夢見る猫
1
僕は夢を見るのが好きだ。夢の中では、僕は自由だ。現実の束縛から逃れられるからだ。現実は、僕にとってつまらないものだった。僕は大学生だが、勉強にも興味がないし、友達もほとんどいない。両親もいない。高校生の時に交通事故で亡くなった。それ以来、僕は一人暮らしをしている。アパートの一室で、ミミという猫と暮らしている。
ミミは僕が拾った野良猫だ。ある日、僕は帰り道に路地裏で傷ついた猫を見つけた。猫は僕の目を見て、鳴いた。僕は何となく猫に同情して、家に連れて帰った。猫は白と黒の毛並みで、耳がちょっと傾いていた。僕は猫に「ミミ」と名付けた。ミミは最初は警戒していたが、やがて僕に懐いてくれた。ミミは僕の唯一の友達だった。
ミミは不思議な力を持っていた。僕が眠るとき、ミミは僕の夢に入り込んでくるのだ。ミミは夢の中で話すことができるし、色々な姿に変身することもできる。ミミは僕に色々な世界を見せてくれる。美しい景色や不思議な生き物や面白い出来事などだ。ミミと一緒に夢の中で冒険することが、僕の楽しみになった。
2
今日も夢を見た。夢の中では、僕とミミは海辺にいた。海は青くて透き通っていて、波が穏やかに打ち寄せていた。空も青くて広くて、白い雲が浮かんでいた。風が心地よく吹いていて、海鳥が鳴いていた。
「きれいだね」と僕は言った。
「うん」とミミが言った。
ミミは今日は猫の姿だった。僕の肩に乗っている。ミミは夢の中では好きな姿に変身できる。人間にも動物にもなれるし、時々想像上の生き物にもなる。でも、基本的には猫の姿が好きらしい。
「どうして猫なの?」と僕は聞いた。
「どうしてって何?」とミミが言った。
「どうして猫になれるの?どうして夢に入れるの?どうして話せるの?」と僕は言った。
「わからない」とミミが言った。「ただできるんだよ」
「ふーん」と僕は言った。
僕もわからなかった。でも、気にしなかった。ミミがいれば、それでいいと思っていた。ミミは僕にとって特別な存在だった。僕はミミを大切にしたかった。
「ねえ、太郎」とミミが言った。
「なに?」と僕が言った。
「この夢はいつまで続くと思う?」とミミが言った。
「わからない」と僕が言った。「でも、できるだけ長く続いてほしい」
「そうか」とミミが言った。「でも、いつかは終わるんだよ」
「なんで?」と僕が言った。
「だって、夢だもん」とミミが言った。「夢はいつかは覚めるものだよ」
「でも、僕は覚めたくない」と僕が言った。「君と一緒にいたい」
「僕もだよ」とミミが言った。「でも、それは無理なことなんだよ」
「どうして?」と僕が言った。
「だって、僕は本当は猫じゃないんだよ」とミミが言った。
3
僕は目を覚ました。部屋は暗くて寒かった。時計を見ると、もう夜中の三時だった。僕は布団から出て、電気をつけた。部屋には僕とミミしかいなかった。ミミは床に寝ていた。傷口に包帯を巻いてあった。僕は拾ってきてから一週間ほど経っているが、まだ完全に治っていなかった。僕はミミのそばに行って、優しく撫でた。ミミは目を開けて、僕を見た。鳴くことも話すこともしなかった。
「夢の中では話せるのにね」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
「本当は猫じゃないって、どういうこと?」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
「教えてよ」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
僕は諦めて、部屋を出た。キッチンで水を飲んで、トイレに行って、また部屋に戻った。ミミはまだ床に寝ていた。僕はミミの隣に横になって、抱きしめた。ミミは暖かくて、ふわふわしていた。僕は眠りに落ちた。
4
今日も夢を見た。夢の中では、僕とミミは森の中にいた。森は緑に溢れていて、木々が高くそびえていた。鳥や虫や動物の声が聞こえていた。空気は清々しくて、香りがした。
「ここはどこだ?」と僕は言った。
「わからない」とミミが言った。
ミミは今日は人間の姿だった。女の子だった。髪は黒くて長くて、目は青かった。服は白いワンピースだった。僕の手を握っている。
「どうして人間なの?」と僕は聞いた。
「どうしてって何?」とミミが言った。
「どうして人間になれるの?どうして夢に入れるの?どうして話せるの?」と僕は言った。
「わからない」とミミが言った。「ただできるんだよ」
「ふーん」と僕は言った。
僕もわからなかった。でも、気にしなかった。ミミがいれば、それでいいと思っていた。ミミは僕にとって特別な存在だった。僕はミミを大切にしたかった。
「ねえ、太郎」とミミが言った。
「なに?」と僕が言った。
