アメリカ映画の生ける伝説
久しぶりに時間をつくりイーストウッド作品を2本観た。
もちろん映画館に行けないから、amazonプライムだ。
スターの葛藤が映画になるとき
1本目は「ジャージー・ボーイズ」。わたしが書籍出版に協力した西精工西社長がFacebook投稿で、フランキー・ヴァリが好きだということを書いていて、そう言えばこの映画を観忘れたことを思い出した。
コロナから生還したクドカンも公開時激賞だったし、この機会に観ることにした。
結論から言って、映画的文法をこれでもかと惜しげもなく繰り出す、巧いエンターテインメント映画だ。
一つは、シーンの節目ごとに、登場人物に物語を語らせ場面転換する巧みさ。音楽映画ならではの、ヒット曲誕生秘話や、移民の不良少年が這い上がるには大好きな音楽で当てるしかない!と仲間と夢を追いかけるも、なかなか売れない時代の苦労、才能あるメンバーの加入、そしてプロデューサーと組んでの大ヒット、名声と孤独、スターの常軌を逸したどんちゃん騒ぎ、浮気で妻とのいざこざ、家族との葛藤、仲間割れとグループ解散の危機、リードボーカルのソロ活動、そして艱難辛苦の後に栄誉ある舞台での再結成、エンディングがオープニングにつながる映画的文法。。。
ん?これ、どこかで観たような???なんだなんだ、「ボヘミアン・ラプソディ」だ!
ボヘミアン・ラプソディは、実は先行したこの作品を大いに参考にしたと確信した。多分、他のスター誕生的な映画も似たようなシナリオ構造かもしれないが、最後に感涙必須のクライマックスへと引き込むエピソード展開は、思わずパクりたくなるだろうし、クリント・イーストウッド監督の手腕の確かさにうなる。
映画としての完成度でいえば、はっきり言ってボヘミアン・ラプソディよりジャージー・ボーイズの方が上だと断言できる。音楽好きならぜひ観ていただきたい。イーストウッドのカメオ出演や、クリストファー・ウォーケンの渋いマフィアぶりを眺めるのもオツだ。
男の願望と格好つけの哀しみ
そして、映画好きでもある西社長がほかに良かったと言っていたのが、イーストウッドが主演監督した「運び屋」。勢いがついたので立て続けに鑑賞!
経営するユリ農園が破綻した独居老人が新たに得た意外な仕事、それはメキシコのシンジケートが取り仕切る麻薬の運び屋ーー。
昨年公開の作品で、しわしわの顔と手を晒す、老いたイーストウッド。しかし、自ら演じる運び屋の老人は、頭の回転とウィットはキレキレ。女にもモテ若者にも好かれるチャーミングさ。男のロマンだこりゃ。ジジイやるじゃん!と思わず喝采する。
そして、現代のアメリカ社会が舞台なのだが、郊外のロードサイドの様子や、運び屋としてシカゴから州をまたぎ小型トラックでひた走る風景も日本と変わらず、ことにわたしの故郷の北海道とまるで似ている。
格好つけやで仕事第一、そのくせ他人の面倒を見たがり、産業の変化(インターネット通販の波)について行けず借金で破綻し、娘と対立する老父。わたしの実父とも重なりじわっときた。
「恐怖のメロディ」からイーストウッド監督作品は見続けているが、アメリカ映画界の生ける伝説とわたしが認められるのは、コッポラとこの人くらいか。キューブリックはもういないし。
ルーカスやスピルバーグは娯楽大作すぎて、脳内ビデオに残らない。イーストウッドも今月で90歳だから、あと何本観られるか。。。