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で?熊からいくらもらったんです?〈猟友会とのトラブル〉


1.猟友会について

猟友会の歴史

猟友会とは、日本国内で狩猟活動を行うハンターが所属する団体のことで、その活動拠点は全国各地に存在しています。
活動の目的は、狩猟事故の防止、ハンターのマナー向上、狩猟の担い手の育成、野生鳥獣の保護管理などであり、その内容は自然環境の保護であり、基本的にバランサーとしての役割を担っています。
その存在自体は戦前から存在しており、現在の全国の猟友会を取りまとめている大日本猟友会の前身、大日本聯合獵友會は1929年に設立されております。
当時は密漁が横行しており、防犯の意味合いを込めた狩猟道徳の向上を第一の目的としていました。1895年に制定された狩猟法に則る形で、狩猟の対象を指定、及び除外を繰り返し、政府からの要請で害獣駆除を行うなど、警察組織の下部組織に近しい動きをする一方で、農林省から鳥獣保護の委託を受けるなど、自然保護の一面を強調される活動も行うようになりました。
その後は鳥獣保護法銃刀法の改正に則りつつも猟友会独自の特別措置を受けて活動。現代ではドローン技術の導入、操縦者の育成事業も行われており、時代に即した変化に対応し続けてきました。

猟友会が抱える問題

第一に挙げられるのは、猟友会に所属する会員の高齢化です。
猟友会の活動はその特性上、主に山中で行われることが多いのですが、高齢化した身体に大きな負担となってしまうことも決して少なくありません。
現在ではサブカルチャーにおいても、狩猟に関することが若い世代に触れられることが多くなりましたが、それでも若い世代の参加は現状として少ない状態です。

次に挙げられるのは、猟友会内における金銭がらみのトラブルです。
例を挙げると、2024年9月30日ーー地元猟友会内に存在していた百数十万円が使途不明金として処理されていたものの、実際には会計員の生活費に充填されており、このことで当時会計員を務めていた女性が逮捕されたという事件があります。

これ以前にも、本来狩猟の報告として証拠を行政機関に提出しなければいけない所を、虚偽の証拠を提出したことで不正に報酬を受給したりするなど、金銭がらみのトラブルが相次ぐ形となっております。

とはいえ、猟友会は専門知識を有した人物が多数存在しているため、行政機関も害獣駆除の依頼を度々出しており、その存在は重宝されています。
地元に根付いた存在というだけあり、地元の人々から親しまれている身近な団体でもあり、彼らの存在はなくてはならないと言っても過言ではありません。

2.奈井江町と猟友会

2024年4月、北海道奈井江町では生活圏でのヒグマの目撃例が増加しており、問題視されていました。
昨年にあたる2023年には、クマの被害件数が219件を記録しており、これは過去最多と言われています。特に北海道福島町に存在する大千軒岳(だいせんげんだけ)で起きたヒグマによる事件は年内に3件も発生しており、その内の1件は、ヒグマの胃の中に被害者の体の一部が発見されるという非常に生々しく、痛ましい事件となっています。

これらのこともあり、道内ではヒグマに対して非常に強い警戒を抱いており、当然ながら奈井江町でもこれを問題視、猟友会に対してヒグマの駆除を依頼することとなったのですがーー
その報酬内容が、日当8,500円、発砲を伴う場合の手当込みで10,300円という、およそ人命に危険が及ぶことを考慮したとしたならばあまりにも安い金額となっていました

警察官(平均年収 約600万)=日当計算 約25,000円
医療従事者(平均年収 約500万)=日当計算 約21,000円
建設作業員(平均年収 約400万)=日当計算 約17,000円
奈井江町が提示した日当= 8,500円(手当込みで10,300円) 

