子会社株式の価値が下がっても税金が安くなるとは限りません
コロナ関連の影響により、グループ子会社の業績が悪化し、親会社が保有する子会社株式の評価を切り下げることを検討しなければならない場合があります。
子会社株式が上場している場合もありますが、ほとんどの子会社が非上場ですので、今回は非上場子会社株式の評価を下げる場合、特に「企業支配の対価」が取得時の価額に含まれていた場合の注意点について記載します。
事例
将来性や市場のシェア拡大が見込めることから、赤字(欠損:1株当たり簿価純資産価額△100)であるA社をDCF法により高評価して買収(1株当たり簿価純資産価額150)し、A社は当社の完全子会社となった。
しかしながら、その後の市場環境の変化によりA社の業績は悪化(1株当たり簿価純資産価額△200)。A社の業績低下は当面続き、近い将来に業況が回復することが見込めない。
当社では、A社の株式を評価減することを検討している(帳簿価額を1株当たり180→1)が、評価減額179(180-1)は税金計算するうえで、損失とすることができるのか。
注意点
持株割合が20%以上になるグループ子会社の株式の評価減をしようとする場合には、次の両方を満たすことが必要です。
◎その発行会社(A社)の資産状態が著しく悪化していること。著しく悪化しているとは、次の場合に該当する場合をいう。
・特別清算開始の決定や破産手続等の開始の決定があったこと
・期末における発行会社(A社)の1株当たり純資産価額が当社の取得価額に比して50%以上の下回りであること
・ 資産状態の悪化に伴い、当社の有するA社株式の価額(時価)が著しく低下していること
・期末におけるA社株式時価が、当社の保有するA社株式帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ近い将来その時価の回復が見込まれないかどうか。
さて、ここで気を付けないといけないのが、当社がA社を買収した際の買収価額180に「企業支配の対価」が含まれているかどうかです。
企業支配の対価が含まれていると、単純にA社株式の価値が180から0に下がった、50%以上下落しているから、税金計算上、損失で落とせる、というわけにはいかなくなります。
なぜかというと、企業支配の対価は、支配が継続している限り、その価値は落ちないと考えられるからです。
企業支配の対価とはなにか
では、A社株式180のうち、いくらが企業支配対価といえるのかというのが問題となります。
実は、この部分については明確に規定がなく、真正面から争われた訴訟事件が見当たらないというのが現状です(注)。
(注)赤字子会社に対する増資払込みを企業支配の対価に当たるとしてその評価減を否認した事案はあります(昭和51年9月13日仙台地判)。その後、法人税基本通達9-1-12が新設されています。
しかし、だからといって、事例の場合に「企業支配の対価」は無視して大丈夫とすぐに結論づけない方がいいです。
例えば、取得に際してDCF法を用いて客観的に算定したことを残しておく等。
個人的には、DCF法を算定する際に、子会社化することによる市場へのインパクト、価格設定等、そのシナジー効果は当然に含まれるものであり、その効果を狙った企業買収は特別のものではないと考えます。
したがって、仮に税務調査で議論になった場合、DCF算定において「企業支配の対価」のみを切り出して算定することは不可能であるとして議論を交わすのはありかと考えています。
<条文>
法人税法施行令第68条第1項2ロ
法人税基本通達9-1-7
法人税基本通達9-1-11
法人税基本通達9-1-15
参考
企業支配に係る対価の額の部分については評価減を認めないという取扱いの考え方の歴史について、ご紹介します。
この取扱いは昭和40年の全文改正に際して企業支配株式に関する規定が整備されたことを受けて、同年の通達改正において同旨のものが新設され(旧昭和40年直審(法)84通達「95」)、これが昭和44年の法人税基本通達の全文改正を経て現行通達に引き継がれているものであるが、それ以前にも、法人が他の会社の営業の全部又は重要な一部を譲り受けるために取得した当該他の会社の株式については、評価減が認められないとする旧通達があり(昭和40年に廃止された旧昭和32年直法1-130通達「一四二」。)これが現行通達に係る取扱いの思想的母型になったとみることができよう。
出典 渡辺淑夫 中央経済社「法人税解釈の実際」
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