもの、製造業に対しての思い、価値観の違う他者を排斥しない大切さなど、様々に考え直す良い機会であった。機会を与えてくれたニデックと牧野フライスに感謝したい。
少なくとも、自分はここで働けて幸せだった。