見出し画像

帰路の歌

(ぜひ高画質で)

転職の面接のため、東京へ行ってきた。
香りに関するお仕事。

とても素敵な職場だったし、
「ウチで働いてもいいよ」と言ってくださったが、
最終的には辞退させていただく運びとなった。
職場のカラーと自分のカラーが
合わないんじゃないかという気がしたから。

でもとても良い経験をさせていただいた。
カラーは違ったかもしれないけれど、
本当に素敵な職場だったし、
代表のお人柄がとても魅力的だった。
スタッフの方々もすごく優秀そうな人たちだった。
出会うはずのなかった様々な人たちと出会い、
その価値観や考え方に触れることができた。
そして自分が生きている世界とは
まったく違う世界がそこにあることを知った。

東京には芸能人がたくさんいる。
でもたとえば、もし自分に
人を惹きつけるカリスマ性が備わっていたとして、
芸能人としてやっていけるかというと、絶対に無理だ。
精神がもたない。
人から注目され、称賛されたり、嘲罵されたりする日常。
自分なら耐えられない。
たとえ称賛が100%だったとしても。
なぜなら、「自分の行いが人にはどう見えるだろうか?」と
いつも気になって仕方がなくなってしまうだろうから。

僕は地元で、田んぼ道を散歩しながら
ひとりで歌を歌ったりする。
菜の花と、すみれと、大待雪草だけが、その歌を聴いている。
自分の歌を、他の誰にも聴かせたくはない。
音程も声色も歌詞も気にせず、ただ好き勝手に歌っていたい。

でも、人に歌を聴かせる仕事がある。
人の注目を集める——それを仕事にしている世界もある。
その美しさで、人を魅了して生きていく世界がある。
とても遠い世界。
そして多分、自分には生きていけない世界。

東京で——その職場で働くということは
たとえばそういう世界に踏み込んでいくことだと、肌で感じた。

転職活動のために、
年末からかなりの労力と、時間と、お金を費やしてきた。

それは徒労に終わっただろうか?
いや、ぜんぜん無駄だったとは思わない。
むしろ、費やした何倍もの実入りがあった。
東京は魔法の街だ。
住むには煌びやかすぎるが、
訪れるたびに、いろんなことを気付かせてくれる。

僕はこの道を選ばなかったけれど、
「この道を選ばなかった」で終わらせたらもったいない。
「この道は選ばなかったけれど、この道ではない道を選んだ」と
自信をもって言えるようにしたい。

もしかしたら、東京に転職して、
そこで数限りない出会いと経験を経て、
そして東京で死んでいくというストーリーもあった。
でもそのストーリーは選ばなかった。

「新しい職を見つけること」、
「香りのスタジオをひらくこと」、
「小さな祭りを催すこと」、
「英語」「資格」「登山」「岩石」
「茶の湯」「読書」「睡眠道」etc.、
そして「動画日記を書いていくこと」。
福岡に帰ってきてから、僕はさっそく目標を立て、
やるべきことをやりはじめた。

10年前に大学を選ぶとき
北海道の大学に進学するというストーリーもあった。
でも結局は地元の大学を受けることにした。
北海道に行っていたら、
何もかもが違う人生になっていただろう。
そして福岡で出会うはずの
いろんな人には出会えなかっただろう。

もし東京に行っていたら歩めなかった人生を、
この地で歩んでいかなければならない。
そして東京に行っていたら出会えなかった人たちに、
このさき出会っていかなければならない。
それが僕の選択。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?