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映画「カラオケ行こ」における「おくる/うけとる」の愛の表現
こんにちは!
2024年にみた映画のなかで、「言語化したい感情がうまれた」映画である「カラオケ行こ」の好きなところをまとめました。このnoteには以下のことが含まれます。
・映画、漫画「カラオケ行こ」のネタバレ
・オタクの妄言
みたあとすぐの感想
良かったよね〜!!!!! 映画「カラオケ行こ」見ました!!!!!!!!漫画も買いました!!!!!「ファミレス行こ」も買いました!!!!!ほんとうに良かった〜!!!!!!!
今見たらテンション上がりすぎだろ。
そのくらい良かったということ。
「カラオケ行こ」における「愛」
わたしは「カラオケ行こ」について原作者しか知らなくて、存在は知ってるけど内容は知らなかった。
結論から言うけど、この映画は主人公聡実と狂児の「愛」に真摯に、そしてひとつひとつ丁寧に向き合っている作品だったと思う。
なお、この作品は原作はブロマンス作品だと思うので、ここで表現する「愛」はなんかいいかんじのじっとりした重たい感情の意味で用いています。
・愛の表現その1 「傘」
はじめに学校に狂児さんがきたのを合唱部の女の子たちが気づいて、聡実くんに教えてくれたところ。 忘れた傘を聡実くん側に傾けたシーン。
合唱部の女の子たちが黄色い悲鳴をあげた理由について。
あれ絶対女の子たち側からみたらキスしてるように見えてたからだと思うんです!!!!!!!!!!絶対そうだって!!!!!二人の顔だけが隠されて、重なって見えるんじゃないか、キスしてるように見えるんじゃないか、そう示唆させるシーンで……とても美しくて……。
見えるかどうかは一旦置いておくとしても、傘で狂児が聡実を引き入れる感じが、「まさに懐に入れました」という愛の第一表現だと思うのです。
・愛の表現その2 「気づき」
合唱部で伝えられた「愛を込めて歌うこと」。また、映研(仮)の同級生いわく「愛は、与えること」。でも、愛ってどういうことなんだろう。
そこで、母親が父親の皿へ夕飯のサケの皮を移すシーン……。黙って受け取る父親……。聡実はそこで気づく。そう……愛って、何かを渡す/受け取ることなンだ……!
ここめっちゃ好きですね。「聡実の愛の気づき」として映像が丁寧。聡実の家庭が愛に溢れていて、ただの子どもである聡実が、正しく家庭から愛を学んでいる。
「愛は与えること」、それはもちろんなんですけど、「与える」って一方向ではなく相互的な作用だと思うんです。相手側が受け取ることでようやく「与える」行為が成立する。これはつまり、映画中で表される、与える/受け取る行為は「愛」の表現だと思う。
映画では、夫婦間で愛があり、もちろん両親息子間でも愛がある(=親子間でのプレゼント:新しい傘、お守り)。それが、映画全体で示されていたのが本当に良かった。
新しい傘を親から渡される(贈られる/与えられる)場面は漫画にはないし、愛について考えるシーンもない。
映画では明確に「おくる」「うけとる」関係を「愛」と強調していると思う。
それをふまえて、聡実が狂児へお守りをプレゼントしたこと、「げんきをあげます」は正しく自身から狂児への愛なのだと、映画の聡実はきっと気づいていた上での行動なんじゃないか。
で、狂児にお守りをプレゼントし、ドタバタあったけどちゃんとそれを狂児が受け取った、という事実の重みが、スッーと脳にきいてきますね。後述するんですけど、この愛の定義は映画の結末、最後の描写につよく効いていると思うんです。
・愛の表現その3 「狂児の名刺」
バッグから狂児の名刺を見つけた聡実の、最後の一言聞きましたか?「おったやん」ですよ。
狂児の名刺は初めて出会った時に渡され、そして無理やりにリュックにねじ込まれていました。
わたしは映画では“愛”は与える/受け取るの関係であると言いましたが、これ、名刺にめちゃくちゃ効いてくると思うんです。
狂児からの名刺を最初、聡実は直接受け取らなかった。名刺を差し出した狂児は、受け取らない聡実を見てまずカラオケの机に置き、そして聡実のリュックにねじ込む。
出会いの名刺、それは聡実が拒絶したものの、狂児から押し付けられたものだった。でも共に過ごした日々を経て、最後、幻だったのかもと不安げな聡実は狂児の名刺を見つける、あの日の狂児を見つけるのです。幻ではなかった、あの日々は本当にあったものなのだと安堵して「おったやん」って笑う聡実……。
その瞬間に、名刺は、「おくる/受け取る」行為は、時を経てまさに2人の間の愛になっていたことにこちらは気づくのです。
「おったやん」で暗転するのが最高ですよね。
夢十夜だよもうこれ
名刺にかかる「紅」
「お前は走り出す何かに追われるよう 俺が見えないのかすぐそばにいるのに」うおおおおおお!!!!!!!これだ!!!!!!!!
