【キックオフ会】ラーニングイノベーションプログラムが開始しました!
こんにちは、グローカルセンターのよっぴー(高津)です。
2024年8月3日に、ラーニングイノベーションプログラムのキックオフ会を実施しました。
このプログラムでは、高校生、大学生、社会人の垣根を超えた多様な背景を持つ参加者が、月1回程度×6ヵ月間のプログラムで相互に学び合い、共創・実践する機会を通して、「学ぶ力」、「学びをデザインする力」を身につけます。公益財団法人トヨタ財団2023年度イニシアティブプログラムから助成を受けて実施しています。
本記事では、ラーニングイノベーションプログラムのキックオフ会の様子をご紹介します。
1期生となる今回のプログラムの参加者は、高校生8名、大学生5名、大学院生1名、社会人(民間、NPO、教職員)13名の計27名です。属性、世代、考え方の違いを超えて、これほどまでに多様なメンバーが参加する長期プログラムは、グローカルセンターでは初の試みです!
チェックイン&コミュニティを開く
キックオフの最初には、呼ばれたい名前や、普段していること、今の気持ちを一人ずつ話してもらう時間を設けました。この際に、単に話すだけでなく、話すと同時にコミュニティボールの共同制作も行いました。
一人ひとりが話すときに、棒にカラフルな毛糸を巻き付けていき、自分の話す番が終わったら、次の人に、それを託します。これをサークル(円)になって順次行っていき、最後の話す人が終わったら、結束バンドで丸めて、コミュニティボールが完成します。
コミュニティボールの制作は、「p4c(philosophy for children) ハワイ」(ハワイ大学)で行われている独自の実践です。本来は、哲学対話の場で行われるものですが、今回のラーニングイノベーションプログラムでも、学びの場についてお互いに探究する、哲学的なコミュニティとして機能してほしいという思いを込めて、取り入れました。また、完成したコミュニティボールは、トーキングオブジェクト(話をする人が手に持つアイテム)として、次に話す人に投げて、パスするなど、会話を円滑に進めるツールとしても使えます。
チェックインでコミュニティボールを制作し終えるまでに、ボールを制作する意図や、ねらいは、あえて説明しませんでした。これは、学校での「教育目標」や「ねらい」が最初に提示されてから、そこに向かって学んでいく、従来の学びのスタイルから脱却してほしかったからです。チェックインが始まったときには「緊張している人」が多い印象でしたが、棒に巻き付けられた糸がどうなるのかという期待を抱きながら、次第に和やかで、笑顔の多い場になっていったと思います。
イントロダクション
チェックイン兼コミュニティを開いた後は、今回のキックオフの目的、目標を共有し、参加者のお互いのコミュニケーションを図るツールである、slackの使い方を説明しました。
ストーリーオブセルフ
次に、プログラムの参加を選択した背景や経緯を参加者同士で共有しあい、お互いにプログラムの参加の意味を構築するワークを行いました。
まずはじめに、ワークシートを用いて、自分がプログラムに参加するに至った背景について、個人で考えてもらいました。その際に、「ストーリー」を意識してもらいました。世代や所属、育ってきた環境、今持っている問題意識が異なるからこそ、自分にどんな背景があり、なぜ参加という選択に至ったのかを省察し、ストーリーオブセルフを考えてもらいました。
ストーリーオブセルフの枠組みが完成したら、「聞き手」、「話し手」、「観察者」の3人組になって、お互いのストーリーを共有しあう、ストーリーテリング・トリオを行いました。
ここでは、世代や所属が異なる参加者同士がどのような背景をもとに、プログラムの参加を決意したのかが話し合われました。
ストーリーテリング・トリオを行った後は、お互いのストーリーを聞いて、どんな気づきがあったのかを全体で共有してもらいました。
また、グラフィックレコーディングを行う肥後さんからは、人が選択しているときには価値観や、大事にしたいことが表れることから、参加者の皆さんへ以下の問いが発せられました。
プログラムの参加の意味を参加者の皆さんに話し合ってもらった後は、本プログラムの立ち上げに関わった、行元さん、ヒラさん、高津より、プログラムに込めた思いを共有しました。グローカルセンターのプログラムに込めた思いと、参加者の皆さんのプログラム参加の意味は共存して良いもので、むしろ、その相乗効果で、よりよい学びの場になったらと思い、このような時間を設けました。
