240228
珍しく晴れる。その下の土を思いながらざらついた雪を踏み締めて、祈りを込めて歩いた。一歩一歩、ただしく冬が行き春が訪れますように、と祈りながら。柏の枯れた葉がざわざわと挨拶をしてくれる。風が吹いている。あの山から、遠く、あちらの山まで。見えない道が敷かれ、糧を求める白鳥たちが声をあげて飛んでいく。
ふと目の前に湖があった。どこまでも続く巨大な湖だ。私はその中に波紋もなく立っていた。端は深い霧によって見えず、ただ大きいということが感覚としてわかった。水の下では真っ白いリュウグウノツカイが何匹も優雅に泳いでいた。あれは。あれは真冬の夜の空を泳いでいた龍だ、と気づく。ここにいたの、と心の中で語りかける。あなたたち、ここにいたの。
霧の中から白い鹿が歩いてくる。あれは森の王、冬の森の王。瞳の青さ。空の青さ。透き通っていく祈り。血と呪いの染み込んだ大地に、青い水脈が流れていく。
(でもほんとうは、きっと、いつだってそうだった。)