ヤクザたちのカラオケ大会が終わって、狂児とは連絡が取れなくなって、そのまま、中学を卒業する聡実。ヤクザ通りがなくなることが決まったと聞いて、その中を聡実は狂児を探し歩く。でも狂児はどこにもいないし、カラオケ大会をしていたスナックさえも閉まっている。でも、かつて狂児と二人で並んで話した建物の屋上で、自分のカバンのなかから狂児の名刺を見つける。そう、「俺が見えないのかすぐそばにいるのに」という紅の歌詞通り、「すぐそばに」あることに気づくのです…………。
ここめっちゃ好き!!!!狂児は幻なんかじゃなくて本当にいたのだと、狂児の事故のときに通りを走っていた(=「おまえは走り出す 何かに追われるよう」)時だって本当はそばにいたのだと気づくんだよな。本当に良い映画だあ……。
まとめ-映画「カラオケ行こ」の魅力
わたしはね、「劇的な出会いをして、ともに日々を過ごすつれ互いに強い感情を持ちながら、最後はその感情を抱いたまま二度と会わなくなる/会えなくなる」のが大好きなんだ。わかるか、これはローマの休日や。ローマの休日が本当に大好きでですね……。
まあ「カラオケ行こ」は再会するし、むしろその再会するところが魅力だと思う。狂児が実際は死んでいなかったり、連絡が取れなくなって二度と会えないと思っていた狂児との再会が仄めかされたり、この作品って明るい方向へ見る側に対する裏切りがあって、見ていて安心できる。良い作品だあ……。
二人の関係性がまだ続くことを、狂児の「聡実」刺青をチラ見せしながら、まんじゅうこわい戦法が通ったこと、まんじゅうこわい戦法に「聡実」の二文字を選ぶほど二人の時間を狂児が尊んでいたことを示すのほんま良いよね。
全体的にこの映画は丁寧で、漫画からの改変も結構あったのにめちゃくちゃ綺麗にまとまっててすごい美しかった。流れが整ってて、ヤクザの描写は不快になりすぎないようにコミカル(これは漫画もそう)。
でも、漫画では聡実がガンギマリヤクザに対してあんまり怖がってないのを、映画ではしっかり怖がる男子中学生としてたの、リアリティ重視で良かった。映画研究会(?)を生やしてきたことで、ヤクザを怖がる映画版の聡実が、ヤクザ通りに行かなければいけない理由を作ってるの理がかなっててよかった。改変が上手い良い映画や〜。
漫画と比べて映画は全体的に、聡実と狂児の愛の話だとわかりやすくしてる印象がつよい。(三角関係勘違いに怒る聡実とか特に。) あと漫画も映画も、狂児が歌いやすい曲を集めてきた聡実へ向ける、狂児の顔が優しくて大好き。どちらも最初に聡実のメモを見るんじゃなく、説明する聡実を見つめてるのが好き。
以下、蛇足
・狂児さんだけならいいです
これ、漫画でも言ってるんだけど、展開がちょっと違ってるんだよね。ヤクザ大勢にアドバイスしたあと、狂児の車で家に帰ってる途中で、少し照れながら「でも、狂児さんだけなら……」。コマ割りが大きくされているわけではなく、あくまで、サラッと言ったように描写されている。こーれ漫画も良いんですけど、映画はここが!!見せ場です!!!ってばかりに抜いてるの本当によかった〜!
・めがね
聡実くん役、齋藤潤くんのおかげで眼鏡の良さに気づきました。以前までは眼鏡のことをただの視力矯正の器具としてしか見てなかったんだけど、眼鏡って……すっげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーわ……。眼鏡って、どんなイメージありますか?基本、知的な印象だと思うんですよ。眼鏡ちょっと外したシーンあったと思うんですけど、あの時は、単に「1人のかっこいい男の子」だったんですよ。眼鏡をつけるとあら不思議!「耽美な美少年」やんか〜!
かっこいい男の子に眼鏡つけたらあんな耽美な雰囲気出るんだ!知らなかった!物憂げ耽美少年すぎる!眼鏡って、スゲー!
・綾野剛
好きになっちゃうよ〜泣ごめん、すごいわ。狂児、漫画の女児プロフ帳の「生まれ変わるなら何になりたい?」の欄に吉沢亮って書いてるの見て心臓飛び出た。これもしかして狂児役が吉沢亮だった可能性もあったのでは……?でも吉沢亮は狂児って感じゃないよね。綾野剛が合いすぎてそれ以外考えられない。
・鏡
パンフに映像化が難しい理由として、登場シーンがカラオケボックスばかりで映像映えしにくいためとありましたね。
そこで、鏡ですよ。カラオケボックスに鏡がついていることはご確認されましたか。あれうまいよね。どうしてもカラオケの画面に向かなければいけない綾野剛を映すための鏡でしょう、あれは。普通ないもんね、カラオケの個室に鏡なんてさ。映像が上手いよ〜。
あとヤクザとのカラオケ大会のスナックでも入り口に鏡がありましたね。あれすぐ入ってきてからの聡実の顔が見れるようになってるのいいよね。映画が上手いよ〜