アサーション・トレーニング
プログラムの後半では、ラーニングイノベーションプログラムの参加者の皆さんが、今後対話を重ねていくにあたって、大切となるであろう、コミュニケーションの作法について、学んでもらう時間を取りました。具体的には、「自分の考え、欲求、気持ちなどを率直に、正直に、その場の状況に最もあった適切な方法で述べること」=適切な自己表現(アサーション assertion)を学ぶ、アサーション・トレーニングを行いました[注1]。
対話・コミュニケーションが生じる状況は様々ですが、どうしても「攻撃的な(アグレッシブ)な自己表現」(怒りに身を任せた暴力的なコミュニケーション)や、「非主張的(ノンアサーティブ)な自己表現」(自分の言いたいことが言えない受動的なコミュニケーション)になってしまう場面が少なからず、あるのではないかと思います。そんな自分の言動について振り返り、「自分も相手も大切にできる」自己表現ができるように、アサーションの練習[注2]を行いました。
練習の方法として、アサーティブな自己表現ができなかった状況を思い出し、ペアになって、どのような言い方、どのような表現方法であれば、適切であったのかをお互いに考える時間を設けました。お互いの経験から、アサーティブな自己表現をするために、どうしたら良いのかが話し合われました。また、ペアワーク終了後には、私の方から大切なこととして、「いつでも、どこでもアサーティブになる必要はない」ことを伝えました(これは、アグレッシブな自己主張を容認するという意味ではありません)。
コミュニケーションにおいて、いつでもどこでも「こうすればよい」という正解はおそらくありません。どのような場、どのような状況、自分がどのような感情を抱えているかによって、正解は異なると思います。「いつでもアサーティブでいないと」というしがらみは、逆にコミュニケーションを難しくする危険性も容易に想像がつきます。
ここでのワークでは、相手も自分も大切にしようとする自己表現を「できるようになる」という前に、そうしたコミュニケーションの存在価値に気づくということが最大の目的でした。これから回を追うごとに、グローカルセンターのスタッフと参加者の皆さん共々、一緒にアサーション・スキルを身につけていけたらと思います。
振り返り
キックオフの最後には、振り返りを行いました。各自、slackに「①今日のワークショップに参加して、学んだこと」、「②今日のワークで印象に残っていること」、そして、「③メンバーに一言」を記入してもらいました。
多様な参加者と共に、有意義なキックオフを行うことができました。次回は、上田信行先生とのワークショップです。上田先生は、私が現在研究している教育工学分野について知るきっかけになった、憧れの先生です。上田先生の「プレイフルシンキング」という本を読んだときの衝撃は、今でも忘れられません。そんな、憧れの先生とワークショップを共にできるのがとてもうれしいですし、自分一人ではたどり着けない場所に、たどり着ける予感がします。まさに、プレイフルシンキングの本にあるように、「憧れの最近接領域」ですね。
次回、上田先生と参加者の皆さんとプレイフルに、真剣に、学習環境デザインについて考える、作って、語って、振り返るのが楽しみです!
[注1] 「アサーティブ・トレーニング」は、アメリカの行動療法家のウォルビーによって開発され、1970年代には、人種差別運動の非暴力活動家やフェミニストカウンセラーによって、自己表現ができなかった、認められてこなかった人たちの自己表現の方法として注目されました(詳しくは、平木典子他「ナースのためのアサーション」、金子書房、2002)。
[注2] 「アサーションの練習」は、私が現在在籍している大阪大学の授業「対話術」で行ったものを用いています。また、コミュニティボールもこの授業を通して、学びました。色んな学年、研究分野の人が、全学的に集まり、サークルになって、対話を行う、非常に面白い授業です。
執筆者:
グローカル人材開発センター 特別研究員
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程2年
高津 遥