見出し画像

「NPOの事業継承について」2024年10月恵比寿ソーシャルのみのプレイベントより

今回の恵比寿ソーシャル飲みのプレ会は「事業継承」についてでした。運営チームでこのトピックについて話すことを計画していましたが、今回は特にフローレンスの幡谷さんがこのトピックに興味を持って話を聞きたい、とのことでしたので、幡谷さんが問いかけ、番野さんと鈴木がこれまでの経験で見てきたことや、世代交代をしたETIC.とSIPの経験などからコメントする形で運営することとなりました。

この内容はセンシティブな内容になる可能性もあったので、オンライン配信はしませんでした。その代わり、事務局で議事録を作り、ご興味のある方々に共有する準備を進めました。

対話の記録

鈴木)それぞれ、どのような問題意識があるかお話しをしましょう。
 
まずは、言い出しっぺとして話をすると、私自身、創業代表理事からSIPの代表理事を引き継いで5年がたちます。創業代表理事のバトンタッチのおかげでスムーズに来ていると思います。
 
ただ、他の方々から問題提起をいただいているポイントは大きく2つあります。
一つ目は、世代交代がしにくい。年配のNPOの方々(70歳・60歳・50歳)に話しを聞くと、世代間の連携があまり良くない様子です。それぞれの団体は同じようなことをしているが、協力していないケースが多いようです。同じ地域で重なっているのでやりにくさをほのめかす人もいます。創業者も、次世代の代表になりそうな人も強い思いを持ってるので、意見がなかなかぴったり合わず代替わりできないという話しもありました。
 
二つ目は、引退後の経済的な問題。NPOが終わった後に備えて貯蓄をできているわけではない。引退すると年金暮らしになるので経済的にやめられないケースがあるそうです。

番野)私たちはいろいろな団体から個別に相談を受けたり、集合研修を行ったりする立場です。全国各地、規模やステージも様々な1,000団体ぐらいのケースを見ていますが、特定の団体を思い浮かべさせないように一般論で話します。
 
ETIC.自身も創業31年目のNPOですが、3年前に創業代表が退任しました。今のところはうまくいっているので、ETIC.の事例も参考にお話しできればと思います。
 
幡谷)私はフローレンスの代表室で政策提言を行っています。NPOの存続について話をしていますが、駒崎代表に何かあった場合、どのように意思を継承するか考え始めています。そのために、現場での世代交代がどう進んでいるかを調査し始めたところです。
 
また、政府としてどのように支援するかについても考えています。NPOや一般社団法人の支援が手薄になってきているように感じ、また、NPOの数も減少しています。NPOが減り続けてはいけないと思い、この状況を問題提起するために参加しました。

事例と記事紹介

鈴木)問題認識のお話、ありがとうございました。ところで、一般論としては、SSIRで記事が出ています。

  • Kim Jonker & William F. Meehan III, “Nothing Succeeds Like Succession”, StanfordSocial Innovation Review, 2014.

  • Jari Tuomala, Donald Yeh & Katie Smith Milway, “Making Founder Succession Work”, Stanford Social Innovation Review, 2018.

  • Gali Cooks & Eben Harrel, “Lessions From the Front Line for Nonprofit CEO Successions”, Stanford Social Innovation Review, 2020.

番野)事業継承が起こる状況は、創業代表がやり切って熱意の先が変わるケースと、年齢で交代するケースと2パターンあると思います。

幡谷)気持ちの変化があってから本格的に事業継承に移ろうとする際、NPOの6〜7割が後継者問題に悩んでいると聞きます。中間支援団体から見た目線ではいかがでしょうか?

鈴木)SIPでの経験と、SSIRの記事について共有したいと思います。

SIPは2011年にスタートして、2019年の夏にバトンタッチを受けた。それまでは創業代表理事の白石さんが20%をSIP、残りをご自身が社長を務めるファンドの仕事をしていました。

私は2018年にSIPに関わりはじめ、2019年春にはSIPの今後の戦略について、理事会の皆さんと議論していました。その話の中から常勤者が必要だという話になり、私が常勤者になり、さらには、代表も引き継ぐこととなりました。2019年夏に高槻さんと私が共同代表となり、事業を拡大していくこととなりました。白石さんは理事になり、その後、アドバイザーになりました。そのように段階を経てバトンタッチしてきました。

SSIRの記事で指摘されているように、事業継承には時間がかかるため、早めの準備が必要です。企業の事業継承や事業部内でのバトンタッチもそうだが、2-3年はかかるので事前準備がいる。長いものだと13年かけて代表をバトンタッチした事例も記事では扱われていた。

また、私が営利企業の時に考えていたのは、2代先まで育てるのが先代の仕事だという事です。次の代は当たり前だが、その次の代まで育成していないといけない。そうしないとバトンタッチされた人が困る。それをずっとやっていくと綺麗に流れるバトンタッチになる。

さらに、記事で興味深かったのは、内部昇格が非常に効率的で効果的であるという点です。外部から新しい人材を招くと問題が発生することが多いとされていました。

番野)鈴木さん営利でやっていたと思いますが、非営利と営利で外部招聘って違いますか?

