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「暗黒面の寓話・#42:呪いの塔」

( Sub:井戸と塔、ささいな違いが両者を分かつ )

数秒のノイズ画面の後にモニターにその映像が映し出された。

鬱蒼とした暗い森の中に建つ不気味な塔の映像。

そして、その塔の上部に開いた暗い窓から何かが這い出てくる。

それは不気味な動きをする異様に長い髪の毛だ。
まるで生き物のように塔の壁をつたい、ズルズルと地上へと伸びてくる。

やがて地上へと到達したその髪は、今度は画面のこちら側へと伸びてきて、その画像を映していたモニターから実際に出現し、視聴している者の方へ伸びてくる。

そしてその画像を見ていた者の手足に絡みつき、その者の自由を奪い拘束してしまう。
躰の自由を奪われた視聴者が恐怖に慄きながら画面を見つめていると、やがて塔の上の窓から異様な動きをしながら何かが現れる。

それは薄汚れたドレスをまとったドス黒い肌の女だ。
そして女は枯れ枝のような手で塔から伸びた髪の毛を手繰り寄せ始める。
その動きに応じて髪の毛に絡めとられた視聴者は画面の中に引きずり込まれてしまう。

塔の上から伸びてきた異様な長さの髪はその女の髪の毛なのだ。
塔の上にいる女の顔ははっきりとは見えないが、絡みついた髪の毛から漂ってくる耐え難い腐臭からもおぞましいものであることがわかる。

まじかでその女の顔を見てしまったら、きっと正気を保つことはできないだろう。
この動画を見てしまった哀れな視聴者は、画面の中に引き込まれ、暗い塔の中へと連れ込まれてしまう。

そして、二度と戻らない。

 *************

その塔には、ある女の怨霊が巣くっていた。

その女は生前は美しい娘であったが、強大な異能の力を持っていたため周囲の人々から恐れられ、迫害されていた。

そして、とうとう自力では脱出することのできない高い塔の上に幽閉されてしまった。
食べ物も水も与えられず、暗い塔の中で女は絶望のままにその命を終えた。

何日も飲まず食わずにいると体はやせ細り、手足は動かなくなる。
それでも髪と爪だけは伸び続ける。
女は死にゆく意識の中で自分をこのような目にあわせた人間を呪った。

“この髪が長く伸びて塔の下まで届いたら、塔を抜け出して復讐してやる”

無念のまま命を落とした女はその異能の力で禍々しき怨霊となったのだ。

 ************

そして、、100年以上の時が流れた、、

忘れ去られていた塔の近くに携帯電話会社の電波中継設備が造られることになった。

設備会社はできるだけ低コストで電波の中継に有利な高所に中継アンテナを設置しようとする為、既存の構造物などを積極的に利用しようとする。

今回も、中継アンテナの設営にやってきた下請け業者は当該エリアで見つけた古い塔を利用することにした。

その塔はかなり古いもののようであったが、頑丈で高さがあり中継アンテナの設置には好都合だった。
由来のある史跡があるという話は聞いていなかったので他意なく利用させてもらうことにしたのだ。
その塔には入り口も外階段もないことが奇妙に思えたが、あまり深くは考えなかった。

早々に作業員はロープをかけて塔の上へと登って行った。
塔の上部には小さな開口部があり、その中は小さな部屋のようになっていて通信機材の設置にはもってこいだった。
塔の内部は暗く嫌な臭いがこもっていたが、野鳥かコウモリの死骸でもあるのだろうとあまり気にはしなかった。 古い遺跡などではよくある事だ。

作業員は手際よく機材を塔の中に設置すると最後に塔の屋根の上に中継用のアンテナと電源供給用のソーラー・パネルを取り付けた。
これで簡易中継基地の出来上がりだ。

塔の内部に戻り、通信機器の動作確認を済ませると作業員は早々に撤収することにした。
実は塔の中にいる間、得体の知れない悪寒を感じていたのだ。
作業に集中して気にしないようにしてはいたが、ずっと何かに凝視されているような嫌な感覚を覚えていた。

こんな薄気味の悪い場所には長居しないほうがいいに決まっているのだ。

 *************

作業員が立ち去った後、塔の中の暗がりからザワザワと長い髪の毛が伸びてくる。
その髪の毛はさきほど作業員が設置していった通信機器に絡みつき、装置の内部へと侵入していく。

それは、100年以上前にこの塔の中で惨死した、あの女の怨念が具現化したものだった。

その残留思念が装置が中継しているネットワークの内へと入り込んでいく。そして“念写“ というかたちで ”動画” を作り上げ、それをネットワーク上に流布していった。

《 呪いの塔の動画 》

その動画を見たら死んでしまうという。
それはいつしかネット上で噂されるネット・ミームとなっていった。

“ 呪いの塔の動画を見てはいけない ”
“ その動画を視ると塔の女に殺されてしまう“

“ そのオンナの名は ラ・プンツェレ(和名:菜子)”

触手のような長い髪で見た者を画面の中に引きずりこんでとり殺すのだ。
その金色の髪に絡めとられたら、けして生きては戻れない。



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