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小田急線ダイヤの問題点と改善点を探る
〈はじめに〉
東京・新宿から神奈川県のベッドタウンや中心都市などを経由し小田原や江ノ島、多摩ニュータウンに向かう通勤路線・小田急電鉄。東京都心に向かう通勤客や実質的な神奈川県第四都市町田を中心に様々な乗客を日々支えている。そんな小田急線だがこんな話を聞いた事はないだろうか。
「遅延の回復が遅く、いつまでも遅れている」
「すぐに直通運転を切るから本数が減っている」
「快速急行や6両の急行が昼間でも酷く混んでいる」
私はそんな話を聞く度に「またそれか...」と思ってしまう。事実、人身事故など大規模な輸送障害があれば直通系統は全区間で運休してしまうしそれによる混雑で回復もままならない。また、都心に出るにも県内移動でも快速急行ありきのダイヤのため人口が特に集中する登戸〜本厚木は嫌でも快速急行に乗らざるを得ない状況でありラッシュ時はもちろん休日の朝や夕方ですら立ち客が溢れんばかりだ。それにも関わらず、各駅停車や急行は多摩や相模の空気を乗せて悠々と走る。この混雑格差はかなりの問題点である。今回は小田急線ダイヤの根本的な問題を探り、改善点を提示しよう。
〈人口が多いなら増発すればいいじゃない!?でも簡単にはできない〉
小田急の夕ラッシュ、あまりにもエグすぎて笑ってもうた
— 一部区間空席あり (@ynu_hazawa) June 20, 2023
下り快速急行、下北到着時点で圧力によりドアが開かなくなるトラブル発生。これが遅延も何もない平常運転なのが恐ろしい
※画像はドア閉扉時ではなく開扉時です pic.twitter.com/XeQSkCKjDZ
小田急の快速急行、何が凄いって土休日夕方の上りで乗り切れないレベルに混んでること
— 一部区間空席あり (@ynu_hazawa) May 28, 2023
沿線人口がバカ多すぎる
先ほども書いた通り沿線人口は非常に多い。小田原線であれば神奈川県の県央地域を縦貫するように走っているため町田を軸とし東側は東京への通勤輸送、西側は都心への通勤輸送に加え横浜線を利用した横浜市街・新幹線の需要、沿線に点在する企業や工場・大学の輸送、繁華街である町田市街の都市圏通勤などで両方向混雑がみられる。新宿〜町田に至っては両方面の通勤者がおり一種の都市間輸送のように固定の乗客がいるといっても過言ではない。
しかし、同区間の優等列車は8本、各駅停車を入れて14本しかない。2本は特急で追加料金が必要な上に全てが町田に停まるとは限らず、6本ある各駅停車は新百合ヶ丘または登戸で快速急行に追いつかれてしまう。つまりは残る6本の快速急行で移動するしかないのだ。さらに海老名や本厚木に向かう乗客も多くそれらも快速急行と特急では所要時間に遜色ないため結果的に快速急行ありきで乗客は行動しなければならない。
さらに新百合ヶ丘や登戸で南武線に乗り換える場合もどうか。新宿〜新百合ヶ丘で多摩線直通の急行が3本合流するがそれでも結果的に快速急行に集中しがちだ。加えて向ヶ丘遊園発着で千代田線に乗り入れる急行もあるが、新宿には行かないとあって乗車率は低めだ。さらに新宿・新百合ヶ丘断面では快速急行の2分後に急行が出るため、よほど乗り逃したわけでもなければ快速急行に乗ってしまうだろう。さらに恐ろしい事に本数が減りはじめる登戸〜本厚木が一番利用客が多いため通常の遠近分離は通用しないというところだ。
〈急行停車駅でも人権は?快速急行ありきダイヤの実態〉
小田急線の快速急行は終日混む事が知られており、特にラッシュ時は200%を超える混雑もしばしば見られ停車駅では下位列車との乗換も多く見られる。それを駆使し、急行でさえも快速急行で代用できるようになってしまった。その結果急行を快速急行で置き換えが進み急行停車・快速急行通過駅の停車本数が減少してしまった。一体なぜそうなってしまったのだろうか。
このような「快速急行が中心」になったダイヤ改正は3回ある。1回目は2016年3月26日改正で、それまで急行6本に快速急行3本(と多摩急行2本)といったサブ立ち位置から快速急行6本・急行6本(3本は小田原線方面、3本は千代田線〜唐木田)と快速急行が遠距離輸送において主体になった契機でもあった。これは千代田線直通列車の運用制限の車両対応がなくなったため増発が可能となり、同列車で近距離の世田谷区内を補完できるためでもあった。
