岩下慶一:持続可能経営の先駆者 米インターフェイス物語
米国アトランタに本拠を置くタイルカーペットメーカー、インターフェイス。1994年に地球に与える影響をゼロにする目標「ミッション・ゼロ」を掲げるなど、米国のサステナビリティ経営のトップランナーの一つだ。同社のエリン・ミーザンCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)に話を聞いた。(オルタナ編集委員・岩下慶一 )
インターフェイスの歴史は1973年に遡る。いまや、サステナビリティ経営の第一人者として伝説の経営者となっているレイ・アンダーソン氏によって創立された同社は、当初何の変哲もないカーペットメーカーだった。
だが1994年、順調に業績を積み重ねていたインターフェイスに転機が訪れた。企業としてエコロジーへの取り組みがないことを理由に、カリフォルニア州の大口案件を逃してしまったのだ。「わが社にとって決定的な転機でした」とミーザンCSOは言う。
これをきっかけにアンダーソン氏はエコロジーについて研究を始める。企業の社会的責任(CSR)が声高に叫ばれるはるか以前のことで、参考になる書物もそれほどなかった時代だ。
アンダーソン氏は環境問題研究家ポール・ホーケンの著作『エコロジー・オブ・コマース』に出会う。今では環境問題の古典となっている同書に触発された氏は、生産の軸足をリサイクルに移し、「ミッション・ゼロ」(2020年までに、二酸化炭素など環境に悪影響を与えるものをゼロにする)を目標に掲げた経営に舵を切った。
「当時レイは60歳でした。大英断だったと思いますよ(笑)」(ミーザンCSO)
筆者は2005年にアンダーソン氏をインタビューした。エコロジーと企業経営をどう結びつければいいのか、多くの日本人経営者が首をひねっていた時代だった。インタビューのテーマは「サステナビリティとは何か」というものだった。
ホーケンの著作を引きながら、アンダーソン氏がサステナビリティ経営について熱心に説明してくれたのを昨日のことのように思い出す。インタビューの最後にアンダーソン氏はこう付け加えた。
「経営というのはアイスホッケーのようなものだ(氏は学生時代ホッケーの名選手だった)。パック(ホッケーの玉)がどこに飛んでくるか、正確に予想することが大事だ。私はサステナビリティ経営こそが、次の時代にパックが飛んでくる方向だと確信しているよ」
「サーキュラーエコノミー」という言葉さえ存在しなかったころの話だ。慧眼である。
残念なことに、アンダーソン氏は2011年に世を去ったが、氏が掲げたミッション・ゼロは、2020年を目前にほぼ達成された。「現在、生産過程で生まれる廃棄物を92%まで削減することに成功しました」(ミーザンCSO)。
それと同時に、当初は実現不可能にも思えた挑戦の積み重ねが、インターフェイスをサステナビリティ経営のリーダー企業に押し上げた。
その結果、新たな目標を設定する必要が生まれた。ミーガン氏がイニシアティブを取り、従業員や顧客の意見を取り入れ、2016年に新スローガン「クライメイト・テイクバック」(正常な気候を取り戻そう)を掲げた。
「25年前は社内だけの目標を設定していればよかったのですが、今は業界をリードする企業として世界に訴えるゴールが必要になりました。それがクライメイト・テイクバックです」
ミッション・ゼロが主に技術的なゴールだったのに対し、クライメイト・テイクバックでは、フィリピンやカメルーンの海に投棄された漁網を回収しリサイクルする「ネットワークス」など、地域社会への貢献をプロジェクトに盛り込み、社会との関わりの要素を強めている。そしてインターフェイス社は、エコロジー問題に取り組むリーダー企業として認知されることとなった。
まさに、アンダーソン氏が予期した方向に「パック」は飛んできたのだ。ある意味で、インターフェイスの理想の具現化ともいえるSDGsについてミーザン氏はこう評価する。
「国連が世界の開発について明確なロードマップを作ったことはとても素晴らしいことです。分野ごとに順位をつけたことも評価できます」
SDGsに触発され、インターフェイスのような地域に根ざした取り組みを行う企業は大幅に増えた。だがミーザンCSOには注文もある。
「正直なところ誤解も生じています。SDGsは政府がどのように開発を進めていくかの指針ですが、こうしたことには企業の協力がなければ達成できません。政府と企業が連携しなければ(サステナビリティは)実現できないのです」
国連という組織の性質上、SDGsが国家を対象とした指針となってしまうのは止むを得ませんが、より効果的なものにするためにはもっと企業に向けてのメッセージを発信する必要があります」とミーザンCSOは語る。
「SDGsはサステナビリティの主体である企業も視野に入れたロードマップであるべきで、国連はもっと企業と対話すべきだと思います。政府と企業がいかに連携するかをより明確にするべきです」
SDGsの持つ曖昧さゆえに、これを利用したSDGsウォッシュ(企業イメージを向上させるために環境に配慮しているように装うこと)が横行しているのも懸念の一つだ。
「SDGsがウォッシュのために利用されるのは非常に残念です。企業の試みが本当に社会貢献に繋がっているかのチェックには、あまり努力が払われていないと言わざるを得ません」
自社のPRのためだけにSDGsに表面的に関わる企業も多い。そうした上辺だけのSDGsを廃するために、もっと厳密な指針を作り、その貢献度を計測する必要があるという。
エリン・ミーザンCSO
インターフェイス社チーフ・サステイナビリティ・オフィサー。レイ・アンダーソンの思想を継承し、25年以上前に掲げられた積極的なサステナビリティのビジョンを現代に生かし、「クライメイト・テイクバック」 策定のリーダーシップを取る。同社は、世界全体に良い影響を与えるため、地球環境に悪影響を及ぼすものは排除するという考え方を貫く。
(2019/10/09オルタナ誌から転載)
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