親愛なる氷川きよし様へ

息子はどうやら歌が好きなようで、いや好きかどうかは不明だがとにかく歌によく反応する。

発端は、1歳の頃にオムツ替えを断固拒否する息子に業を煮やしてヤケクソで歌った「きよしのズンドコ節」である。楽しく遊んでいたところを、異臭を嗅ぎ付けた母にオムツ替えスペースに強制連行されて力の限り抵抗していた息子が、歌い始めると即座に泣き止んで、目を丸くして大人しくなった。「え、いきなり何?」とドン引きしたのかもしれないが、母は「勝った」と思った。
以来ぐずったらオムツ替えお風呂着替えいつでもとりあえずズンドコで凌いだ。効き目は上々で、大の時など大変助かった。興が乗れば手拍子で合いの手を入れてくれるほどに息子も成長した。母も成長し、フルコーラスでズンドコ歌えるようになった。

YouTubeで本家を流しても効くが、咄嗟にスマホが出せないので覚えてしまうのが手っ取り早い。コツは、のど自慢にでも出たつもりで本腰を入れて熱唱することである。しっかり歌いこむほど効き目が高い。隣近所に聞こえるかもしれないが、多分もう手遅れなので気にしない。風呂上がりの逃げる全裸男子にオムツを履かせる方が先決である。
難点は、朝から全力熱唱すると、1日頭の中がズンドコすることである。出勤して超絶真面目な書類作りに追われていても、エライ人が視察に来る日でも、頭の中で氷川きよしが華麗に踊っている。一度など、ズンドコしすぎて保育園バッグを丸々忘れた。保育園の先生に事情を説明するわけにもいかず、家に引き返した。「ズンドコが」と切り出して、20代の先生に通じなかったら事態が悪化するだけだ。
もう一点難点がある。外で使えないことである。使えないことはないが人の目が憚られる。抱っこしながら小さい声で歌ってリズムを取るのが関の山だ。何回かやってみたが、リズムが独特なので、「あのお母さんズンドコしている」と気づかれた可能性は否めない。紳士淑女が奥ゆかしく指摘しないだけで。

さて、興味の赴くままに色々試してみたが、「きよしのズンドコ節」ほど効果の高い楽曲はまだ見つからない。次点で「2億4000万の瞳」である。これは「ジャパーーーン」の前に溜めて溜めてコチョコチョを繰り出すと効果覿面なのだが、サビまで長いのが難点である。その他、「かもめが翔んだ日」や「時代」、「待つわ」「まちぶせ」「だんご三兄弟」もそこそこ効いた。レパートリーが昭和なのは看過していただきたいが、得てして(私が好んで歌う)昭和の歌はやや暗めで粘着質なので、情操教育に良くないのではと思わなくもない。その点ズンドコ節は、メロディーも覚えやすく詞も暗くなく、リズムが良くて幼児でも覚えやすい。掛け声に名前も入れられる。素晴らしい。
ということで、ズンドコ節を盾にして、来るイヤイヤ期を迎え撃つ所存である。もう氷川きよし様に足を向けて寝られない。心底感謝しています、このご恩は忘れません。

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