2回目は2018年3月17日改正で代々木上原〜登戸(←向ヶ丘遊園)の複々線が完成したダイヤ改正である。この区間では停車駅を増やし緩行線を走るようになった準急・通勤準急や多摩線から新宿に直行する急行・通勤急行(この改正で新設)が近距離を、新たに登戸に停車する快速急行が遠距離輸送を担当するからいわば遠近分離と速達化がはかられた改正となった。これにより多くの急行が快速急行に格上げされたが、停車駅の多くで都心までの所要時間が短縮された反面急行が減った事により一部の快速急行通過駅は下位種別(主に各駅停車)で快速急行の停車駅まで乗らざるを得ない状況となってしまった。なお、江ノ島線内の南林間・長後については朝の快速急行が相模大野まで急行となる事で停車本数を確保している。
3回目は2022年3月12日ダイヤ改正である。かの有名な新型コロナウイルス感染症により利用客数の減少、および乗務員の減少を受け適性本数に変更するものでありこれ自体は他社も実施していた。しかし、この改正で大幅に本数および1列車のキャパシティを減らしてしまったため結果的に特定列車に集中した混雑が押し寄せてしまうのである。具体的には朝ラッシュ時の小田原〜相模大野間の急行や日中の新宿〜新松田の急行、夕方の千代田線〜本厚木の急行などを削減・(両数など)短縮・他列車の行先変更を実施するものであった。小田急の場合、速達列車である快速急行を減らすのではなく急行・準急(特に新百合以西の町田方面に直接行けるもの)が削減対象となっており一番混雑する快速急行には特に減便されていない。つまり、これまでサブで支えてきた急行を削減し快速急行に登戸以西の全てを背負わせるという事だ。しかも、残る多摩線や千代田線〜向ヶ丘遊園の急行は快速急行より圧倒的に混雑率が低く空気輸送になる事も珍しくない一方、6両の急行という超混雑列車が誕生してしまった(後述)。なんたる格差。
そんな快速急行ありきのダイヤでは通過駅の人権がないようなもの、という声もある。実際に向ヶ丘遊園から町田方面に行ける下り急行列車は平日48本・休日32本とかなりの減りっぷりであり、同じく快速急行通過駅の南林間は下り平日13本・休日6本、上り平日18本(うち朝の14本は相模大野から快速急行)・休日6本とあってないようなものである。日中はどちらも急行がない状態のため付近の快速急行停車駅まで各駅停車で出るしかない。仮に急行があったとして、どうしても途中駅で快速急行に接続するため新宿方面へは快速急行に乗り換えないと速くいっできない事もある。夕方に見られる上り急行はまさにそれで、海老名や小田原方面から急行に乗車しても新百合ヶ丘で(藤沢方面からの)快速急行に追いつかれてしまう。
また複々線区間でも急行はあまり機能せず、区間外の駅を発着するから場合は急行が使えない状況もままある。例として生田は毎時6本の各駅停車が停車するが直近の登戸で快速急行に接続。急行に乗る場合は経堂か成城学園前で乗り換える事となり同駅から急行は有効列車として機能しない。千代田線の駅を発着する場合もよほど座りたい場合でなければ登戸・代々木上原での乗り換えで間に合ってしまう。こちらはまだ新宿まで辿り着けるだけマシかもしれない。このように何をどう移動するであれ快速急行が必須条件となってしまうのである。次項では急行について解説する。
〈問題だらけの急行!ワケあり列車の存在理由〉
先ほども紹介した小田急線の急行だが、現状では各駅停車と快速急行に挟まれる形で間を縫うように走りあまり有効列車として機能していない。そんな急行は主力的なものが3種類存在し、それぞれ癖のある特徴をもっている。なお、今回は開成駅に停まるために新松田〜小田原で急行に変更する列車は除外する。
①新宿〜唐木田(毎時3本)
②我孫子〜常磐線・千代田線経由向ヶ丘遊園(毎時3本)
③町田・相模大野〜小田原(毎時3本)
①は快速急行の直後に新宿を出発し主に世田谷区内の経堂・成城学園前をターゲットとする。新百合ヶ丘から多摩線に入り、大部分が各駅停車となり唐木田まで向かう。しかし、多摩線に向かう乗客は少なく栗平での通学関係以外にはごく少数の多摩ニュータウンへの乗客とほとんど空気輸送である。町田方面の快速急行が大混雑しているのとは対照的だ。さらに向ヶ丘遊園または登戸で特急の通過待ちをするため速達性も薄い。小田原線内で輸送障害が起こると次の千代田線直通とともに運休となるのも痛いところだ。