独自調査になるため、多少の誤差はありますが……

従事する者の生命に危機が及ぶ可能性がある職業、いわゆる高リスク職業と比較してみると、その差は歴然。はっきり言ってバカにしているとしか思えない報酬設定です
上述した通り、猟友会に所属する方々は皆専門知識を多く有しており、それでいて山中という体力を多くすり減らす場所でーー常に動き回り、時には自身の命を狙ってくる野生動物を相手に精神を多くすり減らす業務を行う、およそ常人には不可能なことをするわけです。
それに対する報酬としては、あまりにも安上がりだと言わざるを得ません。正直、事務職の派遣社員の方がまだ稼いでいます。
当然ながら、猟友会奈井江部会部長、山岸 辰人氏は反発。「高校生のコンビニバイトみたいな金額」と痛烈に批判した上で、報酬金を45,000円に引き上げるように奈井江町町長、三本 英司氏に対して要求しました。これは北海道内の自治体から出される害獣駆除・捕獲に対する報酬金、そのおおよその平均値です。しかし三本氏はこれを「予算が無い上、体制が整っていない」という理由で返事を先延ばしにしました人命が関わっていることなのに?なんで?
これによって山岸氏、ひいては猟友会は奈井江町への出動を辞退。これを受けて奈井江町側は報酬の増額を提案しましたが、猟友会は「終わった話」として拒否しましたそこで金で解決しようとするのはただの嫌味なんよ
メディアからの取材の中で、自治体はあくまで猟友会とは最後まで真摯に対応したことを語りつつも、民間企業への事業委託、及び自治体独自の方法で熊の撃退を行うことを語りました。
なお、猟友会側は結局町側からは対応された事実はなかったとしています。

3.砂川市での道裁判決

2018年、北海道砂川市、猟友会に所属する男性がヒグマに対して発砲したものの、その際に周囲に人家があったことを理由に公安委員会から猟銃所持の許可を取り消されたものの、それを不当として処分の取り消しを行うための裁判を起こしました。
この訴えに対し札幌地方裁判所は、2021年に男性の訴えは真っ当であるとし、処分の取り消しが行われることとなりましたがーー
2024年10月18日、札幌高等裁判所は一転して一審を取り消し、男性の猟銃所持の取り消しが行われることになりました。「跳弾により弾道が変化するなどし、建物5軒に到達する恐れがあった」という理由から、上記の一審の取り消しに繋がったようです。
なお、多くのニュースサイトのコメント欄、及びSNSでは発砲許可に関することを推測する声や、そのことに関して明らかにするように求める声がありましたが、結局その部分に関して明らかになることはありませんでした。
上述したヒグマ駆除をめぐる
ニュースを見た人以上に、判決に不満に感じた男性もなるべく早くに上告する意思を見せています。

4.なぜ猟友会とのトラブルが多いのか

そもそもなぜ猟友会とのトラブルが多いのかーーその原因は主に、行政機関との連携不足や、猟友会への理解不足が挙げられます

行政機関との連携不足

ヒグマなどの害獣駆除の際、銃の取り扱いは法律に基づく安全管理が非常に厳しく求められています。特に害獣への発砲に関しては警察組織や行政機関の許可が必要となります
しかし、それを考慮したとしても、猟友会側に対する法的責任が偏っているとされています。奈井江町とのトラブル、砂川市の判決などがその例だと言われています。

猟友会への理解不足

また、行政が猟友会に十分な支援を行わず、現場の声が政策に反映されないことも問題視されています。特に、駆除の手続きや条件が一方的に決められる場合、猟友会の負担が大きくなる傾向があります。
これは猟友会との窓口を務める職員が、実際の現場の状況を把握していないことが主な原因となっています。
そもそもの話、猟友会をボランティアでハンター活動をする団体としか認識していない人物も存在しており、このことも上記の現場の状況を把握していない、という根幹を担っていると考えられます。

5.最後に

北海道や東北地方では、ヒグマによる獣害事件が多く存在しており、特に三毛別羆事件は聞いた人に痛々しい印象を与え、現代までその悲劇を伝えています。
それ故に2023年の、過去最多のヒグマの目撃数は大きな衝撃を与える形となりました。とはいえ、人間という生き物は、対岸の火事と見るや日和見主義を決め込むようにできています。自分から危険に飛び込むことが恐ろしいからです。
しかし、目を逸らしていては危険は去りません。野生の熊と相対した際の禁忌行動として、目を逸らし、背を向けて走ることが挙げられているのが一番の例でしょう
現在、北海道の猟友会は、原則としてヒグマ駆除の依頼を拒否する方針を表明しており、各自治体との溝が深まっていることが伺えます。北海道では、狩猟免許を有している方の大半が猟友会に所属しているため、今後の害獣駆除に関して大きな障害が生じる可能性が予測されます。
奈井江町の町長である三本氏は、「予算が無い上、体制が整っていない」と発言していたので、一刻も早く体制を整っていただきたいものです。法整備にかかる時間は膨大です、今回の一件が大きなきっかけとなれたことを祈るばかりです。

ここまでご高覧いただき、ありがとうございました。

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