価値観の重要性

鈴木)営利の方は魅力的な報酬を提示することで次期経営者を連れてくることが良くあります。非営利組織ではそれは難しい。

営利企業でも事業に対する思想が違ったり、市場に対する理解や違うなどミスマッチは良く生じました。モチベーションがどこに向かっているのかが違うこともある。非営利組織では「思い」がことさら重要です。資金が限られているため、価値観の共有が不可欠です。

幡谷)私が入社する際にも、ビジョンが最も重要だという認識で組織全体がまとまっていました。外部から急に人材が入ると、組織内での摩擦が起きるのではないかと思います。

番野)以前、ETIC.の中で、冗談として「外部が事業を買収したらどうするか?」と何人かで話したことがありますが、その時の皆の反応は「辞める」というものでした(笑)。

育成というのはやはり難しい問題です。経営者と後継者の間の年齢や経験の差が大きいと、お互いの理解が難しくなることがあります。

ETIC.は元々の創業者たちが経営をオープンにしてきていた。そういう名前はついていませんでしたが、今になってみると、経営者育成プログラムのようなものでもあったのだと思います。その結果、代表が退任しても経営はできそうだった。実際、創業者がいなくなった後も比較的スムーズに運営が続いていると感じます。

寄付者との関係継続について

幡谷)私だけの仮説なのかなと思っていたが、そうではなくてよかったです。

非営利特有だと思いますが、団体が事業継承をしようと思っても、寄付者とのコミュニケーションは大丈夫なのかが気に掛かります。ETIC.も寄付者がいると思いますが、他の団体や業界の中で難しい話しがあったのでしょうか。

鈴木)SIPでは、2019年の春に代表を引き継ぐことになり、正式には夏に引き継いだ。その後、前代表の白石さんが寄付者の皆さんとつないでくださったので、その点は問題なかった。

SSIRの記事で面白かったのが、事業継承の成功ケースの75%が友好的に事業継承出来ている、という調査結果があることです。25%は友好的では無かったそうです。友好的な場合でも、元代表が組織に残る場合と残らない場合がある。元代表が残る際、うまく行っているのは「ファンドレイズと対外的な発信」、あるいは、「新規事業開発」など、明確に取り組む内容を定義して、それらにフォーカスした場合のようです。元代表が既存事業の運営に残る、というのは良くないようです。ファンドレイザーとして残った場合、事業を継ぐことに時間かけるといいケースになるとのことでした。

番野)うちは友好的な方だったのでよかったと思う。一定の準備期間を設け、準備をしてやめますと創業者がコミットしたプロセスを作れたのでよかったと思う。

代表がいないことでの影響はもちろんありますが、それは仕方がないことなので、残ったメンバーがこの体制で大丈夫ですとステークホルダーに言えれば良いのではないかと思います。それでも宮城さんがよかったという人は仕方ない、ご縁がなかった、という事だと思います。

残っている人間がそう腹をくくれるようになる話し合いや体制づくりを進めましたし、そのことを創業者が君たち大丈夫だから堂々とやりなさいとエンパワーもしてくれて、それはよかった。だから中の人間も腹落ちして、ポジティブなメッセージを外に出せた。かなり対話しましたが。

幡谷)私のイメージだと、まだETIC=宮城さん。時間かかるんだろうなと。

番野)最近出版されたForbesの記事では、ETIC.は代表は「なし」として発行してもらいました。顔がいなくなることを心配していた人もいたが、仕方がないと思ってやっている。

うちの場合は、宮城が完全に離れました。自分が組織にいると悪い意味で影響力が残り、依存関係になると本人もわかっていたからです。似たケースがあるときに抜けるべきかはわからないが、ETIC.のケースでは、次に渡すために抜けるのが健全だと判断した。

