見出し画像

【社長コラム】桃李成蹊(とうりせいけい)-自然に美しくなるデザインとは-

1.自ずから蹊を成す

桃李成蹊(桃李不言下自成蹊)という言葉がある。桃李もの言わざれども下自ずから蹊(みち)を成すと訳され、人徳のある人間には自然に人が集まってくるという史記に引用された格言だが、私はそうした意味合いよりも「自ずから蹊を成す」という部分に環境デザインのをエッセンスを見いだしたい。我々が例えば道をデザインするということは、道の姿形を造形するというよりも、「自ずから道を成す」ように企てることだと思えてならない。
 「自ずから美しくなる」あるいは「自然に美しくなる」というキーワードは、私のデザイン活動のテーマである。作られたモノや空間は誰にも顧みられなければ、時間とともに、ただ朽ち果てていくだけだが、人々が必要だと思ったり、愛着をもって関わってもらえるような存在になれば、長きにわたって慈しまれ磨かれて、自然に美しくなっていく。環境デザインの本質はそうした力学を生み出せるかどうかにかかっていると言えるのではないか。

2.自然に美しくなるための力学

 では、「自然に美しくなるための力学」とは何か。それはモラルに訴えたり、強制したり、規制したり、罰則を設けたりすることではない。町の美化のための標語や行政主導型の花いっぱい運動が、決して風景を美しく変えることが出来ない原因はまさにそこにある。本当に必要なのは個々人の「発意」にほかならない。特別にお金は必要ないし、組織も必要ないかもしれない。
 私は花屋さんを見かけると、その前の歩道植樹帯を必ずチェックする。大抵の場合そこは花屋さんによって美しく維持管理され、時には商品棚としても活用されたりしている。硬く言えば道路の不法占用なのだろうが、行政はこれほどのきめの細かい管理はできないし、部分的ではあっても維持管理コストの縮減にもなる。一方花屋さんにとってはイメージと実利益の向上という双方両得の構造によって「自然に美しくなるための力学」が働く、ごく小さな事例と言えるだろう。この原理を制度化、拡大したものが近年大流行りの公民連携による公共空間の整備運営であるとも言える。

画像12

3.ふたつの事例

ここで、ぜひ現地を訪れ見ていただきたい事例を、ふたつご紹介したい。


 ひとつめは熊本県阿蘇市の阿蘇一の宮商店街。阿蘇外輪山のカルスト地形の中に位置しているので、水基(みずき)という潤いを感じさせる湧水噴出口が町のあちこちにあったものの、ほんの十年程前までは典型的な地方の疲弊した商店街で、来街者は減る一方であった。当然商店街振興組合にお金はなく、できる事を相談しながら、商店同士の隙き間や道路境の空間などに小さな雑木の若木を少しづつ植えていった。雑木なので木々は見る見る成長し、今では湧水と緑あふれる商店街として、新緑や紅葉の頃には全国からの観光客で大変な賑わいとなっている。

画像12

阿蘇一の宮商店街 写真出典: https://kumamoto.guide/spots/detail/11943

ふたつめは長野県茅野市にある諏訪中央病院の中庭。現在は、とても美しいナチュラルガーデンだが、当初病院に庭を造る費用はなく、開院時は荒れ果てた資材置き場だった。でも気候冷涼な茅野市はガーデンショップやガーデナーが多く集まる土地。中庭はそうした人々の表現の場として解放された。ガーデナーたちは周辺の雑木林の落ち葉をもらって鋤き込み、自分たちの家の庭で余った宿根草や球根を持ち寄って、全くただで「自然」に立派な庭園を作り上げてしまったのだ。ここで育った花やハーブは摘み取りも自由で、地域の人々に対してはもちろん、入院中の患者さんにも憩いや楽しみを提供している。

画像12

このように地域環境の改善に対するちょっとした「発意」によって、きっかけを掴み、共感を得られれば、地域の風景を自然に美しく変えることはできるのである。

まとめ  自然に美しくなるデザインを創ろう

このように地域環境の改善に対するちょっとした「発意」によって、きっかけを掴み、共感を得られれば、地域の風景を自然に美しく変えることはできる。

 環境デザインの計画や設計に関わる我々の前には限りない可能性が広がっていると思わざるを得ない。街に対する何らかの提言とその機会に、常に向き合っているのだから。ひとつの環境デザイン計画を、その場所の中だけで閉じてしまうのではなく、自分や地域の持つ「こうありたい街」の苗床として捉え、街全体にその思いが連鎖し、増殖していくかもしれないと考えていくべきではないだろうか。

街を美しくし、人々が集まり、それによってお店が潤い、さらに街が美しくなっていくサイクルを創出することは、突き詰めて言えば、一人ひとりの街に対する思いにほかならない。それが実現したときに「自然に美しくなるデザイン」はその一歩を踏み出せたと言えるだろう。
(須田武憲)


GK_BANNER_アートボード 1

● GKの関連プロジェクト紹介

画像12

画像11

画像10

KANREN_アートボード 1

画像10

画像24

● GKグループ紹介

画像15

GKインダストリアルデザイン 
GKグラフィックス 
GKダイナミックス 
GKテック 
GK京都 
GKデザイン総研広島 
GK Design International, Inc.
上海芸凱設計有限公司(GK上海)
GK Design Europe BV
青島海高設計製造有限公司(QHG)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?