魅惑の区民農園
深く考えもせず何かを始めちゃう癖。
昔からこれで結構痛い目にあってきた。
例えば。
体育の成績はいつも2か3だったのに、漫画を読んだ影響で無謀にも入ってしまった中学生時代のバレーボール部。
バレーボール部といえば、数ある体育系の部活の中でも1、2を争うきつい部だったから、入部したその日に後悔した。体育3の私がついていける練習などあるわけがなく、ちょっと走りこんだだけで倒れそうになったり、逆立ちをしようとして頭を強打したり。とにかく体力的にきつかった。
そのうえN体育大学出身の顧問は常に竹刀を振り回して怒鳴り散らし、先輩は何かというと1年生を集めてお説教。一度1年生が結託して顧問の竹刀を隠したことがあったが、火に油を注ぐ結果となって(そりゃそうだ)顧問はキレまくり、先輩には激怒された。
結局限界を感じて1年後に退部した。運動神経・体育会系要素共にゼロなのによく1年もやったと自分を褒めたいが、その後もボール拾いをしている夢を見てうなされたりしたのだから、よく考えて部活を選ぶべきだったことは言うまでもない。
そんな計画性ゼロの私は、東京の商店街育ち。子供のころから緑豊かな環境に憧れを抱いていた。‥‥もうこれだけで嫌な予感がすさまじいが、そう、ある日私は畑で野菜を作りたい!と急に思い立ってしまったのだ。
畑に好きな野菜を植え、新鮮なとれたて野菜を食べ放題‥‥なんて素敵なんだろう!妄想が駆け巡り、居ても立っても居られない私。
区の広報誌で区民農園というものの存在を知って応募することにした。
区民農園とは区が農地を借りて、その土地を区民に家庭菜園として貸すシステム。
区民農園の利用者募集は毎年1月ごろ。農園は区内に30か所ほどあり、希望の農園を選んで申し込み、抽選となる。
区民農園一覧という表を見ると、農園名、所在地、区画数、前回の倍率、水道・物置・トイレの有無などが記載されている。倍率は当然住宅地に近いところ、水道やトイレがあるところが高い。
私の自宅から一番近い農園は6倍くらい。最も倍率が高く、当選の確率は低い。さて、どこにしたものか。
考えた末、自宅から電車で3駅、さらに歩いて20分の場所にある農園を申し込むことに決めた。遠くてトイレが無かったが、時々行っていた植物園が近くにあり、そこにトイレもあったからだ。
返信用切手と免許証(なんと私はマニュアル免許を持っているのだ!)を持って、区の申し込み会場で用紙に記入して申し込み。後は結果を待つばかりだ。
結果は封書で送られてくる。倍率の低いところを選んだので見事当選!
指定の日に利用料(5500円)を支払い、手続きを済ませたら3月からいよいよ畑が使える。
畑は15㎡、ほぼ正方形でロープで隣の区画と区切られている。広々とした一面の畑を前に気分は上がる。
私は週一ペースで畑に通い、耕し、苦土石灰や堆肥で土を作り、好き勝手に種をまき、苗を植えた。一応家庭菜園の本を読んだりしてみたが、私の畑は素人丸出しの独自路線を歩んでいた。周りの畑は支柱を立てたり、ビニールを張ったり、プロっぽい感じでかっこよかったが、遠くから通っている私にはそこまで本格的にやるのは無理な話。『土とたわむれる』ことをテーマにゆるくやることにした。
当然のことながら畑には虫がいる。
葉っぱに密集しているアブラムシ系の虫。土の中から現れギョッとさせる芋虫系の虫。蜂みたいな虫に飛んで来られて大パニックになったこともある。畑にいる虫は住宅街の虫と違って、でかくて生きがいい。畑は奴らの縄張りで、私は侵入者なのだ。
虫たちとの死闘は畑にいる限り続く。
もう一つは草との戦いだ。
畑のそこかしこにどんどん生えてくる草。きれいに刈ったはずなのに、一週間後に来るともう生えている。暑くなると草の成長スピードがどんどん増してくる。終わりのない草との戦いは私の体力を消耗させたが、負けるわけにはいかない。
紆余曲折はあったが、畑には野菜が実った。
春は大根、春菊、みつば、小松菜。
夏はピーマン、シシトウ、万願寺とうがらし、なす、オクラ。
秋はニンジン、茎ブロッコリー、ニラ。
とれたての野菜というのは本当においしい。
自分が作ったという思い入れもあるのだろうが、味が濃く、新鮮で、スーパーで買う野菜とは明らかに違う。
夫にも好評だ。夫は好き嫌いのまったくない人で、何でもうまい!というのであまり参考にはならないが、育ちすぎて40センチくらいになった小松菜とか、取り遅れて硬くなったオクラとか、赤くなったピーマンとか、嫌がらずに食べてくれる。
おそらく経費と収穫した野菜を比べれば元は取れていないと思うが、土とたわむれる楽しさ、スーパーでは買えないおいしい野菜が得られることを思えば大満足の畑ライフである。
それから、野菜の花というのは、とても可憐で美しい。
春菊は放っておいたら巨大化し、かわいいお花が咲き乱れていた。イメージはこんな感じ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/シュンギク
春菊の花って初めてみたけど、全体が黄色いのと、真ん中が黄色くて外側が白いのがあって、どちらもとってもチャーミング。ほんとに春の菊って感じなの。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ナス
ナスの花のイメージはこちら。
星の形と紫と黄色のコントラストがミステリアス。
https://ja.wikipedia.org/wiki/オクラ
オクラの花のイメージ。
オクラの花は美しい南国の貴婦人のよう。畑にいってオクラの花が咲いていたら、私は間違いなくずっと眺めている。
思い付きで始めたことで、いろいろ大変な思いをしてきた(自作自演をしてきた)私だが、区民農園に関してはそれが吉とでたようだ。
魅惑の区民農園。
それは自分で野菜を育てないとわからない喜びを、いろいろ知ることができる場所。興味のある方は地元の区(市)民農園で畑ライフを楽しんでみてはいかがでしょう。