鈴木)SIPでも、代表を引き継いで2-3年くらいは、自己紹介をすると、「SIPは白石さんのところね」という返事が良くありました。そこで「代表をバトンタッチし、白石さんも理事で残っています」と説明をしていました。その会話が出来ることはよいことだな、と思っていました。寄付者にも、その他の関係者にも安心していただけたと思います。そのような会話は2-3年続いていたが、段々とそういう会話はなくなってきて、今はあまりしなくなってきました。

番野)宮城さんは今後、人生相談には乗るが、仕事の相談は乗らないと言ってやめていきました。皆それを厳格に守っていてさみしいと先日宮城さんが冗談交じりに言っていましたが。

鈴木)確かに宮城さんは「雲隠れ」していましたね。

SSIRの記事の中では、役割を限定して前の人が残ったとしても、6ヶ月は雲隠れをすることは、特に内部に対して重要なようでした。オフィスも入れ替えたり、あるいは、前任者にはリモートにしてもらい、あまり出勤してもらわないようにするケースもあるようです。

さて、今日来ている皆さんの中でも聞いてみたいことや課題意識がありましたら、お話していただけますか?

参加者)番野さんに別の研修でも質問したこととかぶるが、代表のカリスマ性で始まって10年走ってくるのはNPOあるあるだと思います。経営という目線で全事業のお金ことを見渡せるのが代表だけで、準経営層がなかなか育たずにいる印象です。代表が次の世代への引き継ぎを考える時の経営層の育て方についてのノウハウや構想はないか?

後継者、No2以下の育成

番野)最近、ETIC.では経営者に限らないプログラムを用意するようにしている。

経営層は色々な会合に呼ばれ、ネットワークを作り、能力や視座は開発されていくが、No.2以下はそうした機会に乏しく、他のNPOの友達もいないということがある。その構造を崩していかないといけないと思います。ETIC.が幸運だったのは、中間支援なのでメンバーレベルのスタッフも色々な経営者と接して、色んなケースを見る機会があった。でも、例えば子ども支援の現場団体ならそうはいかない。経営者層以外のためのプログラムを作ることが重要だな、と改めて質問を聞いて思った。

鈴木)No2以下のネットワークづくりはとても大事だと思います。

番野さんがおっしゃったように、代表以外の層のバトンタッチも重要だと思います。事業部のトップも変わっていけるようにしないといけない。組織としてどうやって人材を育てて、組織としても育っていける、仕組み作っていくこともこれから考えることだと思います。

ご参考にまで、これまで私が関わってきた営利企業でも育成には時間がかかっていました。1年、2年と年単位で時間をかけ、経営トップになるためのネットワークづくりをしていかないといけない。私は白石さんに色々な人に紹介してもらいつつ、2-3年くらいかかったと思います。

日本の大きな株式会社の場合、経営層は比較的年配なので、自然に新陳代謝が必要ですが、NPOのリーダーはまだ若いです。代表が30代くらいですと、まだ新陳代謝というタイミングではないかもしれません。一方、10年後くらいには代替わりしようとしてるなら、そろそろ人材を見つけて育てていくタイミングかもしれません。。

ちょうど50歳くらいの創業代表理事の人から、あと10年で変われるように三人くらいの候補者を意識して組織づくりをしているという話しを聞きました。そういうのが必要なんだなと思いました。。

番野)後継者の育成が大事という話と、とはいえ創業者がカリスマすぎると誰がなってもきつい、という構造があります。経営者が変わるのは決まったので選ぶ必要があるが、次の経営者を支えられるマネジメントチームを並行で作らないと後継者を選べないという助言をしたケースもあります。創業経営者がカリスマだと新代表もそうなのか期待してしまい、本当にそうなのか周りも試してしまう。そういう時に仲裁する立場に。

リーダー=エンジン、チーム=ブレーキ?

幡谷)執行部の中でカリスマ性のある創業者がエンジンを踏んで、他の経営陣がブレーキを踏んだり、舵を切ったりするバランスになっている。どのように代替わりをするか考えていくと、まだそういうケースが多いのではないかと思う。代表、右腕のバランスをとって大きくなってきた代表がいるところで、そのプログラムをどう走らせるか考えたい。

番野)

うちの創業メンバーもアクセルを踏みまくるチームで、やると決めて、どうすればできるかを考えようというタイプ。自分はブレーキ踏んでなんとかする係をやっていた。そういう性格なんだと思っていた。

しかし、アクセル役が減ったら、自分がアクセルを踏むようになった。こうして色々な案件を持ってくるんだなと気持ちがわかってきた。

今、強烈なアクセルを踏んでいるリーダーの下でブレーキを踏んでいる人は、そういう構造にいるからそうなっているだけであって、構造が変わると意外とアクセル役は出てくるかもしれない。

成功する3割に共通することは?

