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血の女王

いつからだろう…
「自分は他人と違う」
そう思いだしたのは…

子供の頃から感じていた
「違和感」
最初に感じたのは、親に似ていない事。
両親を「親」としての認識が無かった事。
成長するにつれそれは見た目や考え方の違いにまで発展していった。
学校でも一人で過ごし、図書館にこもり本を読みふけっていた。

沢山の本を読んでいる内に私の興味をそそる本があった。
「吸血鬼」に関する内容の本や、資料。
何故か夢中になってその世界に惹き込まれ、そして私の心がざわつく感覚を覚えた。
吸血鬼の起源は古代ローマ、ギリシャ、エジプトまで遡る。
「バンパイア」
そう言われるようになったのは11世紀頃。
奴隷売買が行われていた東欧地域で、スラブ語で死から蘇る人、トルコ語で魔女を表すウピルが語源。
死者を埋葬する時にバンパイアの疑いがある遺体は、頭部を切断されたり、喉や腹部に鎌を引っかけるように置いていたり、口にレンガを詰めこまれたりと、バンパイアとして蘇っても攻撃されないように埋葬されていた。

生き血を吸うバンパイア。
それによって不老不死になり、長い年月を生きていく。
私は本を読みながら色々考えた。
長い年月を過ごしていく中で、人と同じように「愛」が芽生えた事は無かったのか、「大切な人を守る」事は無かったのか。
それとも愛しい人を守る為に自分の命を捧げたバンパイアもいたんだろうか…と…

もし…
お互いに惹かれ合い「愛」が芽生え、そして子孫を残しバンパイアである自分を捨て、「人間」として命を終わらせたバンパイアもいたのかもしれない。
そうして何世紀にも渡り世界中にバンパイアは移動し、その国で子孫を残して静かに消えていく。受け継がれたバンパイアの血は薄くなっていって、本人も気付かないかもしれない。それでもその体に巡るバンパイアの血、バンパイアとしての記憶、それはきっと魂の奥深く眠っていて時がくれば目覚めるのかもしれない。

バンパイアはきっと、どんな生物よりも高貴な存ちであり、そして人間が感じる「孤独感」を一番強く持っているはず。
誰とも混ざり合う事もなく、一人で生きていく。
だからこそ、誰からも征服されずずっと奪う側で生き続け自らを「絶対的な強者」としての威厳があったはず。
血を持って、牙を持って、仲間を増やし頂点に立つ「王」になる。

私が感じ始めてきた事。
一人でいるのに、気付けば自然とリーダー的な存在になっていて周りを率いていくようになったり、何故か尊敬の眼差しで見られていたりと、自分が意図していなくても周りが私をトップにする。

ある日、私は自分の産まれた時の写真や記録が一切無い事に気づいた。でもそんな事は気にもしていなかった。
それは私が「虐待」を受けていて、両親に愛されていない事を知っていたから。
食事も与えられず、何日も外に放置される事も少なくなかった。
それでも生きていけたのは、周りが自然に囲まれていて、山菜や木の実、果実、水の流れる小さな小川があったから。
そして両親は私を捨て居なくなり、その時思ったのは「やっと一人になれた」という、「安堵感」。
それでも子供の私が一人で生きていくには限界があった。
「お金」という現実と、「大人が必要」な世間。お金は大した問題じゃ無かった。
私は両親には気付かれないように、ある方法で既にお金の簡単な稼ぎ方をしていたから。
それは自分の体を大人の男性に「捧げる」事。
最初は「求められたから」「与えた」その見返りがお金だった。それが私が生きていく上での「手段」。
問題なのは、世間体。
大人じゃないと出来ない事。大人同士の集まりや、学校からの呼び出しだったり…
両親がいなくなったのをいつまでも隠し通せる訳じゃない。
だから私はありとあらゆる場所を移動し、自分の存在を消し静かに生きてきた。
幸い、私の個人情報は存在しなかったし、親戚もいなかったから、捜索願いも出されずに「両親と何処かに行ったんだろう」という事ですまされていた。

そうやって月日が経っていき、私は少しずつ成長し、段々と自分の魅力に気付き始めた。
鏡に映る自分の姿、日本人に見えない顔や、急激に変化していく自分の体。
自分でも理解出来ない程、鏡に映る姿は魅力的、そして一番変化があったのは「瞳の色」だった。
元々薄い赤茶色の瞳だったのがハッキリと「赤色」に変わっていた。
赤色の瞳は、暗い闇の中でまるで宝石のように輝き妖しい光を放っていてそれを見た男性達は振り向き熱い視線を向け近づいてくる。
でも私の視線が向く方向は、首筋に見える血流。
私は近づいてきた男性と夜を共に過ごした。
男性が剃刀で首に擦り傷をつけた瞬間、私は無意識にその首筋から流れる血を舐めていた。
そして感じた。
「血が甘い」
私は初めて舐めた血の味に夢中になり、舐め続け、そして勢いあまって、噛み付いてしまった。
男性は聞いた事も無い程の声を上げ、身悶えしながら、恍惚の表情を浮かべ私にしがみついてきた。
どれくらい舐めていたのか、それともどれくらい吸い続けていたか分からないけど、恐らく数十分位。
男性が力なく意識を無くし倒れた事で、私は自分が何をしていたかに気付いた。
横たわる男性の首筋についていたのは、擦り傷とそして、小さな穴の開いた二つの牙らしき痕。
私は鏡を見て、自分の歯に牙がある事に気付いた。
「いつの間に…」
男性と会う前には無かったはず。
それが今は二本の牙が間違いなく自分の歯に伸びていた。
喉の奥に残る「血の味」。
今までで一番「美味しかった」甘い血の味。
私の体の中を巡る男性の血は、私に「幸福感」を与えてくれた。
私の中にあった、満たされない心と違和感がこの瞬間で満たされ、そして産まれた「征服欲」。
全てが満たされ、極上の感覚に感動し、「生きている」と実感出来た。
足元に転がる男性を見て私はその男性の耳元で囁いた。
「私に従え」と。
男性はうっすらと目を開け
「あなたの為なら…」
そう言いながらまた意識を無くした。
それが初めて経験した、15歳の夜だった。

