いたずら好きな友達の話
私の通っていた中高一貫の緑豊かな女子校は、自宅からそう遠くないところにあって、毎日自転車で通学していた。
川沿いの通学路にある桜並木が、春になると見事な花を咲かせていたのを思い出す。その桜並木の前には高校野球の強豪校のグラウンドがあって、放課後は選手たちが熱心に練習をしていた。
中学生のころTちゃんと出会った。
Tちゃんとは部活で知り合い、2年からは同じクラスになって、よく遊ぶようになった。
Tちゃんは優しくて、面白くて、エネルギッシュな女の子だった。
そして、とんでもないいたずら好きだった。
Tちゃんにされたいたずらのバリエーション&オリジナリティはすごかった。
落書きは当たり前。
英語の授業中、先生にさされて教科書を読み始めるとIがbになっていたりPがBになっていたりする。
ノートを開くとめくってもめくってもめくっても…全ページに担任の雑な似顔絵が落書きされている。そのノートは落書きを消すのが面倒で捨てざるを得なかったが、生真面目な父親に見つかった。
「なんでこんなもったいないことをする!」
Tちゃんに落書きされて…と言いたかったが、話が長くなるのでそのまま怒られた。
Tちゃんに話すと大笑いしていた。
共犯になったこともあった。
二人で職員室に行き、担任の机に置いてあった先生愛用の木製指示棒を隠したり(次の授業でちゃんと持っていた。きっと探したことだろう)、野口五郎に似ている若い先生に「ゴロー!」「ゴロー!」と叫んで逃走(アホである)。Tちゃんは風のごとく逃げ去ったが、笑いすぎた私は出遅れた。
私を見る五郎先生のあぜんとした顔を私は一生忘れない。
三年になり私たちは一人ずつ担任と面接することになった。
Tちゃんは仲が良かった子の面接にもれなく現れ、窓の外から笑わせたりしていた。私の面接の日、始まって数分後部屋の外から
「○○(私の苗字)~!あーいぇ~い!」
とTちゃんの声。ニヤニヤしている私に担任は
「Tか?困ったやつだな。ちょっと脅かしてくるか。」
とつぶやき、楽しそうに部屋を出て行った。外から
「なんでこんなことすんの!」
「だ、だってアルバム委員が!」
「だからってなんでこんなことすんの!」
と言い争う声。Tちゃんと私は当時卒業アルバムを作るアルバム委員だった。面接してる時やってきて「アルバム委員が!」と苦しい言い逃れをするTちゃん…。
その後の面接はうやむやのうちに終わった。
高校に進学して私たちは別々のクラスになった。
これでやっとTちゃんのいたずらから解放され・・・るわけはなかった。
Tちゃんは毎日のように私の自転車にオリジナリティあふれるいたずらを施した。
ある日は竹箒が刺さっていたり、またある日は上下逆さまになっていたり、はたまた自転車置き場から20メートル離れたところに放置されていたこともあった。
想像してみてほしい。
女子高校生が一人で重い自転車を逆さまにしたり、20メートル移動させたりする姿を。
ある時三日ほど何もいたずらされていないことがあった。ちょっと引っ掛かりはしたがそう気にもせず過ごしていると、めずらしくTちゃんから電話がかかってきた。
「あのさ、自転車…」
「自転車?」
「ライトのとこ、見た?」
慌てて見に行った私の目に飛び込んできたのは、自転車のライトの上に張り付けられた「うんこ号」と書かれた紙だった。
やられた。
私は三日間何も知らずにうんこ号を乗り回していたのだった。
そして事件は起こった。
ある日私が教室に入るとクラスメイトが話しかけてきた。
「○○(私の苗字)さん、なんか書かれてるよ…。」
見れば教室の後ろの黒板に
「○○(私の苗字)さんは経済的な理由で修学旅行に行けなくなりました」と落書きされていた。私に恥ずかしい思いをさせようとするTちゃんのいたずらだということはすぐわかった。Tちゃんのいたずらに慣れっこな私は
「も~Tちゃんだな~!」
と言いながらすぐ消して、それきりそのことは忘れていた。
ところが私の知らないところでことは大きくなっていた。
「ほんとにごめん…。」
数日後、Tちゃんはやけにしおらしく謝ってきた。訳を聞けば…。
あの落書きがあった翌日、Tちゃんの担任はクラス全員を前に神妙な顔をして切り出した。
「昨日、隣のクラスで人の心を傷つける、大変ひどいことがありました。」
話を聞くうちに、それ自分だよ!と、ことの重大さに気付いたTちゃん。話が終わった後、担任に謝りに行った。
「まあ!あなただったの⁉」
Tちゃんの担任は、まさか自分のクラスの生徒のしわざとは思ってもみなかったに違いない。Tちゃんはこってりと絞られた。
自業自得である。
ちなみに私の担任は気を使ってか、この件に関して私には何も言わなかった。
卒業後、Tちゃんと私は共通の友達Hと三人で月に1回食事会をするようになった。
Hは卒業数か月前に足を骨折していたのだが、それもTちゃんが関係していた、いや、Tちゃんのせいだったことが食事会で判明した。
TちゃんとHは階段の踊り場にある掲示板の画びょうをすべて集め、その画びょうで「しり」という文字を作る作業に没頭していた(アホである2)。もちろんTちゃんが主犯だったことは言うまでもない。そこへ人影が近づいたため、例のごとくTちゃんは瞬時に逃走。あわてて追いかけたHは階段でジャンプ、着地した際骨折した。
―—「経済的な理由」事件よりよっぽど問題である。
Hが骨折した理由が不条理すぎる。
今でも考えるのは、あの頃Tちゃんに出会っていなかったらどんなに味気ない学校生活だっただろう、ということ。
Tちゃん、ありがとう。大好きだよ。
ゴリラの支援に使わせていただきます。