参加者)幡谷さんに聞きたい。鈴木さん番野さんから2代先を育てるなど、外部連携とかファンドレイズとか機能分担の話があったが、最初に6-7割が失敗するが3割の成功事例の特徴として、共感するところや、あるいは仮説の域を出ないがここかなというのがあれば聞きたい。成功の3割に共通することは?または特徴的なところは?

幡谷)言い出すと元も子もないが、そもそも今の世代、より若い世代の中で、市民社会を作っていくリテラシーが育たなくなっているのではと感じる。SNSをみて、地位社会への貢献に公金を使うほどか、行政がなんとかすればというのが20代くらいの目線としてある。それが増えていると感じる。地盤としてなくなってきているので、2-3割が失敗する要因の中に、この組織なくてもいいんじゃね?といったネガティブな感情があると思っている。それはそもそも事業自体がスケールしないとか、地域のNPOなので市場がそこしかないとかもあると思うが、その中で引き継いでメリットあるかという団体はあると思う。

ただ、それをなくしたら、その課題解決は行われなくなるし、行政も手を出せない領域とすると、共助のための公助のように、どのように公的な形で継続させるかが政府が考える視点かなと思っている。

創業者のエネルギーを後継者はマッチできるか

参加者)根本的には創業者の溢れるエネルギーの絶対値と同じところまで持ってくるのは難しいとした時に、違う形で公的に組み込んだり、その熱量なしで継続できるかが課題として顕在化?

幡谷)継ぐのが「おもたすぎる」というケースもある。モチベーションがやや下がっても続けられる仕組みづくりができるといいかなと。

参加者)事業の仕組みや収益基盤ができているトップランナーの団体があるとして、既存事業をバトンタッチする時に特にどこが課題?なぜ課題?

幡谷 )NPOには国や自治体からの事業委託をもらっている団体も多い、その中で報酬が直接費用しか支払われない。間接費用は計上されない課題がある。そこを行政から一部間接費に回せると仕組みとしてうまくいくし、存在そのものの存続がうまくいくと私は思っている。

間接費を計上出来ないと、事業をとれば取るほど赤字になるサイクルがある。

組織の寿命をどう考えるか

参加者)僕が創業に携わった団体がある。年に100人集めて合宿をやって、日本の未来を切り拓く人材を排出する活動。今年で3回目。メインの運営メンバーが半分くらい社会人で半分学生。法人登記をする予定で、NPOか株式か迷っている。そんな中で継続の観点では10年はやろうとは思っている。

正直、10年経って引き継げないならどうするかというところを考えている。仮に続けていくということになったとして、立ち上げる前だからできる仕組みはあるか?株式会社だと資本政策があると思うが、何かあれば。

番野)精神論から。うちのメンターに言われたが、この組織を残したいやつがいれば続くし、いなかったらなくなる。うちは残したい人がいたから残っている。

学生団体も同じだと思う。続いて欲しいと思える組織運営をすることじゃないかなと思った。

後は、ただ全く同じカラーで続くべきとすると後ろの人は窮屈になる。大事なものは何か。非営利組織も時代によって変わるので、継ぐ人が気負わないようにできると良いと思う。

鈴木)シビックソサエティがなくなっているなかで、政府が作るのはおかしい話だと思うので違うかも。団体は人の意思でやってるので、人の意思がなくなったら終わりなのかなと思う。SSIRではエンドゲームという話しを扱っている。やりながら考えてもいいかもしれないし、エンドゲームの記事では立ち上げ時から考えて、継承を考えるのか、政策にすることを考えるのかという幅がある。とりあえず10年なのか、その先も続けようと思っている10年なのか、そのあたりどっちなのか検討いただけるといいのかも。

参加者)今のうちに考えておかないとなと思った。

幡谷)うちも新規事業を作る時に、終わり方をどうするかをマネージャーに問われる。そういうところから初めて見るのがいいかなと思う。

クロージング

鈴木)幡谷さん、今日は聞きたいことは聞くことは出来ましたか?

幡谷)最後に聞きたいのは、とはいえ市民社会を育てていかず、未来を育てていくための政府ができる公助の形はどういうものかを気になっている。

鈴木)あえていえば教育。某北欧の国だと、政治社会のあり方を考えるようになっている。1人1人の意識の中でおかみがやってくれるのではなく自分たちが決めていくという意識が大事。したがって、教育が大事だと思います。

番野)間接費の話もそうで、そこにお金使えるようになるといい。

(文責:鈴木、幡谷、番野)

いいなと思ったら応援しよう!