『万引き家族』予習 / 『海街ダイアリー』を観て”家族”について考える
是枝監督が最新作『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」を獲得した。
是枝監督といえば「家族」をテーマにした作品だが、2015年公開の『海街diary』がそこそこ話題になって記憶に新しい作品だろう。
『万引き家族』は6月8日予定だが、その前に「是枝監督は”家族”をどう描いているのか」を『海街ダイアリー』を元に考えてみたいと思う。
映画『海街ダイアリー』は吉田秋生作のマンガが原作となっており、原作の途中までを映画化したものだ。
主役の4姉妹には、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。
そして脇を固めるのは是枝監督映画常連のリリー・フランキー、樹木希林から、大竹しのぶ、堤真一、風吹ジュン、加瀬亮、鈴木亮平等々の面々。
そこまで豪華にしなくても、と言いたくなるぐらい豪華な布陣である。
ストーリーは複雑なものではなく、むしろ単調と言えるぐらいだ。
神奈川県鎌倉市で暮らす三姉妹の元に、自分たちが幼い頃に離婚して家を出て行った父の訃報が届いた。その父の葬式に行くと、異母妹・浅野すずがおり、その後4姉妹で鎌倉に暮らすようになる
という話だ。『海街ダイアリー』というタイトルのとおり、海の街 鎌倉を舞台にした4姉妹の暮らしが静かに語られる。
『海街ダイアリー』を観て考える家族のカタチとはこうだ。
家族とは、居場所である
3姉妹の異母妹・浅野すずは、唯一の血縁者である父親が亡くなり、元々住んでいた山形で居場所がなくなってしまう。
そんなすずに「一緒に住もう」と声をかけたのが鎌倉に住む3姉妹である。
血がつながっているとはいえ、母親は違うすずと3姉妹。
また父親が出ていって、次の妻と作った子どもがすずであり、3姉妹は被害者側、すずは加害者側とも言える。
とても居心地が良くその環境に馴染むすずだが、一方で「自分がいていいのか」と悩む。
そんなすずに長姉である幸が言葉をかける。
「すずはここにいていいんだよ。ずぅっと。」
その言葉を幸が発したこと、すずがそれを受け入れたことによって、彼女たちは「家族」になったのだろう。
家族とは、必ずしも血縁同士であるとは限らない
家を出ていった母親は、法事で帰ってきた際に幸にこう話す。
「(幸と私は)合わなかったのよ~昔から」
その言葉どおり、3姉妹の母と幸は激しい喧嘩をする。
その後仲直りをするが、それは母が「その後別の場所に帰る」という前提ありきの仲直りだろう。
血縁だからといって、家族として一緒に暮らせるとは限らない。
是枝監督の作品『そして父になる』はそのテーマを正面から扱った作品で、
「血縁関係」に考えるのに良い作品だと思う。
家族とは、五感を共有する存在である
『海街ダイアリー』は4姉妹の鎌倉での生活を描く作品だが、五感に関する場面が度々登場する。
毎年庭の梅を収穫して作る梅酒の匂い、味。
4姉妹の父がよく作っていたというしらす丼の味。
おばあちゃんの匂いがする着物。
家族で共有する鎌倉の四季。
それらを共有し、あーでもないこーでもないと言い合うときもあれば、
あるいはただ「〇〇だね」「そうだね〇〇だね」と5感を共有するときもある。あるいは何も言わずにただ一緒に感じているだけのときもある。
そして五感の共有は同時代に限らない。
前述のように、味や匂いは世代間で引き継がれていく。
家族とは、「意味」を求めず、五感を共有し合える存在ではないだろうか。
これらが、現時点で私が是枝監督の作品を鑑賞して考える「家族」だ。
『万引き家族』で是枝監督はどんな家族を見せてくれるのだろうか。
昨今、夫婦別姓に関する議論の活性化など、家族に関する話題は豊富だ。
枠組みにあてはめがちな日本人に対して、新たな「家族」を見せてくれる作品を期待している。
※ちなみに原作の『海街ダイアリー』はまだ完結していない。
私は原作を先に読んでいたが、映画から入った人にも是非読んでもらいたい。映画と同じぐらい、あるいは約2時間の映画では語れないディテールがある分の深い感動が得られる作品だと思う。