100円ショップ店員がカッコいいと思ったお客様のコト
私は100円ショップで品出しとレジ業務を担当している。
最近はどのお店もセルフレジを導入している。もちろん我が100円ショップもである。うちの店舗には有人レジもあり、返金や大量買いの方、レジ待ちの行列が10人以上になった時に開ける。
この有人レジは大人気で、開けると同時に有人レジ専用の列ができる。自然とである。セルフレジを避けたい人が多いのである。
店内が混み合っていなければ、有人レジは開けない。たまに、「開けて欲しい」とか「何で開けないのか」と言われるが、スタッフの人数がギリギリなので、余程の事がない限り
セルフレジにご案内する。
初めてだ、とか、好きじゃない、などグズグズ言う方もいるが頑張っていただく。
私はあらかじめ大声で「お手伝いしますので、お声がけください」と言って回る。一から丁寧に説明するが、手は出さない。
「ここを押して下さい」
「あなたが押して」
「お客様のお買い物なので、お客様が押さないと」
「そうなの?」
こんなやり取りを日に何度も繰り返す。
最後までやり遂げると、
「すごい、お客様、初めてなのに全部一人でできちゃいましたね。」
と褒める。嬉しそうに照れる表情を見るのが楽しい。
「あの店員、自分でやれって言った!」とクレームがきたら、このやり方は止めようと思っている。
一度最後までひと通りやってみると、苦手意識が消えて、次から出来る方が多い。
スタッフは何度でもお教えしますので、不安だったり、分からなかったらいつでも聞いて欲しい。
それと、よく聞かれるのが、セルフレジで現金が使えるかどうか?ということ。
それが心配で、有人レジがいいと言う方もいる。もちろん、使えるから安心して欲しい。
その日もいつものように、セルフレジのご案内をしていた。
デニムのパンツに赤いレザージャケットを羽織って、片手に封の開いたLARKを持ちながら、颯爽とレジの前に立った御婦人がいた。
私よりは上だけど、親世代よりは下くらいの年齢に見えるその方は「私、コレ、初めてなんだけど」と言いながら私の方を振り向いた。
いつも通りご案内した。
「こちらを押していただいて…」
「コレを押すとスタートするのね、わかった、もういいわ」
そう言われても…念の為私はまだそこに立っていた。
「お客様、次は…」
と説明しかけると、
「私、自分でやってみたいの。分からなかったら聞くから、大丈夫」
私は少し離れて、他の方の対応をしながら見守っていた。
「あ、なるほど。バーコードはここね。ふむ、あっコレか」とつぶやきながら順調に進んでいる。最後の支払い画面になった。キャッシュレスが普及したとはいえ、まだまだ現金派の方が多い。しかしその方は「支払い方法は何があるのかな?カードとPayPayと…
あっ、PASMOいけるじゃん」
そういいながら、LARKを機械にかざした。なんと、LARKの外側のビニールにPASMOが突っ込んであった。また出さなきゃいけないからしまうのが面倒で、何処かで吸うつもりで手に持っていたLARKに一時保管したのかな、と私は考えた。
会計が終わると、私を見て
「楽しかった!また来るわ」とLARKを持った手を上げて笑いかけてくれた。
《素敵》だと思った。雰囲気もカッコいいのだけれど、初めての事をオドオドすることなく「やってみたい」と。そして「楽しかった」と。颯爽とやって来て颯爽と去って行った。
これから先いくつになっても、初めての事に出会うことが幾度となくあるだろう。
その時、私もこうでありたいと感じた。
その日は爽やかな気持ちで業務を終えた。