ターミナル
体の隅々に疲労とストレスを行き渡らせないと、眠れなくなってしまいました。24時間営業の、マクドナルドの光る看板を目指して、朝なのか夜なのかわからない闇をさ迷う人造人間がいます。そのすぐ横を原付バイクが通りすぎて行きます。
心では、電源を切りたいのに、元気な体が歯痒いです。この世界は、本当は、僕らでは認識できないキラキラしたなにかに、包まれていてほしいです。本当は。
新しい家や、お洒落なお店は温かみのある電球が光っていて、目に優しい。反対に、そこら中のマンションの廊下は、白々しい蛍光灯が隊列を成し、また僕は落ち込むのです。そんな世の中を恨むのではなく、そんな所に気付く自分の浅はかさを恨みます。
僕はクラッシュに助けを求めました。半ばすがるように、ウォークマンをいじりました。ジョーストラマーよ、僕を助けてくれたまへ。お前の「アティテュード」とやらで、「姿勢」とやらで、白い暴動さながら今宵も暴れてくれ。マクドナルドの黄色い看板は、もうどこにもありません。幻だったのでしょうか。
もうすぐ始発電車がやってきます。僕はターミナルのゴミ箱に、最後の「人間らしい心」を捨てました。これでようやく不眠ともおさらばだ。スイッチひとつで眠りにつける。
そしたら不思議な事が起きました。イヤホンから聴こえるジョーストラマーの歌が、依然として私の心に突き抜けてくるのです。おかしい。私は「人間らしい心」を全て捨てさったというのに。しばらく呆然としていたその時、私はようやく、ジョーストラマーという人のことがわかったような気がしました。でも私はそれをわかろうとする心をすでに持っていませんでした。