第10話 暑中見舞と年賀状
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ある日、富岡先生は語ってくれた。
「俺はね、旅行が好きなんだ。特に北海道が好き。
景色が雄大で、本当に綺麗で。これまで、何回も何回も北海道に行って、何枚も写真を撮ってきたよ。
電車も色々写真を撮ってきたし、切手とか、
はがきとか、手紙も好きだね。
何年も前の教え子から暑中見舞が来たり、
年賀はがきが来たり。けど、そうしているうち
やりとりの人数も増えちゃって。
今では暑中見舞も年賀状も百何十人分も書いてるから、もう大変なんだよ笑」
「!!!そんなに書いてるんスか?」
「だって、返事が旅行中の北海道の消印で返って
きたら、みんな喜んでくれるかなって思って。」
年賀状なんて、絵柄が決まってるフォーマットが
沢山あるのに、ましてや(2004年の当時も)
メール一本あれば用件なんて伝わる時代なのに、富岡先生は一人一人違うメッセージを、
手書きで添えて返す。
暑中見舞、年賀状。いつも余白びっしりに
メッセージを書いて返事をくれる。
もう便箋にしちゃえば?って思ったりもしたけど。
富岡先生からのはがきには、いつも先生が撮った
北海道の写真がプリントされていて、
ただただ広い草原、日の入り、朝日、雄大な景色
だったり。いつもすごく凝った作りだった。
北海道をモチーフにした曲も、
「フレトイ」「フレトイ再び」と2曲もある。
アイヌ語の曲名が珍しくて興味を引いたし、
しかも2曲のテイストの違いが、
北海道の自然の様々な側面を、暗示しているような気がした。
2004年、中2の夏、私は富岡先生に暑中見舞を出してみた。
旅行先の物産店で見た、小さなうちわがついた
レターセット。
白地のうちわに、筆ペンでなぜか「友情」って書いた気がする。なんでだっけ笑その暑中見舞の返事もちゃんと届いて、
ただそれだけのことなんだけど、
とても嬉しかったんだよなぁ。
夏休みや冬休みで、部活が無くても、
どこかへ旅をしている富岡先生の存在を
感じられるような気がして。
実は、富岡先生の誕生日は9月3日で、これは
ドラえもんの誕生日と同じ日だから、
よく生徒たちには「ドラえもん」て仇名で
呼ばれていたそうな。
好んで、水色のワイシャツを着ていたのも、
ドラえもんを意識していたのかな。
「大変なんだよ」といいつつ、話す富岡先生は
満面の笑みを浮かべていた。
まん丸で、やさしそうな
その笑顔が、今でも心に焼き付いている。