法人が海外で事業を行う場合は、「支店」と「子会社」どちらがいいのか ~各国の法人税率ランキング含む~
海外に進出する法人は、どういう形態で進出するのがいいのでしょう?
これは、海外展開を視野に入れたときに最初に悩む問題です。
各法人の状況にもよりますが、事業の規模という視点で考える場合、
海外駐在員事務所 → 支店 → 子会社
となります。
ただし、各形態それぞれにメリット、デメリットはありますので、形態別にまとめてみました。
海外駐在員事務所
駐在員事務所は、現地での市場調査などを目的として設置されます。
情報収集や事務連絡を行うだけの拠点ですので、税務上は「準備的または補助的活動」のみの活動として、現地国で法人税等の申告・納付は求められません。
そこで、次のように考えたとします。
「現地で課税されないなら、駐在員事務所ということにしておこう。少しくらい営業したってバレやしないよ」
はたして、バレないままやり過ごせるでしょうか。
答えは、もちろん「NO」です。
「準備的または補助的活動」に該当するかどうかというのは、税務上はPE(Permanent Establishment 日本語では「恒久的施設」)と呼ばれる問題であり、どこの国の税務当局もこの問題には目を光らせています。
したがって、名目上は駐在員事務所にも関わらず、現地企業と取引契約を結ぶなどの営業活動を行った上に、現地法人税の申告・納付を怠ると、現地の税務当局から法人税の追徴課税を受ける恐れがあります。
駐在員事務所として進出する際は、「営業活動に該当しない活動」であることをしっかり説明できるようにしておくことが大切です。
支店
支店は、日本法人の一部となりますので、支店で稼得した所得は日本の税金の一部となります。例えば、東京に本社のある会社が全国に支店を持っている場合、税金の計算は「本店の所得+支店の所得」に税率を掛けて計算しますが、その支店の場所が日本ではなく海外にあるというだけで、考え方は同じです。
では、支店という形態で進出することのメリットとは何でしょう?
それは、「支店の損失を日本の所得と相殺できる」ということです。
ビジネスを開始したばかりの初期段階や、今回のコロナウィルスのような外的要因による経済活動の縮小の局面などの場合には、図らずも損失が生じてしまいます。
支店形態の場合、その損失を日本の所得にぶつけて、日本の課税所得を減らすことができるのです。
このように、海外に進出はしたが、当面黒字化が見込めない場合は、その間は支店形態で進出し、黒字化するタイミングにあわせて子会社形態に変えていくというタックスプランニングはありです。
一方で、海外では想定しえないことが起こります。最悪、現地での訴訟に巻き込まれることもあり得ます。このような場合、支店形態では、法的責任が直接日本の法人に及んでしまいますが、子会社形態では、いったん子会社がそのリスクを引き受けることになります。
このように、税務以外の観点で決定しなければならないことはたくさんあります。
全世界所得課税方式と国外免除方式
ここで、勘のいいひと人は次のことに気付きます。
「支店の所得は現地で税金払ってるのに、日本でも支店分の税金払ったらダブルで税金払うことになるんじゃない?」
そう、そのとおりです。このままでは、税金が二重取りされてしまい、何のために海外に支店を出したのかわからなくなってしまします。これを「二重課税」といいます。
そこで、二重課税とならないよう、日本の税制は、「外国税額控除」という制度を設けています。この制度は、簡単に言うと、「現地で納税した分は、日本で払わなくていいよ」という制度です。
納税する側からすれば、「当たり前だろ」ということになるのですが、税金を徴収する国家側からすれば、現地国に取り分(税金)を「しょうがない、くれてやる」ということになります。これは、国家間の税金の配分(取り合い)の問題になりますが、逆の立場になることもあるわけなので、取ったり取られたりお互い様、という制度といえます。
このように、世界中のどこで稼いだ所得であろうと、日本の税金の対象とする考え方を「全世界所得課税」といいます。
全世界所得課税に対して、「国外所得免除」という考え方があります。これは、現地国の課税のみで完結させ、日本の所得には含めないというものです。実は、国外所得免除方式を導入している国は多く、OECD加盟国では、国外所得免除方式採用国の方が全世界所得課税方式採用国よりも多いのです。
日本は国外所得免除方式に歩み寄りを見せており、外国子会社からの配当については免税(厳密には95%免税)とするなど、少しずつ国外所得免除方式を導入しています。
子会社
支店の項目で説明したように、現地での事業が軌道に乗り、黒字化を果たした場合、または当初から黒字が見込める場合、子会社形態で事業を行うことを考えます。ただし、繰り返しになりますが税務以外の観点を踏まえてどの形態で事業を行うかは本当に大事ですので、いろいろな観点から決定をしてください。
ところで、このシナリオの前提は、「進出国の税率が日本よりも低いこと」です。日本よりも税率の高い国の場合、税金を最小化するということだけを考えると支店か子会社かという違いはほとんどないからです。
