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レジ袋有料化と環境問題:世界と日本の比較

岸田新内閣が発足し、閣僚の顔ぶれが出そろいました。これに伴い、小泉前環境大臣が導入したレジ袋有料化を白紙に戻そうという声が上がっていると聞いて驚きました。世界の常識とあまりに逆行しているからです。

「レジ袋を無料に戻して」という声

自民党の桜田議員がレジ袋について無料に戻すよう山口新環境相に相談しているとツイートすると、3万,以上のいいねが付いたということです。「無料に戻して」「出費がかさむ」「ごみ袋にしているのに困る」などのコメントがたくさん上がっていました。

地域の皆様からの要望で、レジ袋についてのご要望を頂いております。レジ袋有料化のメリットデメリットについて、私の盟友である山口つよし環境大臣に直接ご相談をさせていただきました。 pic.twitter.com/AngQBglZNx

— 桜田 義孝 (@ysakurada) October 5, 2021

山口新環境大臣はレジ袋有料化の見直しを求める声に対して「行政の継続を重要視し、急に変えることは慎重だ。」と言う回答でした。さすがにこの件に関して今さらのUターンはなさそうです。

レジ袋有料化をはじめとするプラスチックごみ問題については講座を用意しているので、そちらを参考にしてもらうことにして、ここでは詳細を述べません。

レジ袋有料化の効果は?意味ない?

今回、上がっていた批判コメントを簡単にまとめると、下記のようなものになるようです。

・今まで無料だったものに税金をかけるのと同じで、消費者に負担を強いる
・そもそもプラスチック問題って何?レジ袋有料化に意味あるの?
・レジ袋はプラごみのごく一部なので、有料化しても効果がない
・レジ袋はごみ袋としてリサイクルされている
・燃やせば済むのだからそれでいいのでは

このような批判コメントは、どれも的を得ていないと私は思います。なぜなら、そもそもレジ袋の件はプラスチック問題、環境問題のほんの入り口。レジ袋有料化は、そのようなもっと広い問題を考えたり生活スタイルを変えるきっかけとして導入されたものだからです。

レジ袋有料化なぜ?

問題となるのは、レジ袋が無料か有料かということではありません。そうではなくて、プラスチックの大量生産、大量消費、大量廃棄のサイクルそのものです。レジ袋をリサイクルすればいい、燃やせばいいという以前に、再利用したり燃やすものが出ないようにするのが最終目的なのです。さらに、レジ袋という身近なものについて考えることで、プラスチックごみをはじめとする環境問題に1人1人が関心を深めることにもつながります。

政府の資料も「レジ袋有料化の真の目的は有料化そのものではなく、使い捨てプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革をうながしていくこと」と説明しています。使い捨てプラスチックというのはレジ袋だけでなく、包装に使われるトレーや袋、ペットボトルなどが含まれますが、日本の商品はこのようなプラスチック包装がとても多いのです。

プラスチック過剰包装問題

日本でだけ生活しているとわからないかもしれませんが、日本の商品は食料品をはじめとして何もかもプラスチックでいちいち個別包装されていて、それがまた大袋に入っているという「過剰包装」です。それに日本に住む外国人が驚いているのをよく聞くし、私も通常はイギリスに住んでいるので、たまに日本に帰ると違和感があります。

とはいえ、慣れてしまうとそれが当たり前になるのでしょう。日本では家庭でも食料の保存などに気軽にプラスチック製ラップを使うことが多い印象を受けます。私はそういうものをほとんど利用せず、代わりに食器や密封容器を使っています。

少し前までは日本でもイギリスでもみな、買い物かごを持って八百屋や肉屋に行っていました。私が子供の頃はお豆腐屋さんに小鍋やボウルを持ってお豆腐を買いに行ってました。レジ袋がなくても生活はできるのです。レジ袋がないと困るというのは単に生活習慣の問題で、以前のやり方に戻せばいいだけ。慣れたら当たり前になることって多いもの。

現に日本でレジ袋が有料化されてからコンビニやスーパーでのレジ袋辞退率は70~80%と、有料化前の3倍に増えているということです。人々の意識や行動を変える効果があったということで、有料化は大成功と言えるのではないでしょうか。

環境省の調査によれば、レジ袋有料化以降、使い捨てプラスチック問題に感心が高まったと回答する人は56.9%、マイバッグの使用頻度が高まったという人は75.1%にのぼります。有料化導入の目的はかなり達成できていると言えそうです。

レジ袋有料化外国ではいつから?

