帰路の歌
(ぜひ高画質で)
転職の面接のため、東京へ行ってきた。
香りに関するお仕事。
とても素敵な職場だったし、
「ウチで働いてもいいよ」と言ってくださったが、
最終的には辞退させていただく運びとなった。
職場のカラーと自分のカラーが
合わないんじゃないかという気がしたから。
でもとても良い経験をさせていただいた。
カラーは違ったかもしれないけれど、
本当に素敵な職場だったし、
代表のお人柄がとても魅力的だった。
スタッフの方々もすごく優秀そうな人たちだった。
出会うはずのなかった様々な人たちと出会い、
その価値観や考え方に触れることができた。
そして自分が生きている世界とは
まったく違う世界がそこにあることを知った。
東京には芸能人がたくさんいる。
でもたとえば、もし自分に
人を惹きつけるカリスマ性が備わっていたとして、
芸能人としてやっていけるかというと、絶対に無理だ。
精神がもたない。
人から注目され、称賛されたり、嘲罵されたりする日常。
自分なら耐えられない。
たとえ称賛が100%だったとしても。
なぜなら、「自分の行いが人にはどう見えるだろうか?」と
いつも気になって仕方がなくなってしまうだろうから。
僕は地元で、田んぼ道を散歩しながら
ひとりで歌を歌ったりする。
菜の花と、すみれと、大待雪草だけが、その歌を聴いている。
自分の歌を、他の誰にも聴かせたくはない。
音程も声色も歌詞も気にせず、ただ好き勝手に歌っていたい。
でも、人に歌を聴かせる仕事がある。
人の注目を集める——それを仕事にしている世界もある。
その美しさで、人を魅了して生きていく世界がある。
とても遠い世界。
そして多分、自分には生きていけない世界。
東京で——その職場で働くということは
たとえばそういう世界に踏み込んでいくことだと、肌で感じた。
*
転職活動のために、
年末からかなりの労力と、時間と、お金を費やしてきた。
それは徒労に終わっただろうか?
いや、ぜんぜん無駄だったとは思わない。
むしろ、費やした何倍もの実入りがあった。
東京は魔法の街だ。
住むには煌びやかすぎるが、
訪れるたびに、いろんなことを気付かせてくれる。
僕はこの道を選ばなかったけれど、
「この道を選ばなかった」で終わらせたらもったいない。
「この道は選ばなかったけれど、この道ではない道を選んだ」と
自信をもって言えるようにしたい。
もしかしたら、東京に転職して、
そこで数限りない出会いと経験を経て、
そして東京で死んでいくというストーリーもあった。
でもそのストーリーは選ばなかった。
「新しい職を見つけること」、
「香りのスタジオをひらくこと」、
「小さな祭りを催すこと」、
「英語」「資格」「登山」「岩石」
「茶の湯」「読書」「睡眠道」etc.、
そして「動画日記を書いていくこと」。
福岡に帰ってきてから、僕はさっそく目標を立て、
やるべきことをやりはじめた。
*
10年前に大学を選ぶとき
北海道の大学に進学するというストーリーもあった。
でも結局は地元の大学を受けることにした。
北海道に行っていたら、
何もかもが違う人生になっていただろう。
そして福岡で出会うはずの
いろんな人には出会えなかっただろう。
もし東京に行っていたら歩めなかった人生を、
この地で歩んでいかなければならない。
そして東京に行っていたら出会えなかった人たちに、
このさき出会っていかなければならない。
それが僕の選択。
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