ひょっとしてロボットのモノマネですか?〈棒読み演技〉
1.声優
一昔前の平成の時代、声優という職業はごく一部の方を除いてそこまで目立つ職業ではありませんでしたが……
サブカルチャー文化の発展と共に、声優という職業は徐々にその知名度を上げていき、どこかアイドルのような側面まで有するようになりました。
特に現在はアプリゲームが多くなっていることも手伝い、声優はその知名度と共に活躍の場も広がっております。
しかし……
声だけで演技をするという仕事内容だけを見て、その桁違いに高い専門性と難易度を無視し、声優としての経験がほとんどない、あるいは全くない芸能人が声を当てることパターンが存在します。
今回はその中でも特に話題になった棒読み演技を紹介していきます。
2.映画『TIME』 吹替版……篠田 麻里子さん
ジャスティン・ティンバーレイク氏、アマンダ・セイフライド氏らが出演する映画『TIME』
全人類の成長が25歳で止まるという世界観で起きた事件、その真相を巡る中で、世界の真実が明らかになっていく……という話です
この時、主演のジャスティン氏の吹き替えを担当されたのは、現在も第一線の声優として活躍している浪川 大輔氏。そしてヒロインのアマンダ氏を担当されたのは、当時大注目の真っ只中にいたAKB48のメンバー・篠田 麻里子さんでした。
そうして行われた吹き替えでしたが……
ーーbbjrgdyさんが投稿された、吹き替えの一部
主人公と共に行動する機会が非常に多いヒロインであるが故に、声優としての演技力の無さが際立っている印象です。滑舌は……やむを得ないか
主人公の吹き替えを担当されている浪川 大輔氏は、子役として俳優を務めていた他、小学生の頃には映画『ET』で主人公の少年の声優を務めており、その演技力は確かな才能と経験に富んだものでした。
浪川氏以外にも、内田 夕夜氏、魏 涼子氏、小松 史法氏など、吹き替えにおいて右に出る者はいないとされる吹き替え声優さんが多数出演されており、そのことも拍車をかけたと推測します。
かくして、ネットでは最悪の吹き替えとして、決してよろしくない意味で有名となってしまいました。
しかしーー
ーー『紙兎ロペ』公式チャンネルさんより
篠田さんはその後、『紙兎ロペ』におけるアキラ先輩の姉の役を担当しました。
どこか自然体な演技と、少し毒を持っているキャラクター性がマッチし、彼女の演技は高い評価を受けることになりました。
ネットにおける『TIME』の評価は未だに強いものの、『紙兎ロペ』においてアキラ先輩の姉が登場する回は神回と評されるものが多く、声優としての評価もいずれは大きく変化すると思われます。
3.アニメ『デジモン・セイバーズ』……新垣 結衣さん
続いて紹介するのは、新垣 結衣さんです。
『コード・ブルー』『逃げるは恥だが役に立つ』など、多くのドラマで活躍された女優さんであり、歌手である星野 源さんとご結婚されたことで有名な新垣さんですが、過去にはアニメの声優を務めたこともあります。
それが『デジモン・セイバーズ』のヒロイン『藤枝 淑乃(フジエダ ヨシノ)の役でした。
ーーYouTubeで公開されている一部のシーン
これは筆者の個人的な感想になりますが、新垣氏は確かに演技力で言えばまだ拙い部分もあったように思えますが、それでも懸命にキャラクターを演じようという心がけが見えるように感じました。
何故彼女が演技が下手、という感想を受けるようになってしまったのか、に関してなのですが……
主人公の『大門 大(だいもん まさる)』のあまりにも多くの方面に尖り尽くしたキャラクター性と、彼を担当した保志 総一朗氏のもはや本人が演じているとしか思えないほどの熱演と比較されてしまった結果なのだと思われます。
保志氏は『ひぐらしのなく頃に』の主人公である前原 圭一役、『戦国BASARA』の主人公である真田 幸村役など、熱血な役を演じる一方で感情を表現した叫び声に大きな評価を受けている声優であり、彼の演技と比較されたことも要因の一つとなっていると思われます。
アニメに登場するデジモンの声優にも、主人公の相棒には松野 太紀氏、ヒロインの相棒にはゆかな氏と、これまた高い演技力を誇る声優が起用されており、とにかく新垣さんの声優としての演技力の経験不足が浮き彫りになってしまう結果となってしまいました。
その後、2024年8月30日に公開された『きみの色』にて、再び声優としてアニメーション作品に参加。予告では一言程度のセリフでしたが、デジモンに参加していた時と比べて大きく演技力が成長したことが伺えるものとなっていました。
デジモン以降も、『逃げ恥』などのドラマでも、声だけのシーンやナレーションのシーンがあったのでそれらを通じて成長したのかもしれません。今後の活躍にも大きな期待が持てます。
4.ゲーム『鬼武者』シリーズ……金城 武さん
2001年にカプコンから発売されたゲーム『鬼武者』。
