「言葉が通じる男」という幻想

1月14日(火)

明け方、地震が来るほんの少し前に目が覚めていて、体は金縛りのように動かないのに妙にはっきりしている意識の中で揺れを味わった。また目を閉じて、でも絶対に寝坊してはいけないと思うと眠りに落ちていくこともできなくて、1時間半ほどそうして過ごしてから起き出した。化粧をしてもひどく顔色が悪い気がする。頬に血色がなく、唇も、リップを塗ってもくすんだ茶色にしか見えない。

昨日に引き続きパワハラ気質の同僚のワンマンプレイに腹を立てたりして過ごす。

帰りにT氏と合流した。しばらく会っていなかったし「インフルダイエットだね」という意味不明なLINEが来てから面倒になってほとんど連絡をとっていなかったので、久々に話す。私は面倒になっているし向こうはこちらの出方をうかがっているので全然会話が進まない。距離を取りたくて敬語で話す。なにに腹を立てていたか一方的に話して別れようとしたけれど、Tが私の最寄り駅で一緒に下車してついてきたので、2人で駅前の焼鳥を出す居酒屋に行く。全然酒を飲みたくなかったし飲んだら言わなくていいことまで言ってしまいそうだったので私はウーロン茶を頼む。向こうもこちらに合わせてウーロン茶を頼んだので、なんで居酒屋に来たのかまったくわからない。こちらに合わせず好きなもの飲めばいいのに、面倒くさい。

「これ以上話をしても、私に、『あなたはあのときも○○だった』って過去をむしかえされて不愉快な思いをするだけだと思うけれど」
「あなたの言動は全部、こちらの気持ちを思いやっているんじゃなくて、自分が怒られないためにその場をやり過ごすためにこちらの顔色うかがっているだけだよ」
などと吐き捨ててみる。こんなこと言ったってどうせ意味ないんだよなあと思いながら言っている。むなしい。私が好きだった男はもうなんでもない男になってしまった。いや、男は変わっていなくて、私が男に「言葉が通じる男」という幻想を抱いていられなくなってしまった。それを恋と呼んでいた日々はひどく遠い。

私の家まで送りたいと言うので急な坂を並んで一緒に上がっていった。いつもの癖で手をつなぎそうになったけれど、ダウンジャケットのポケットに突っ込んだ手を一度も出さなかった。もう届かない。家の前に着いてすぐお休みなさいと言って別れる。
帰りが遅くなったので、ここのところ毎日一章分ずつ読み進めていた『狂うひと』は一章の半分しか読めなかった。

#日記 #エッセイ #恋と似て非なるもの

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