赤く輝く瞳と小さな牙は、夜になると現れてくる。
昼間はいつも通りの薄赤い瞳、勿論、牙も生えてはいない。
だから誰にも気付かれる事は無かった。
初めての夜から私は毎日のように深夜に化粧をし、紫のドレスを着て街を彷徨い「獲物」の男性を探すようになった。
私にとって「獲物」の男性は簡単に捕まる。
私の赤く輝く瞳を見た男性は自分から私に近づいてくる。
私は毎日捕らえた獲物の血を吸い、甘く優しい声で囁く。
「私に従え」と。

血を毎日吸い続けていくうちに少しずつ私の記憶の奥深くに眠っていた光景が見えるようになった。
いつの時代かはハッキリ見えはしないけど、何千、何万の男性を従え「女王」として君臨していた光景。
大きな城には女性は一人もいない。いるのは同じく赤い瞳を持った男性達ばかり。
さながら私は「女王蜂」のようだった。
何故、こんな記憶があるのか…
記憶も曖昧で、思い出せるのは断片的な部分と光景。
何世紀も生きてきたのか、それとも一定の時期が来たら自分を封じ、子供に戻り記憶が無いまま人間として生き目覚める瞬間まで一人で過ごしていたのかもしれない…

血を吸い続け、一年が過ぎた。
私の体と思考はもうすっかり「大人」になっていた。
住んでいた街はもう私の支配下にあり、男性達は自ら私に血を吸われにきて、男性達は女性から血を吸い、その血は私に捧げられる。
循環していく血の道。
拡がっていく私の血。
蘇ってきた古い記憶。
自分が何世紀もの間生き続け、何十年、何百年と「女王」として君臨し、世界を征服し支配していた記憶。
時代事に、人を操り、政治を操り、全てを自分の物にしていく。
その為の知恵を学ぶ為に私はありとあらゆる「書物」を読み、その時代の仕組みや、人を観察し、どうやったら人の心が「喜怒哀楽」を示すのか、信頼を得る為にはどうすればいいか、それを知る為に無意識で子供の頃に自分の「本能」で感じて読書ばかりしていたのだろう。
沢山の本を読んでいる内に、「闇の世界」に興味が出てきて色々と調べていく過程で、「吸血鬼」について詳しくなり、そしてその理由に初めて気付いたのが、15歳の夜の出来事だった。
「血の甘さ」そして初めて満たされた心の闇と人を「征服」する気持ち。
それともう一つ…
男性のあの「恍惚」の眼差しを私に向けてくる視線の「快感」…
血を吸いながら感じる体中に巡る熱い血液の感覚…
尽きる事の無い「欲望」…
満たされていく体と心…
そんな毎日を過ごせる「幸福感」…


権力や力での征服は、いつか反感を買う。軋轢に耐えられ無くなれば裏切り、そしてその支配から逃れ、やがて崩壊する。
征服するのに効果的なのは、精神と体の支配。
常に満たされていれば、自分が「征服」されていると思わず、軋轢は生まれない。
精神、心の征服。
優しく甘い囁きと、与えられる「快楽」…
逆らえる者等いない。

人間とはとても弱い生物。
体がどんなに強くても心が傷付くと、あっという間に壊れる。
壊れた心はどんなに屈強な肉体でも蝕んでいき、いずれ死に至る程のダメージを受ける。
人間にとっての心、感情は生きていく上で絶対に傷つけてはいけない、とても繊細なもの。
そんな弱い精神等、持ち合わせていない私。
奪う側に立ち、与える側に立ち、征服等絶対にされず、そして血によって支配し、絶対的な存在になれる。

古い記憶の中に埋もれていた私が一度だけ感じた「愛」という気持ち。
愛したせいで感じた事のない、寂しさ、哀しさ、失いたくないという正に「生物が持つ愛」という本能。
何故愛したのか、それはもう今では分からない。何世紀も前の記憶。
そしてその時に誓った事。
「二度と愛さない」
愛さえ無ければ、苦しみも、哀しみも、寂しさも感じない。
愛は心を壊す…
そのせいで私は苦しんだ…
血を吸い続け生きる事に「嫌悪感」を抱いてしまった…
だから…
誰も愛さずに生きていく。
愛に私の心を「征服」なんてさせない。
私は…
「血の女王」
血によって生き、
血によって支配し、
生き続ける。

さぁ…
次の世界を征服しに行こう。
世界を私の血で染め上げる為に…

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