②はいわゆる"地下鉄直通"であり複々線区間の急行を補完する役割を果たす。千代田線方面の利用が特に多い世田谷エリアに特化した役割を持つ。しかし上りはともかく下りの乗車率は低く、町田方面には行かない上に肝心の世田谷ユーザーは千代田線からの乗客は各駅停車に乗り換える事が多い(先行の各駅停車とは経堂ではなく成城学園前で連絡)。さらに遅延時の影響を最小限にするため短区間に再編されたものの千代田線・常磐線で輸送障害が発生すると真っ先に直通運転中止(=運休)となるため特に問題のある列車といえるだろう。
③は町田以南の県央地域輸送に特化し、本厚木〜小田原で各駅に停まるものである(通称:赤丸急行)。県央地域と町田市・小田原市双方にアクセスする電車ではあるがいかんせん6両である事と新宿方面に行かない事が災いし"使えない列車"と揶揄されている。しかも上りは相模大野においてこの列車から接続する藤沢方面からの快速急行は満員で発車していくのに対しこの列車は1両に数人という始末である。さらに相模大野〜本厚木は6両では足りないくらい多くの乗客を乗せる上海老名で各駅停車を抜く(=各駅停車は町田断面で本厚木・愛甲石田・伊勢原の有効列車にならない)のでとんでもない混雑集中列車ともいえる。Xで「赤丸急行」と調べるとかなりの批判ポストが出てくるのも特徴。
①②に関しては2018年ダイヤ改正でこの形に再編された。元々千代田線〜唐木田という系統が長らく運転されており快速急行のカバーでタッグを組んでいたが、ダイヤ乱れ時の影響が大きい事や千代田線直通の需要が世田谷エリアに多い事・複々線の効果で新宿〜多摩ニュータウンの勝負ができるようになった事で運転系統が分離された(当時、千代田線〜向ヶ丘遊園は準急)しかし、結果的にボリュームゾーンから離れている事や急行への格上げによる世田谷エリアの停車駅減少で空気輸送が一層際立つようになってしまった。朝の通勤急行は確かに効果あるが、それ以外の時間帯は京王線の方が速達性で優位であるため一層混雑率は低い。途中でほぼ座れる上小児運賃の50円化も行われているのでファミリー層中心に「朝は速達性、夜は快適性」などと割り切った需要に振るのも間違いではないっちゃないが…
③に関しては2022年改正前の「新宿〜新松田の急行」「新松田〜小田原の各駅停車」に戻すべきでは、という意見がよく見られるがそうもいかない理由がある。というのも前者と後者は新松田の引き上げ線を共用している上後者は一度方向転換し引き上げなければならない。このような二度手間と遅延の波及を防止するための苦肉の策だったと思われるが、現状相模大野〜本厚木の混雑が激しい事を考えると何らかの対策は必要だろう。
〈最適なダイヤは?偏りがないダイヤパターンの行方〉
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さて、ここまで長いこと小田急線のダイヤを批判してきたところだが、結局どういった観点でどういった対策をすべきなのか。まず問題点をまとめていこう。
①新宿〜町田の都市間輸送の利用が多くさらに県央地域への往来が非常に多いが、快速急行(料金不要の優等列車)が毎時6本しかない
②登戸〜本厚木の沿線人口が特に多く快速急行に集中しがちだが、前述の通り本数が少ない上登戸に停まる・同駅含め多くの駅で下位列車の乗客を拾うためかなり混雑する
③小田原線の遠近分離はあまり利用者数が多くない都内側で行われており、利用者数が特に多い登戸〜本厚木で行われていないため機能していない
④リカバリーをする急行が少なく、急行停車駅で本数が少ないためも快速急行停車駅まで各駅停車で移動しなければならない。また快速急行の前後を走るほか各駅停車との接続が少ない・県央地域方面に行かないため急行の利用率は少ない
⑤町田以南において6両の急行があり、さらに海老名で各駅停車を抜くため本厚木までで混雑が激しい(その対策で各駅停車の伊勢原延長や伊勢原での特急と接続が行われる)
⑥小田急線や千代田線で輸送障害が起こると列車が運休となりダイヤホールが発生する。近年は全列車各駅停車という事態も発生している
