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花を摘む。
アスファルトの隙間に咲く 小さな小さな野花が好きだ。
春色たけなわである頃には、まるで小銭を探しているかのような眼力で (ただし近視&乱視&老眼)。
道の隙間を凝視しながら歩いていた。
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陰鬱と、うつむいて歩くことの多い人生に、ぴったりはまったのかも知れない。
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膝と股関節痛で、しゃがみ立つことも難儀な上に、
私なんかに摘まれてしまうのは 花が痛そう かわいそうだと思っていて、
これまでは摘むことを避けていた。
けれどゆきちゃんが旅立ってから、それはそれは摘むようになった。
「ゆきちゃんへ」と思うと摘んでも許されるような、自分勝手の型はめである。
「きれいだね。ゆきちゃんにね」と言いながら摘んでいる。
11月に脱走をしてしまったあの日のことは、今でもフラッシュバックする。
22歳高齢にして4階の階段を降り、玄関を出て左。
駐輪場の陰。
彼女がうずくまっていた場所を通るたびに、苦しくて苦しくてぎゅうっとなる。
春、草も生えたその場所に目をやると、大好きなワスレナグサが咲いていた。
そして夏前には、どこから飛んできたのか、カモミールが咲いていた。
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脱走した時は草も枯れた時期だったけれど、
ゆきちゃんを守ってくれてありがとうと、
土や草や花に声をかける。
死期を早めたかも知れないあの日の理由を見出せないまま。
死期を悟っての最後の脱走だったのか。
懐かしい草の匂いを嗅ぎに行きたかったのか。
それとも私への訴えだったのか。
今でもあの日の事を懺悔する。
蘇っては後悔と自責の刀を胸に突き刺す。
一晩中血が止まらなかった最後にして最強の噛み傷は、
残酷にも、私の命を蝕む事なくむしろ日に日に傷跡が薄くなっていく。
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お願いだからもうこれ以上跡が消えませんように、残ってくれますようにと、
「アットノン」の逆バージョンはないものかと、
「オットアル」とか「キズノコール」とか。
これに限っては自然治癒力を憎んでいる。
彼女のお骨や写真の周りを、なるべく花や草でいっぱいにしたい。
高価で華やかなお花は買えない。
近所のスーパーさんで100円切り花デーがあるので、
春前はよく買うようになった。
今時期は野花でいっぱいで、買わなくても華やかだ。
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最近は花を摘みに行くだけのために近所を散歩したり、
「帰り道この花摘んで帰ろう」と励みにしたり、
見慣れないお花を見つけた時は嬉しくなる。
道端の電柱に咲いていたお花が、透け感のある花びらでとてもきれいだった。
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調べたら、ムスクマロウというお花で、お茶にしたり食べる事もできるらしい。
うちの棟だけ、玄関のまわりに毎年かわいい花が咲く。
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他の棟には咲いていない。
調べるとデージー(デイジー)(ヒナギク)というお花で、鉢植えでも育てたりするらしい。
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とても可愛くて、気に入っている。
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ただ虫が苦手なので、いつか野花でひと休みしていたムッシにギャアアとなる日も近いかも知れない。
蟻とか増えたら大変だしなんかダニっぽいのにも気をつけないと…。
少し前の2月のこと。
母が鮭の切り身を3切れ焼いていた。
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「2切れ入り買ったつもりが 3切れ入りだったのさ」
「ゆったんが私の分も!って言ったのかも知れないから焼いたわ」
と、1切れしっかりお供えしていた。
お花たくさんに鮭のいいにおい。
ゆきちゃんがいるところは こんなふうに幸せだといい。
ゆきちゃんはかりんとうも嗜んでいたようで。
かりんとうがお供えしてあった事もあった。
かりんとうがまさに、ゆきちゃんのうん○にそっくりなので、
うん○が懐かしくて愛おしく。
母と「そっくりだね。懐かしいね。立派なのしていたよね」と笑ったりもした。
すべてが懐かしくて、
すべてがもう2度と戻って来ない。
心の深くに、大事に大事に埋め込んで行く。
そして今日もせっせと花を摘む。
今日も愛するきみのために。
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