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斎藤淳子:結婚談義談議で炎上?――激変する中国の結婚

▼激変する中国の結婚シーン
比類なき中国独自のスピードを意味することばに「中国速度」があるが、驚異的変化は中国の結婚シーンでも見られる。

2021年の結婚率(人口千対)は2013年の9.9からたった8年で一気に5.4に激減した。平均初婚年齢もたった10年で約4歳増し、晩婚化が進んでいる。一方で、離婚率(人口千対)に至っては近年最も高かった2019年は3.4と日本(1.57、2020年)の2倍以上に急増した。また、人口当たりの出生割合も中国建国の1949年以来最低を記録し、2022年には総人口が初めて減少に転じたのは読者も記憶に新しいだろう。

こうして、急激に変わり過ぎた結婚は現在適齢期の20代、30代にとっても、その親世代の40代〜60代世代にとっても、敏感な社会問題になっている。

▼結婚談義で上野千鶴子&北京大女子の動画が炎上
中国の結婚問題のマグマの大きさを示したのが、2月18日に動画サイトのBilibiliで公開され、150万回以上視聴された結婚・フェミニズムに関するネット対談の炎上だ。動画は北京大学出身の3人の既婚キャリアウーマンと上野千鶴子・東大名誉教授との女子会風のラフな対話だった。上野名誉教授の発言は好評だったが、前者は凄まじい批判に遭い謝罪。Bilibiliは動画を削除した。2月27日までのSNS「微博」の同動画に関する21媒体による記事の閲覧数は5.8億回にも上る炎上ぶりだった。

炎上した主な点は「知的なフェミニズムの話というより低レベルな自分の結婚話じゃないか!」という批判のほか、親の結婚催促などを嫌う新しい世代は動画を「良き妻と自己肯定しているだけ」と眉をひそめ、逆に伝統的な親世代は自分達の家庭観とはあまりに異なる独立女性のやり方に嫌悪感を示した。

こうして、今時の成功キャリアウーマンと上野名誉教授との対談は、相対する新旧両世代から「北京大卒のくせにこのレベル?」と袋叩きに遭った。これ程の騒ぎに発展したのは現代中国が抱える結婚・家庭観をめぐる分裂やストレスと無縁ではないだろう。結婚は今や敏感なテーマの一つだ。

▼結婚件数の減少や少子化の背景は?
では、独身者が増え、結婚や出産が激減している社会的背景は何だろうか? 一つは女性の社会進出と学生全体の高学歴化がある。元々中国の女性は日本の女性以上に社会進出しており、都市部に限れば家庭内の地位も高い。進学率も女性の方が高く、就業率は以前より減少しているが、依然日本より高い。近年は、就職難対策で大学院進学者を増やしており、2021年のトップ108大学の大学院進学率は44%にも上る。高学歴化で晩婚化も加速している。

また、人口学的には間もなく適齢期を迎える2001〜2005年生まれをボトムに(女子を100とした時の男子比率が116。正常値は103〜107。中国統計年鑑2021年版より)、その前後の1996〜2015年生まれの間で女子人口が減っている。男女人口のアンバランスのシワは貧困農村に寄り、婿が嫁家族に払う結納金は貧しい地域ほど高騰している。結婚のハードルは高くなる一方だ。

もう一つ、主に都市部の婿家族を悩ましているのが、新婚夫婦用の新居購入だ。2000年代中盤から不動産価格が右肩上がりで急騰したのと時を同じくして、都市部でも「結婚するなら男は家を準備せよ」という「新しい常識」が出来上がった。大都市の不動産は日本円に換算すると「億ション」もざらで、年収比で比較しても東京の2倍もする。重すぎる経済負担は結婚を変質させ脆くしている。

このように、急激な中国社会・経済の変化により若者の結婚は遠のく一方だ。この他にも子育て難や若者自身の考え方や心理面の変化も大きい。詳細は2月の新刊、『シン・中国人』(ちくま新書)をご参照頂きたい。

出典:JCC Monthly 2023年5月号、No270 中国百景―北京


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