岩澤里美:世界初、プラスチックやアルミごみがゼロ 「コーヒー玉」カプセル式コーヒーメーカーが登場
<年間10万トンの廃棄物が出るというコーヒーカプセルを、土に還る素材にした>
インスタントでもドリップ式でもない、カプセル式のコーヒーメーカー「ネスプレッソ」はコーヒー業界に一大革命をもたらし、今や81カ国で販売されている。ネスプレッソは、スイスに本社を置く巨大食品メーカー、ネスレグループのブランドだ。地元でもネスプレッソの販売は浸透している。ネスプレッソが初めて市場に出回ったのは、1986年のこと。それから35年以上が過ぎ、今、サステナビリティを追求した新しいコーヒーメーカーが注目を集めている。スイスの大手小売業ミグロ(ミグロ傘下のデリカ社)が開発した。
コーヒー粉を固めて、カプセルなし
9月初め、小型コーヒーメーカーの新ブランド「CoffeeB(コーヒービー)」が、スイスとフランスで発売された。キャッチコピーは「カプセルのないカプセル式コーヒーシステム」。その謳い文句通り、このシステムの最大の特徴は、プラスチックやアルミニウム製のカプセル廃棄物を出さない点にある。ミグロが、世界で初めてこのボール式コーヒーメーカーを開発したという。
CoffeeBは、特許取得済みの保護膜で包まれた圧縮したコーヒーの粉「コーヒーボール」を購入し、専用のコーヒーメーカーにセットすると熱々のコーヒーが1杯ずつ出来上がる。保護膜は、通常のカプセルと同じように風味を損なわないようにするための酸素バリアの役割を果たしている。使用後はコーヒーボールも、この保護膜も完全に堆肥化できる。家庭のコンポストやミミズ飼育に使え、植木鉢の土に混ぜてもいい。最長12週間で、ボールは完全に分解されるという。コーヒーボールが入ったパッケージ(1箱9個入り)もリサイクルできる。
また、コーヒーメーカーもその大部分はリサイクル素材でできているうえ、設計はモジュール式のため壊れた部分だけを交換できる。コーヒーメーカーも特許を取った。
ミグロの社史で、最も優れたイノベーション
CoffeeBは、開発に5年を要した。システムの仕組みは以下の通り。まずはコーヒーメーカーにコーヒーボールが入ったら、機械内部のお湯でボールを湿らせて柔らかくする。次にボールを前後から押して穴を開け、ボールをお湯で膨らませる。そしてコーヒーを抽出し、ボールが回収トレイに排出される。
発売にあたり、ミグロのファブリス・ツムブルネンCEOは「CoffeeBによって、味覚体験、利便性、廃棄物ゼロを初めて兼ね備えることができた。私たちは、今日の消費者ニーズに応え、環境によい影響も与える技術を開発したと確信している。カプセル不要のシステムは、わが社のサステナビリティ戦略に100%合致している。当社の歴史で最も重要な製品イノベーションだ」とコメントした。2023年春にはドイツでも発売される予定で、その他の国への進出も計画中だという。
早くも、コーヒーボールが売り切れ状態に
コーヒーボールは目下8種類のテイストが選べる(スイスでは1箱4.60フラン=670円から)。コーヒーメーカーはブラックとホワイトの2色だ(169フラン=約2万4千円)。反響は非常に大きく、発売から1か月経った時点で、ミグロおよびCoffeeBのオンラインショップではいくつかのテイストのコーヒーボールが売り切れ、品切れになった店舗もある。筆者の近所のミグロスーパーでも、品数が薄いコーヒーボールが見られた。
ちなみに味の方は、スイスのバーゼルのコーヒーメーカー(中央アメリカのニカラグアの自社農園で豆を栽培し、バーゼルで焙煎し販売している)が試したところ、カプセル式コーヒーメーカーで作ったコーヒーに似ているそうだ。
なぜ、CoffeeBがこれほど注目を集めるのか。単に目新しい商品を試したいという人もいるだろう。しかし、エコ志向が益々高まるなか、カプセルを捨てなくて済む、カプセルをリサイクルに出す手間が省ける等の利点が歓迎され、ネスプレッソ以外のブランドも含め、カプセル式コーヒーメーカーを使ってきた人たちの一部がCoffeeBに切り替えているのではないだろうか。
廃棄される大量のコーヒーカプセル
世界のコーヒーカプセルは全体の約70%が捨てられており、年間廃棄量は約10万トン以上に上る(CoffeeBサイト)。スイスでは、現在、アルミニウム製コーヒーカプセルのリサイクル率は58%だという。同国の飲料用アルミ缶のリサイクル率が100%に近づいているのとは対照的だ。そんななか、アルミニウム製コーヒーカプセルのリサイクル率を高めようと、2020年にネスプレッソとデリカ社が「スイス・アルミニウム・カプセルのリサイクル」という団体を設立し、リサイクル率を75%に引き上げることを最初の目標としている。
スイスは、カプセル式コーヒーメーカーを使っている割合が60%と高い(以下、17%は全自動式、12%はモカポット、7%はドリップ式、4%はコーヒーを飲まない)。今後、新登場のCoffeeBの利用率が一気に高まり、カプセル式の利用率が下がっていくのか、その動向が気になるところだ。
掲載媒体:ニューズウィーク日本版
掲載日:2022年10月16日
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