光の魔法
生まれて初めて色ガラスに触れたのはいつのことでしょう?
ラムネの瓶の淡い緑、金魚鉢の縁の青、色とりどりのビー玉やおはじき、風鈴やビードロ、お父さんのウィスキーの瓶…子供の頃に出会った色ガラスの美しさに心奪われた経験はありませんか?
私は7歳まで祖父母に預けられて育ちました。幼いころを過ごした静岡県の大井川河口近くの川尻という町には、東芝の大井川工場がありました。当時は(昭和30年代)高い塀もなく松林を通り抜ければ守衛さんの目を盗んでたやすく工場の裏手に出ることができました。
工場の裏には廃棄物が山積みにされていて、当然のことながら子ども達の恰好の遊び場になっていました。その瓦礫の山の中から私が見つけた宝物は濃い茶色やグリーンの色ガラスの破片でした。
直接見たら目がつぶれると大人たちに言われていた太陽を、まるで見てはいけない秘密を暴くように自慢げに透かして見ては遊んでいました。そんな後ろめたさも加わり、ガラスは子どもにとって危険に満ちた魅力的な遊び道具だったのです。
私が今ガラスを素材とするステングラスの仕事に惹かれたのは、もしかしたら、そんな子どもの頃の記憶があったからかもしれません。
ガラスは天然には存在しない人工素材です。それは紀元前数千年もの昔に、人間の英知によって作りだされた特殊技術の産物でした。長い歴史の中で、この特殊技術は王宮直属の職人の手によって育まれ進歩してきましたが一般には公開されませんでした。
ステンドグラスに使われる色ガラスもこの職人の技によって作られています。その昔、庶民が決して触れることができなかった色ガラスが、今ではその気になりさえすれば誰でも学べることに感謝せずにはいられません。
私は20年この仕事を続けていますが(現在は38年目になります)、ステンドグラスを創るたびにいつも新鮮な喜びを感じます。
光がステンドグラスを透過したその瞬間、それまでに費やした時間も、さっきまであった空間も、全て消え去り、まるでどこか異次元からガラスが時空を超えて目の前に立ち現れたように思える時があります。
何億光年も昔に発した太陽の光が、色ガラスを通して現代の私達の目に届いたとき、人は<光の魔法>にかかり、魔法にかかった瞬間、私達の身体の中に眠っていた遠い祖先の記憶や、子どもの頃の思い出が蘇るのではないではないでしょうか?
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