ジョブ型とメンバーシップ型
かれこれ20年ほど私はクロスボーダーの仕事をやってきているのだが最近になって日本と海外(日本以外の国)のビジネス面での文化的ギャップの発生源がメンバーシップ型とジョブ型の雇用形態にあるという結論にたどり着いた。
クロスボーダーの仕事というのは主に国境をまたがる企業買収や統合、海外のソフトウェアを活用した業務改革、またその逆の日本のソフトウェアの海外展開を行ってきた。それらを通して日本と海外の規則・業務内容を比較する経験が多く、文化的な違いを認識する経験に恵まれた。実際には規則や業務に大きな差分はないのだが、なんだかしっくりこないということが多かった。このなんだかしっくりこないは結果として、買収統合後の致命的な意思疎通の失敗に陥ったり、海外のソフトの採用を利用する価値はないという残念な結論に至った。
日本では最近でこそ働き方改革のブームでジョブ型やメンバーシップ型という言葉も見かけるようになったが、今まで日本人にとって知る由もない仕組みだったと思う。また今でも日本で職業を全うする多くの人にとってあまり関心が向かない話だと思うが、この仕組みが至るところでのボトルネック(インターンシップ、若者の大企業離れ、中高年のリストラ)にもなっているのでその仕組みの違いを改めて紹介したい。 ジョブ型というのは職種ごとにキャリアを形成するスタイルで日本を除くおそらくほとんどの国で成立している仕組みだ(これは国が好き好んで採用する仕組みでもないのだ)。コックさんは見習いからはじめて厨房に立って、一人前になって独立するというと日本でもある仕組みだが、例えばサラリーマンの営業マンが死ぬまで営業マンで過ごす人は日本でどれだけいるだろうか?海外では営業マンは死ぬまで営業マンだ。IT部門で働く人は新入社員の頃からリタイアするまでITエンジニアとして人生をまっとうする(日本では営業では使えないと判断された社員がIT部門に送られることが多々あった。失礼!)。
この死ぬまで同じ職種での土台を作るのが学校だ。大学であれ専門学校であれ、教育を受けた専門課程こそ職業をこなすスキルを獲得するプロセスであり、業務を遂行できるサーティフィケートとして機能するのだ。文学部を卒業した人は教員になる以外は企業の商品のカタログやマニュアルを作成したりしている(マニュアル作りにも方法論が存在しているし、大学でレクチャーが行われている)。エリート教育が徹底されているフランスではグランゼコールという特別なエリート養成教育機関があり、そこを卒業した人は新入社員で配属される仕事は会社のCEOだ。もちろん小さな会社のCEOだがキャリアステップを積むごとに会社の規模が大きくなったり、複雑なマネジメントが求められる会社になっていき報酬を増やしていく。経営者こそ専門的な知識と経験が必要だと言う発想だ。またエンジニアだったが経営をやりたいからMBAを取得するというキャリアチェンジの機関として教育機関は機能する。
一方、メンバーシップ型というのは日本だけに見られる特有の仕組みで職種ではなく職能(職務遂行能力およびその遂行能力のポテンシャル)で評価が決まり、職種に関係なく配属されてしばしばローテーションされる。年功序列賃金制と終身雇用(神話かもしれないが)に支えられて成立している仕組みだ。会社の命令で転勤を繰り返し、与えられた仕事はいかなるものであれ(難易度が高かろうが、誰もがやりたくないような仕事であろうが)忠実に成し遂げる必要がある。ある意味平等な仕組みで新入社員として入社した時点で全員が社長になる可能性があり目指す権利がある(スタートラインの有利不利は別として)。そして会社に対しての忠誠心の深さと貢献度によって日々の昇格や抜擢が決まるところがある。
このジョブ型とメンバーシップ型が及ぼしている文化的な差異と日本企業の特殊性についてしばしば今後も述べていきたいと思う。