ハリエンジュの庭
ハリエンジュは特別に心に置いた花だが、いつごろ咲くのかと聞かれれば正確には返せない。そもそもわたしのなかの細かな季節の順序は非常にあいまいで、その季節に準じて花を開かせる植物の知識は半端なものしかなく、このころに咲くだろうという予測は当たったり外れたりする。
かつて住んだ家の傍にはハリエンジュの大樹に囲まれた/守られた子供たちの遊び場があった。楽園、とさえいってもいい。子供の足には少しだけ幅が広すぎる水路を、思いっきり、勢いをつけて飛び越える。境界線。白い花。空を仰げば小さな白い花びらの群れが風に舞いくるくると。ひかりがみちて。
天から降るような大ぶりの花の房。
名も知らぬ女性が棘で指を傷つけぬよう気を付けながら、ひとふさひとふさ収穫していく。油で揚げるのだという。その女性。近所に住む友人の母だったか。おすそわけされたそれは古い油の味ばかりがした。
(花を喰うこと、)
いまお世話になっている神社の周囲にもハリエンジュはある。それも大量に。季節と風の強さと来訪の歯車がぴったり合うと、素晴らしいものを見せてくれる。細かな白い花びらが群れとなって、龍のようにうねり、散り、地面を滑り、駆ける。そんな時間に出会えることもある。桜の花吹雪とも似ているかもしれないが、私にとってはハリエンジュのこの「舞台」のほうによほど心惹かれている。