桶狭間の戦いで今川義元を討ち取った織田信長が今川勢の流れ矢を受けて討ち死にするという衝撃的なスタートから、その日を境に織田家の治める尾張の隣国、美濃の国は斎藤家の居城、稲葉山城で突如怪異が出現するようになり……
斎藤家の姫である雪姫から差し出された手紙を受け取った主人公『明智左馬介秀満(あけち さまのすけ ひでみつ)』がこの怪異に立ち向かっていくという物語です。
主人公の左馬介の声優を務めたのは、当時日本と中国で大きな人気を博していた金城 武氏であり、声だけではなく、そのモデリングも本人に寄せられており、当時のクオリティにおいては非常に高い再現度で大きな話題を呼びました。
しかしーー
ーーArchangel Yeungさんより8:34「ユキヒメーヌメマルー」9:49「ヤメロー」
その演技はたちまち有名となりました。
インターネット上では、あまりにもやる気が感じられないという声が続出し、多くの人が空耳でネタにするなど、良くない意味でのいじり方をされてしまいました。
上記のシーンはラストボス直前という非常に重要なシーンであり、そう言った意味でも槍玉に挙げられることが多いです。
金城さん=棒読み演技というイメージが鬼武者ファンの中で固まってしまいます。
とはいえ、棒読み演技であったのは最初のみであり、以降の作品である『鬼武者3』、リマスター版であるPS4版『鬼武者』では、演技力がかなり向上していることが伺え、参加されている他の声優さんと比べても遜色ないものとなっております。
以下の動画では、オリジナル版とリマスター版での金城さんの演技を比較したものとなっております。リマスター版では登場するキャラクターは全て新規の声優さんが声を当てているのですが、主人公の左馬介はモデリングの都合上引き続き金城さんが担当することになりました。
最初の頃と比べ、金城さんが素晴らしい演技をされるようになった一方で、オリジナル版の棒読みを懐かしむ声もありました。
棒読みの演技も、左馬介の寡黙な性格とはなんだかんだマッチしていたためでしょうか。ここまで愛されている棒読み演技というのも珍しい事例ですね。
5.ゲーム『龍が如く』シリーズ……真木 よう子さん
セガが誇る大人気ゲームシリーズ『龍が如く』。
主人公の桐生 一馬は、元々東城会に所属していた暴力団組員の一人でしたが、ある出来事をきっかけに組を離脱。東城会と他の暴力団組織がかかわる闘争に桐生自身も巻き込まれていき……と、初代から6作目まではどのシリーズにおいてもそのような物語となっていました。
4作目からは、ゲストキャラクターの声、モデリングに芸能人を起用することになり、北大路 欣也氏、ビート たけし氏、竹内 力氏、小沢 健二氏など、数多くの著名人が起用されては大きな話題を呼びました。
無論、当ゲームの魅力はそういった著名人達が声を務めるだけではなく、キャラクターの魅力やそのストーリーの完成度が大きな根幹を締めているのですが、今回はあえて多くは語りません。
件の真木 よう子さんが演じたのは、6作目に登場する『笠原 清美』というキャラクターです。
6作目の舞台は東京と広島の二つなのですが、真木よう子さんが演じるキャラクターは広島に住んでいる人物であり、小さなスナックのママとして生活を営んでいる人物でした。
例に漏れず、その演技がネット上で大きな話題となり、真木さんへの批判が多く寄せられることとなりました。
これは、小栗 旬氏、藤原 竜也氏、ビートたけし氏などの他の芸能人出演者が、声優さんと遜色ないほどに高い演技をしたこともあり、悪目立ちしてしまったのかもしれません。
実際、彼女の演技を擁護する声と、彼女の演技をわざと誇張して悪く吹聴する声と、その様相はどちらかと言うと賛否両論という状態となっていました。
個人的には時折疑問符が浮かぶシーンこそあれど、そこまで違和感も無く、いい演技をするとさえ思えるシーンもありました。
しかし、彼女の演技の中にはやる気以前に、作品への無関心、あるいは嫌悪のような部分が感じられ(勘違いでしたら申し訳ございませんが……)、その部分に関しては拒否反応を示してしまいました。
これはあくまで個人の意見ですので、無視してもらっても構いませんが……
いずれにしても、演技に対してそういった部分が見え隠れするのはいかがなものかと感じ、少しだけ嫌な思いをしました。
6.同じくゲーム『龍が如く』シリーズ……朝倉 未来さん
同じく『龍が如く』シリーズより、朝倉 未来氏。
『龍が如く』シリーズは7作目より、主人公を桐生 一馬から春日 一番に変わり、バトルシステムもアクションからRPGへと変更されれるなど、大きく転換されることになりました。
朝倉 未来氏は8作目にてゲストキャラクター『アサクラ』として登場。モデリングからキャラクター設定まで、全てが朝倉氏そのものと呼べるキャラクターとなっており、非常に高い完成度を誇っていました。