「この夢はいつまで続くと思う?」とミミが言った。
「わからない」と僕が言った。「でも、できるだけ長く続いてほしい」
「そうか」とミミが言った。「でも、いつかは終わるんだよ」
「なんで?」と僕が言った。
「だって、夢だもん」とミミが言った。「夢はいつかは覚めるものだよ」
「でも、僕は覚めたくない」と僕が言った。「君と一緒にいたい」と僕が言った。
「僕もだよ」とミミが言った。「でも、それは無理なことなんだよ」
「どうして?」と僕が言った。
「だって、僕は本当は人間じゃないんだよ」とミミが言った。
5
僕は目を覚ました。部屋は明るくて暖かかった。時計を見ると、もう朝の八時だった。僕は布団から出て、窓を開けた。外は晴れていて、空は青くて、鳥が鳴いていた。
「おはよう」と僕は言った。
「おはよう」とミミが言った。
ミミは今日も猫の姿だった。僕のベッドの上にいた。傷口はほとんど治っていた。僕はミミを抱き上げて、キッチンに行った。ミミにエサをやって、自分に朝食を作った。パンと卵と牛乳だった。僕はテーブルに座って、食べ始めた。ミミは僕の足元にいた。
「夢の中では人間だったね」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
「本当は人間じゃないって、どういうこと?」と僕は聞いた。
「ニャー」とミミが言った。
「教えてよ」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
僕は諦めて、食べ終わった。食器を洗って、部屋に戻った。服を着替えて、鞄を持って、ドアに向かった。今日は大学に行かなければならなかった。授業があったからだ。でも、僕は行きたくなかった。現実に興味がなかった。夢に入りたかった。ミミと一緒にいたかった。
「行ってくるよ」と僕は言った。
「ニャー」とミミが言った。
僕はドアを開けて、外に出た。階段を降りて、玄関を出た。自転車に乗って、大学に向かった。道は混んでいて、車や人や自転車が行き交っていた。僕は無表情で、ぼんやりと走った。
6
今日も夢を見た。夢の中では、僕とミミは空を飛んでいた。空はピンク色に染まっていて、星がキラキラしていた。風が気持ちよくて、音楽が聞こえていた。
「楽しいね」と僕は言った。
「うん」とミミが言った。
ミミは今日は鳥の姿だった。白い羽根で、くちばしで、目は赤かった。僕の肩に止まっている。
「どうして鳥なの?」と僕は聞いた。
「どうしてって何?」とミミが言った。
「どうして鳥になれるの?どうして夢に入れるの?どうして話せるの?」と僕は言った。
「わからない」とミミが言った。「ただできるんだよ」
「ふーん」と僕は言った。
僕もわからなかった。でも、気にしなかった。ミミがいれば、それでいいと思っていた。ミミは僕にとって特別な存在だった。僕はミミを大切にしたかっかった。
「ねえ、太郎」とミミが言った。
「なに?」と僕が言った。
「この夢はいつまで続くと思う?」とミミが言った。
「わからない」と僕が言った。「でも、できるだけ長く続いてほしい」
「そうか」とミミが言った。「でも、いつかは終わるんだよ」
「なんで?」と僕が言った。
「だって、夢だもん」とミミが言った。「夢はいつかは覚めるものだよ」
「でも、僕は覚めたくない」と僕が言った。「君と一緒にいたい」
「僕もだよ」とミミが言った。「でも、それは無理なことなんだよ」
「どうして?」と僕が言った。
「だって、僕は本当は鳥じゃないんだよ」とミミが言った。
7
今日も夢を見た。夢の中では、僕とミミは雪の中にいた。雪は真っ白でふわふわで、地面や木や屋根に積もっていた。空は灰色で曇っていて、雪が降り続いていた。風が冷たくて、音がしなかった。
「寒いね」と僕は言った。
「うん」とミミが言った。
ミミは今日は狼の姿だった。毛は灰色で長くて、牙と爪が鋭かった。僕の横に歩いている。
「どうして狼なの?」と僕は聞いた。
「どうしてって何?」とミミが言った。
「どうして狼になれるの?どうして夢に入れるの?どうして話せるの?」と僕は言った。
「わからない」とミミが言った。「ただできるんだよ」
「ふーん」と僕は言った。
僕もわからなかった。でも、気にしなかった。ミミがいれば、それでいいと思っていた。ミミは僕にとって特別な存在だった。僕はミミを大切にしたかった。
「ねえ、太郎」とミミが言った。
「なに?」と僕が言った。
「この夢は最後だよ」とミミが言った。
「最後?」と僕が言った。
「うん」とミミが言った。「もう二度と会えないよ」
「なんで?」と僕が言った。
「だって、僕は本当は狼じゃないんだよ」とミミが言った。
「じゃあ、本当は何なの?」と僕が言った。
「本当は……」とミミが言おうとしたその時、夢から覚めてしまった。