「暗黒面の寓話・#46:至高の果て・オルタナティブ」
(Sub:その途を征く者、高みに臨むべし、、、)
モツゴロウさんが南太平洋へ旅立っていった。
己の途を極めるべく至高の高みに挑むために。
その後ろ姿はまさに信念に生きる漢の生き様そのものであった。
ならば、わたし・六場道三郎もこのまま座しているわけにはいかない。
歩む途は違えども、共に高みを目指す求道者として尊敬と共感をもって友となったのだ。
その誇り高き友人の盟友として、わたしも己の途の頂点を目指さないわけにはいかない。
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わたしはこれまで料理人として世界中のあらゆる食材を用いて料理を作り上げてきた。
もちろんただ作るだけではなく、我が流儀においてより一層美味しく作り上げることに拘ってきた。
定番食材からゲテモノと呼ばれる風変わりな素材まであらゆる食材を使いこなし、いつしか “食の天人” とまで呼ばれるようになった。
世間では《 食の天人・六場道三郎に料理できぬものはなし 》、などともてはやされたが、実は私にはかねてから気になっていた食材があった。
古より ”食の途” を探求してきた者が最後に行きつく幻の食材。
《 龍の肉 》
かつて、清の始皇帝も不老不死の妙薬として求め、エジプトのファラオも復活の為の秘薬としたと伝えられている。
あまりにも現実離れしており、おとぎ話に出てくるような幻の食材。
だが、古今東西、”食の途” を極めんとした者は必ずそれに行き当たる。
わたしも長年の修行のなかで幾度かその噂を聞いた。
最初は根も葉もない絵空事だと真に受けることはなかったが、
修行を重ね高みに近づくほどにその食材の噂を耳にするようになる。
“もしかしたら本当に在るのかもしれない”
いつしかそう考えるようになっていた。
そしてある日、、、わたしは知った、、、
《 龍の肉 》は存在していた。
海を割り、山を砕き、世界を破壊する、巨大なる異形、、、《 G 》
《 G 》こそ、古より伝えられし龍にほかならない。
だが、古の先人たちは如何にしてその肉を手に入れ調理したというのか?!
現代の科学技術をもってしても太刀打ちできぬ不動の存在、《 G 》。
だが、稀有な機会は存在していたのだ。
過去においても巨獣同士の激突は発生しており、
その際に偶然にちぎれた飛んだ肉片を入手した者がいたのだ。
《 Gの肉 》
それは強い毒素を含むだけでなく、それ自体が強い放射線を発することから、触れるだけでも生命活動を毀損する極めて危険な代物だった。
だが、猛毒であるほどに “用方” によっては類まれな薬効を発揮するものだ。
漢方においても貴重な妙薬はそのほとんどが単体では猛毒であるのだ。
真偽は不明だが、この日本には “龍の肉“ を原材とした古の ”秘薬” があり、それを用いれば人は不死身の鬼神となり怨敵をも打ち滅ぼしたという。
だが、ひとたびその薬を呷った者は人の途を外れ無間地獄に堕ちるとも言われていた。
“龍の肉“、、即ち “Gの肉” とはそれほどに危険な猛毒だということだ。
だが、、!
えてして毒というものはそのほとんどが美食の極みとなることが多い。
フグ毒然り、ヘビ毒然り、その毒が強ければ強いほど、料理として整えられた際は極上の美食となるのだ。
かつて明治の頃、“フグ食“ を極めた達人は、最期には自身の命を賭してフグのハラワタ(毒の塊)を喰らい、味わい、果てたという。
食の途を極めんとする求道者は、己の命を懸けてでも至高の味を求めるものなのだ。
普通に考えれば、関われば死に至る食材、そんなものを調理するなどバカげたことだ。
だが、それがまたとない貴重な代物であり、高みに至る途であるならば、
わたしは自身の命と引き換えてでもソレを成し遂げてみたいと考えるようになっていた。
そして、、、私自身の運命もわたしにソレを求めているようだった。
十数年前、わたしは一振りの包丁を手に入れた。
薬膳について学ぶべく尋ねた高野山である僧からその包丁を託されたのだ。
《 斬鬼丸 》
それは、信じられないほどの切れ味と強度をもった刃物だった。
言い伝えによると、それは空から来た異形の鬼神の持ち物であったという。
そして鬼神が狩る異形の怪物の強酸性の体液にも溶けない代物だったと伝えられていた。
その刃物はX線蛍光計測による分析でも素材が判明しなかった。
該当する金属元素が地球上(周期表上)には存在しないのだ。
それでいて現代の冶金学では成し得ない強度(耐食性)を備えている。
いかなる刃物も寄せ付けない “龍の肉” を捌くことができる唯一の得物。
この刃が自分の処にめぐってきた時、正直、わたしは動揺した。
このわたしに “竜の肉に挑めというのか!?” 、、、と、
当時のわたしはまだ若くその覚悟ができなかったのだ。
“竜の肉” に挑んだ者はすべからくその命を落としたと言われている。
“竜の肉” の正体が “Gの肉” であるならば、それは当然の事だろう。
強い放射線を放つ猛毒の食材を調理すれば料理人は無事ではいられない。
だが、、、その死線を越えた先に至高の高みがあるのだとしたら、、、
己の命を代償にしてでも成し遂げたいほどの美味があるのだとしたら、、、
僅かな先人が辿った限られた者だけがたどり着ける ”高み”、、、
歳を重ね、己の生きる途、その意味が解るようになった今こそ、
わたしは臆さずにその ”高み” に向き合うことができる。
偉大な友の背中がわたしに勇気を与えてくれた。
我が友がそうしたように、わたしも己の途の果てを目ざすのだ。
包丁1本晒しにまいて、わたしも南太平洋にむけて出発する。
《 G肉の刺身 》 、いざ作り上げて見せようではないか!!