ところがーー
ーーこんふくchさんより「オー」「ハ」「オリャ」「アタリメーダロ」
朝倉氏はこれまで紹介した方々とは違い、プロ格闘家です。演技力に関しては、どうしても他の出演者と比べて一歩下がる形となってしまいます。
しかし……それを考慮したとしても、あまりにも感情が込もっていない演技に多くのファンの失笑を招いてしまう形となってしまいました。
特に事前インタビューにおいては、大きな自信と意気込みを見せていただけに、その失望はより大きなものとなっていました。
龍が如くシリーズに出演した格闘家としては、他に柔道家の篠原 信一氏がおり、彼の演技も棒読みとして大きな話題となりました。
篠原氏はゲームのイベントに出演した際に、『営業妨害だ。実際の私よりもイケメンに仕上がっているし、何より俳優を目指しているのに演技が下手過ぎる。』と自虐、イベントに訪れたファンの笑いを誘うなど、ファンサービスに努めていました。
このこともあってか、篠原さんは現在においても龍が如くのファンからはネタとしても、好人物としても大きく知られることとなりました。
一方、朝倉氏は『作中の動きは実際に自分が担当したが、声はAIが担当した』『わざと棒読みにした』『実は普通に演技をしていた』など、弁明が二転三転していました。
個人的な意見ではありますが、この行動に関しては作品に対するリスペクトを感じられず、むしろ自己顕示欲の強さすら感じてしまい、あまりいい気分にはなりませんでした。
真木さんより前に紹介した方々はちゃんとキャラクターへのリスペクトを感じられたために、非常に残念です。
7.アニメ『ブラックジャック』……宇多田 ヒカルさん
最後に紹介するのは、この手の話においては伝説となっているため、あまり興味がない人でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
アニメ『ブラックジャック』のヒロイン『ピノコ』役の宇多田 ヒカルさんです。
ブラックジャックは、1979年に手塚 治虫氏が連載を開始した漫画であり、主人公である間 黒男は医師免許を持たない無免許医師でありながら、天才的な手腕を有する外科医。現代の医学では治せない奇病・難病を、法外な値段を支払うことで治してくれるというその手腕から『ブラックジャック』の異名を持っており、物語は彼を中心に描かれ、その強いメッセージ性と秀逸な物語構成、そして手塚氏の画力の高さなどから、50年以上経った現在でも高い人気を誇る作品となっております。
2001年、ブラックジャックのFlashアニメが公開され、そこで声を付けて動くブラックジャックの登場人物達が画面に映し出されることになりましたが……
ーー『手塚プロダクション』公式チャンネルさんより
うそやろ。と、絶望的なまでのミスマッチに、視聴者の多くが悲鳴を上げることになりました。
そもそもの話、宇多田さんといえば非常にハスキーな歌声が特徴的であり、ピノコのキャラクターイメージとは大きくかけ離れていることは明白でした。
それでも宇多田さんが起用された理由は、彼女がブラックジャックを愛読しており、その中でもピノコが一番好きなキャラクターであったということ。そしてそのことを知っていたプロデューサーが、ブラックジャックのアニメが配信でされることを知り、宇多田さんがピノコの役をやるように持ちかけたことで今回のことが実現したとのことです。
宇多田さんは後に、このことを自身の黒歴史とし『今にしてもは下手くそ過ぎて忘れたい』と述べており、歌以外の芸能活動を可能な限りしない方向にシフトしました。
7.最後に
芸能人の中でも、声優の演技が非常に高い方はいらっしゃいます。
映画『トイ・ストーリー』のウッディを演じた唐沢 寿明氏、バズ・ライトイヤーを演じた所 ジョージ氏。
映画『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』のミュウツーを演じた市村 正親氏など、本職は声優ではないものの、非常に高い演技を評価された人物はいます。
同じ俳優・女優の中でも声優としての演技力に差があるのはこういった意味があるのかもしれません。
演技力は確かに大事ですが、それ以上にキャラクターに対する愛情、強い理解はもっと大事です。
芸能人が声を当てたキャラクターの中には『確かに演技力は拙いが、この声ではないと落ち着かない』というキャラクターも存在しています。それは演技力だけでは決して出し得ない最高の魅力であり、キャラクターを作り出す最高の要素の一つです。
声を当てる仕事、その専門性は非常に高く、かなりの繊細な技術を要求されるので、声優という道を突き進み続けている方々には頭が下がる思いです。
ここまでご高覧いただきありがとうございました。最後に総合学園ヒューマンアカデミーさんを紹介してこの記事を締めさせていただきます。