「暗黒面の寓話・#48:魔女の偵察便」
( Sub:自分に合った仕事をしよう、、、)
わたしの名前は “ニニ“、13歳の新米魔女だ。
満月の今夜、魔女の修行に出発したばかりだ。
魔女は13歳になると親元を出て1年間の修行をしなければならない。
皆それぞれ自分の得意な魔法を活かして独り立ちの準備をするのだ。
一匹の黒猫だけを “お供” にして知らない街で自分だけの力で生活する。
わたしの “お供“ は黒猫の ”ババ“ だ。
“ババ” は建前は黒猫ということになっているけれど、本当は “黒ヒョウ“ だ。
母も、祖母も、曾祖母も、わたしの家系では代々黒ヒョウが相方なのだ。
何世代も前のご先祖が黒ヒョウをお供にして以来ずっと我が家の伝統になっている。
“ババ“ は黒ヒョウなので普通のネコとは比べ物にならないほど体格がいい。
体長は120センチ、体重は70キロもある(現在も成長中!)。
どう見てもネコには見えないが、“認識阻害の魔法” と “強引な説明” でネコで通している。
わたしは幼い頃からいつも “ババ“ を乗せて ”飛んできた“。
常に自分よりも体重がある “ババ” を乗せて飛んでいたおかげでわたしの飛行能力はかなり鍛えられた。
10歳の時には既に “音速の壁” を越えられるようになっていたし、
上昇限界も3万ft(約1万M)程度は軽くこなせるようになっていた。
今は気張れば、“音速の2倍”、高度も5万ft程度までいける。
ただ、全速で飛ぶ時は “大気との摩擦” への対処に膨大な魔力を消費するので、その速度で飛行できるのは数分間だけだ。
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わたしの家系は代々 “飛行魔法” に特化した家系で、その能力を活かして仕事をしている。
祖母は、高高度を飛行する技を磨いて、普通の魔女が飛ぶことができない極高高度を飛ぶことで特別な仕事をしていた。
祖母は7万ft(約2万M)超の極高高度を飛びながら異国の空撮写真を撮影して、それを国防総省に売りつけることで大金を稼いでいた。
誰も昇がることができない極高高度を悠々と飛びながら、他国の機密にあたる空撮写真を撮影していたそうだ。
そんな祖母についた仇名が《 ドランゴン・レディ 》。
代わって、母は別のスタイルで飛行能力を進化させた。
母は、“速く飛ぶ“ ことに拘った。
母がまだ幼かった時に、祖母が仕事中に大怪我をしたのだ。
技術が進歩して、誰もいないはずの極高高度にまで迎撃が来るようになってしまったのだ。
高く飛んでいれば安全だった時代は終わってしまった。
そこで母は ”速く飛ぶ” ことにした。
誰も追いつけないほど速く飛んで、邪魔されずに航空写真を撮影するのだ。
その為に母は修行して特別な飛行技術を編み出した。
膨大な推力を生み出す”推力増強魔法(リヒート魔法)”と、大気との摩擦に対処する”フィールド制御魔法(境界層制御魔法)” を独自に編み出して、
最終的に音速の3倍の速度で飛行することを可能にしたのだ。
誰も追いつくことができない世界で一番速い魔女、
母の仇名は《 ブラック・バード 》だった。
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そして今、わたしも飛行魔法を研ぎ澄まして独り立ちしようと考えている。
遠い親戚の子(魔女)は飛行魔法で “お届け屋” をしていると聞いたけれど、そんな地味な仕事ではとても “ババの食い扶持“ を賄うことはできない。
黒ヒョウの “ババ” は大量の “肉“ を食べるのだ。
わたしはもっとガッツリ稼げる仕事をしなければならない。
わたしも母や祖母と同様に国防総省を相手に商売をしようと考えている。
わたしは祖母ほど高く飛べないし、母のように極速で飛ぶこともできない。
けれど祖母や母とは違う私なりの飛び方で空撮飛行をしようと思う。
わたしは “見えないように飛ぶ” ことで、邪魔されずに空撮を行うのだ。
“認識阻害の魔法“ と母譲りの “フィールド制御魔法” を組み合わせて、各種光線や電磁波の反射をコントロールすることで “目視” にも “レーダー” にも認識されない “見えない飛行物体” となるのだ。
もともと認識阻害の魔法は得意だし(幼い頃からヤンチャだった “ババ” をカヴァーするため認識阻害の魔法を使いまくっていた)、フィールド制御魔法は母にイヤと言うほど鍛えられた(音速で飛ぶ母についてゆくために小さな頃からソレを使って飛んでいた)。
飛行する自分の周囲に多重の境界層を形成して、その層間隔を相手のレーダー波の波長と干渉するように能動的にコントロールすることでレーダー波を全て吸収してしまうのだ(位相干渉相殺)。
これでわたしは誰からも認識されない “ゴースト・ライダー“ になれる。
今夜はお試しで ”ムルマンスクにある潜水艦基地” を空撮してくるつもりだ。
写真が旨く撮れたら、それをもって国防総省に “売り込み“ に行く。
祖母や母がそうしたように、わたしも空撮写真で稼ぐのだ。
旨く総省と契約出来たら、自分だけのコール・サインを貰おうと思う。
総省から許可がもらえたら、、
わたしは《 グレイ・ゴースト 》を名乗るつもりだ。