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スナックのママから教わった愛の日記

スナックで働いていたときのお話。


私はこの話をするまで、ママと話したことは仕事に関することばかりでプライベートの話なんてしたことなかった。話を振られても適当に返してたから多分ママは察してなにも話しかけてこなかった。

でもある日、好きな人ができて愛を知りたいと思った事がきっかけで毎日心がざわざわとするようになった。愛について分からないことばかりだ。夜の世界で働いてたとしてもカネになる愛しか知らなかったから。愛する人のための愛を知りたいと思うようになった。
それからは、愛についての本を読み漁るようになった。哲学的に述べた本や、心理学を用いた愛の説明書だったり。幾らの知識も入ってきたが、愛についての理解がそれ以上深まることがなかった。そんな時にママにふと話してしまった。

「ママ、私愛がよくわかりません。カネの為でない愛ってどういうものなんでしょう」

開店したての店内は珍しくお客の姿がなかった。お客に笑顔を振り向くことが嫌になってきたからこの日は幸運だった。好きな人を思い浮かべた時間が長く、心が落ち着かなかった。ざわざわと心を触ってくる私の好きな人。私の心を落ち着かせてくれない彼のせいなのか、はたまた今日食べたご飯がずいぶん美味しくなかったからこんな事を呟いてしまったのかもしれない。


……
………

どれくらいの時間が過ぎたか、ママが話してくれた。

「毎月自分が経験した愛や優しさや考えを書き留めなさい。毎月貴方には違う愛が見えるはず、それは今だけしか感じれない愛やけん。愛について真面目に勉強するなんてやっぱり変な子やね。」

あの日のママのこちらを優しく見つめながら言ってくれた言葉を忘れられず、あれから幾歳過ぎたか分からないがまだ日記を書き続けている。
今はもうあのお店もなくなってしまったけど、いつかママにこの日記を見せてみたい。
あのときの好きな人とは結ばれなかった。でも愛について毎月更新があって、今もまだ新しい愛と遭遇していますなんて親子のように話したい。



あとがき
この物語はノンフィクションです。あつみが体験した、子どもを持たない、パートナーを持たない、強く逞しい女性に会ったお話しでした。お酒が強くて、心に芯があって。可愛いもの好きで、高いヒールの似合う切れ長の目の女性でした。
夜の世界で働くということは沢山危険がありました。それでもそれ以上の経験や言葉や意志を一身に受けられました。一部だけ切り取れば
顔で飯食ってる
男に媚びを売るしか能がない売女
など、罵詈雑言を浴びます。それでもその世界に飛び込む人の中にはお金だけではなく、情しかない人達もいました。そんな人のお陰で私は今日も生きています。

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