日本がレジ袋を有料化したのは2020年7月ですが、これは国際的に見ると周回遅れの導入でした。イギリスを含む他の国では、レジ袋有料化をとっくに経て、今では使い捨てレジ袋の販売すら禁止されているのです。

イギリスのスーパーでは使い捨てのレジ袋はお金を出して買いたくても置いてなくて、欲しい人は「Bag for Life」と呼ばれる、何度も使える厚手の袋やエコバッグを買う必要があります。たいていの人はスーパーのかごに入れられる買い物袋やエコバッグを持参し、それを繰り返し使っています。

もちろん、これはイギリスだけではなく、世界的な傾向です。2021年7月時点で、77か国がレジ袋の使用を全面または一部禁止しています。

イギリスでレジ袋が有料化となり、その後に使い捨て袋が使用禁止になった時、日本のような反対意見はあまり聞きませんでした。室内禁煙措置が導入された時もそうでしたが、前に比べると少し不便にはなったものの、いいこと、すべきことは積極的に受け入れようという姿勢でした。中には内心は不満に思った人もいるのでしょうが、不平を言うのは自分のことしか考えないわがままだと思われるから恥ずかしいという感じ。

レジ袋有料化反対意見が多いのは

日本では、どうも反対意見ばかり目につくような気がしますが、これは日本人一般の環境や社会のために貢献する意識が低いからなのでしょうか。

最近、日本ではSDGsに関する関心が高まり、それに関連するリサーチや講演を依頼されることも多いのですが、そういう相談をする人でも気候変動や格差問題などについてあまりご存じない、または関心がない方が多い印象です。

メディアがいたずらに批判を煽るような記事ばかりのせて、政策の真の目的や意義をきちんと説明したり、情報提示やデータ検証を報道しないのにも原因があるのかもしれません。

世界とのずれ

もうひとつは、人権や環境、多様性や平等などといった分野で日本社会はグローバルスタンダードから少し(かなり?)ずれているということも関係しているように思えます。日本で日本語のメディアばかりに接していると内向きになり、国際感覚から遅れてしまっていくようなのです。これは一般国民だけでなく、日本メディア、政治家や各界リーダーなどの意思決定者にも共通する傾向です。

小泉元環境大臣も就任直後、国連の環境サミットでニューヨークを訪れた時にわざわざステーキを食べに行って外国人記者があきれたというエピソードがありますが、その後環境分野での造詣を深めて脱炭素化に取り組み、それなりに成果を上げてきました。

山口新環境大臣は、これまで環境分野で経験や知見がある方なのかどうかはよくわからないのですが、外交官出身で国際的な視野をお持ちの方です。グローバルスタンダードがどのようなものであるか理解していれば、日本が環境政策においてどのような役割を果たしていかないとならないかは肌感覚で十分にご承知でしょうから、期待しています。

海外メディアの重要性

ところで、話は少し変わりますが、最近日本の方と話していて気になることが多いので、この機会にお伝えしたいことがあります。これは環境問題に限ったことではないし、日本人だけに限ったことでもないのかもしれないのですが。

日本で日本語のメディアや発信だけ聞いていると、客観的な見方や国際的な関心や規範からかけ離れていると思うことがよくあります。中には陰謀論や非常識な考えが日本では検証されないまま垂れ流されていることもあります。

別に欧米の考えだけが正しいというのではありませんが、英語はもはや国際語なので世界各国の人が読み聞きしています。日本語だと日本人くらいしか読まないので、変なことでも見逃されてしまいがちですが、英語で同じようなことを書いたら、すぐにあちこちから批判されて引っ込めざるを得なくなります。

真にバランスの取れた、客観的な報道が知りたいのなら、日本語だけの情報に頼らず、国際メディアのニュースや発信をもチェックするように心がけるべきだと思います。

英語がわからないという人でも、最近はBBCやCNN、AFPなど外国メディアが日本語の記事を出してくれているので、せめてそういう情報を追いかけるようにするといいでしょう。記事の見出しだけを見ても、日本メディアの情報とかなり異なることがわかり、今世界ではどのようなことが問題となっているのかを確かめることができます。

そういうニュースを追いかけていれば、レジ袋有料化を白紙に戻すなどということがいかに時代錯誤的な考えかが身をもってわかるというものです。


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Global Research『都市計画・地方創生・SDGs』
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