「それって、いちいち日本よりも税率の低い国を探さなければならないということ?」と思ってしますことがあるかもしれません。
しかし、現実は、日本よりも税率の高い国はほんの数か国しかないのです。つまり、日本人が進出を考える国のほとんどが日本よりも税率が低く、結果的に上記のシナリオを検討する価値があるのです。
下の表は、OECD加盟国の法人税率ランキングです。
日本は31位。日本よりも税率の高い国は、ドイツ、オーストラリア、メキシコ、ポルトガル、フランスのみ。アメリカでさえ、日本よりも税率が低いので、検討する価値があるのです。
世界の法人税率ランキング(OECD加盟国)
出典:OECD.Sta
https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=Table_II1#
OECDのデータだけではアジアの状況がわかりませんので、アジアの法人税率ランキングも作成してみました。
やはり、香港、シンガポールは低いですね。
最も税率の高いフィリピンも現状は30%ですが、既に段階的な引き下げが可決されており、最終的に20%まで引き下げられる予定です。
なので、アジアをターゲットにしている場合は、検討が必ず必要ということです。
JETRO情報をもとに筆者作成。
https://www.jetro.go.jp/world/asia/
では、子会社で進出することに決めたとします。
そこで、次に考えなければならないのが、資本政策です。つまり、低税率国で稼得した資金をどう活用するか、ということです。
提案したい方法としては、日本に還流させず、現地または現地に近い国で投資に回すやり方です。具体的には、シンガポールや香港に「中間持株会社」を設立する方法です。
例えば、ベトナムに子会社を設立し、そこで事業が順調に推移すると、内部留保がどんどん蓄積されます。事業拡大するために東西経済回廊に沿ってカンボジア、タイにも子会社を設立する構想も見えてきたとします。
その時に、資金の効率的な運用とアジア地域の統括機能を担う「中間持株会社」をシンガポールに設置するのです。
この中間持株会社は日本の親会社からベトナム子会社の株式を譲受け、ベトナムを子会社にします。結果、資本関係が
日本法人 - シンガポール法人 - ベトナム法人
となります。
ちなみに、なぜ「中間持株会社」というのかというと、シンガポール法人は日本と法人ベトナム法人の間に位置し、ベトナム法人を保有することからです。
さて、シンガポールの中間持株会社は、まず資金を集約するため、ベトナム法人の留保利益を中間持株会社への配当として中間持株会社に還流させます。
次に、中間持株会社は、配当で得た資金を出資して、タイ、カンボジアに法人を設立します。
さらに、傘下となったベトナム、タイ、カンボジアの子会社から経営指導料という名目の手数料や事業ノウハウのロイヤリティなどを徴収し、中間持株会社の収益とします。
中間持株会社はこれらの収益により所得がでますが、そもそもシンガポールの法人税率が17%と低いので、税金はそれほど大きくならず、ベトナム、タイ、カンボジアの子会社も手数料を支払うことで所得を小さくできる(税金を抑えられる)のです。
このように、子会社形態で進出する場合、税率がより低いところに収益を発生させ、税率が高いところで費用を発生させることで、グループ全体の納税額を最小化することが可能になります。
「子会社形態なら、スキームの組み方によっては、どんどん節税できるってことじゃない」
理屈としては、そのとおりです。
しかし、GAFAをはじめとするグローバル企業が、こぞって「各国の税制の差」を利用したスキームを組み、露骨な租税回避を行った結果、OECDがBEPSと呼ばれる租税回避に対する対抗措置を提唱し、各国の税務当局も租税回避に対する税制を整備してきていますので、現実はかなり慎重に検討する必要があります。
大企業のやりすぎた租税回避策の影響で、海外のグループ取引に対する各国の税制は相当厳しくなっています。
それはつまり、地道に現地で事業を展開していた会社が、たまたま国境をまたいでグループ会社とやり取りした取引に対して、ある日突然、「租税回避だ」と当局に指摘されるかもしれないということです。
更に残念な現実として、日系企業は、現地の税務当局の指摘に対して、欧米企業ほど戦う姿勢を見せないため、「日系企業は与しやすい」と現地当局に思われている部分があります。
つまり、ふっかけられる恐れもあるということです。
これは、本当に悔しいことです。
そうならないためにも、海外に展開する際には、しっかりと税務の観点から検証することが必要ですし、そのような現状であることを覚えておいていただきたいと思います。
まとめ
海外進出するには、海外駐在員事務所、支店、子会社の形態があり、それぞれにメリットデメリットがある。
子会社形態は、さまざまなスキームを検討することが可能だが、リスクも高い。したがって、海外進出するときにしっかりとリスクの整理をしておくことが大切。