これらの内容を考慮しこんな改善策を挙げたい。ただし、以下の内容は2025年のダイヤ改正内容を反映している。
①朝ラッシュ時において、多摩線の通勤急行を快速急行に、小田原発快速急行を通勤急行とし混雑を分散。また通勤準急は登戸〜経堂で急行線を走行、複々線区間の優等列車は平行ダイヤとする(輸送障害時、通勤準急は成城学園前で打ち切るか運休する多摩線快速急行のスジで新宿に流す)
②日中、快速急行と各駅停車の接続駅を新百合ヶ丘のみとし急行が登戸(と代々木上原)で各駅停車に接続する。また急行は千代田線〜唐木田が3本/時、新宿〜町田・唐木田を1-2本/時(40分間隔を交互)とし町田方面を補完
③同じく日中、町田発着の急行に接続する形で町田〜片瀬江ノ島の急行を40分間隔で設定、新宿〜大和以南の有効本数を4-5本/時に増加させ南林間・長後の有効列車を増発。藤沢〜片瀬江ノ島の各駅停車は20分間隔に減便し快速急行に接続
④これも日中だが、赤丸急行はそのまま直前の各駅停車を一部伊勢原まで延長(往復とも)。また特急の停車駅を見直し基本的に町田・伊勢原、新百合ヶ丘・相模大野・伊勢原に停車する。
⑤夕ラッシュ時、小田原側を全て急行とし快速急行は藤沢発着・唐木田発着とする。それぞれは新百合ヶ丘か相模大野で先行の急行に接続。これに加え40分間隔で千代田線〜伊勢原の急行を運転し新宿発着を補完。
簡潔ではあるが以上の結論である。(机上の空論)
①に関しては特に混雑が激しい本厚木側から来る列車において玉川学園前〜生田の通過駅利用客を乗せるとパンクしてしまうのであえてそうならない列車とし分離をはかる。一方多摩線快速急行は新百合ヶ丘と登戸で通過駅や南武線との乗換客を乗せる事で近距離を担当させる。また、急行線を走る列車は平行ダイヤとする事でどれか1列車に集中させないようにする。さすがに現状の快速急行5分間隔ですら厳しい現状ではこれが最適だろう。また輸送障害で直通運転を打ち切る場合、新宿側の混乱でダイヤ乱れが拡大する現状を考慮すると成城学園前で打ち切りか多摩線快速急行を運休させた上でそのスジで新宿に向かうのが最適解ではなかろうかと感じる
②③は県央地域需要を考慮したものである。そもそも多摩線に10両毎時6本ではかなりの空気輸送になってしまう。その割に町田方面が混雑しているため、半数を町田に振ってしまおうというわけだ。ただ折り返しは相模大野の中線で行う。町田では各駅停車と江ノ島線急行に接続する事で県央地域エリアの有効列車としても機能させる。江ノ島線急行は6両ではあるが町田から江ノ島方面に南下する事で大和以南の有効列車を3本から4-5本に増発し不均等間隔による接続の悪い藤沢〜片瀬江ノ島の区間列車をパターン化する。
④は赤丸急行の混雑対策で、需要の高い本厚木・伊勢原方面の有効列車を増発する。各駅停車なら8または10両なので混雑は解消できるかもしれない。また伊勢原で特急と緩急接続する事で速達性向上と着席性のアピールができるだろう。
⑤は心理利用した結果だ。沿線の利用者は朝は急ぐため直近の速達列車停車駅で乗り換えるが、夜の帰宅時は目的地までなるべく乗り換えのない列車を選ぶ。さらに2方面に交互に出るパターンの場合目的地でない方向の列車は(例え乗り換えを込みで有効列車になろうとも)避ける事が多く、急行の3分前に快速急行が出る事を考えればよほど乗り逃さない限り快速急行に集中してしまうのだ。という事は、特に利用者が多い本厚木側は急行に統一しそれに接続する列車を快速急行とすれば新宿側はある程度混雑が分散されやすいだろう。特に利用率が低い唐木田側を快速急行とする事で向ヶ丘遊園〜百合ヶ丘の乗客も無理なく乗せる事ができるだろう。また千代田線からの列車は遅延・運休しても影響の低い急行としつつリカバリー策として機能させる。
〈おわりに〉
以前から触れたかった内容である小田急線のダイヤを今回取り上げた。設備面で制約が多く遅延が拡大しないような対策を取らなければならないが、ぜひとも現状の一部列車に混雑が集中し混雑度の格差がみられる状態から利用状況にあったパターンを確立できるよう頑張ってほしいものだ。
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