赤ずきんと呼ばれた娘。(t⭐︎w⭐︎s⭐︎t夢)

  かつて「赤ずきん」と呼ばれた娘がいた。ローゼ・ドナードは、ツイステッドワンダーランドの人間でない。数年前、輝石の国で彼女は誕生した。二度目の命。第二の人生。ああ、自分は死んだのかと幼い少女だった彼女は悟った。『赤ずきん』と呼ばれた記憶はあった。祖母の元へ葡萄酒と花束を持って森を歩いてる途中、狼に襲われ、目覚めた時には祖母と狼の「腹の中」だった。狼は先回りして祖母も丸呑みしたのだろう。ローゼも油断して呑み込まれたらしい。幸い噛まれていなかったからか、肉体は消化される前だった。

猟師が狼の肉体を銃で撃ち抜き、二人を救出したと云われている。無傷で無事だったのは祖母だけで赤ずきんと呼ばれていたローゼの体は、狼の病原菌に蝕まれ、二十代の生涯を終えていくのだった——。

  享年二十三歳。結婚もまだしていない、やりたい事が沢山あったのに、どうして?どうして死ぬ必要があったのだろうか?不幸な事故といえばよかったのだろうか、運が悪かったといえばいいのだろうか。非力だった彼女は何も出来なかったのだから——。殺されたのは、愛ゆえの行動だった。一歩的な狼の好意。行きすぎる恋慕が殺意に変わり、暴走し理性を失った狼は「赤ずきん」を食べてしまう。狼は森に住まう神父に言われたから丸呑みにしたと猟師に言い放ったらしい。『心から愛する者ならば、我が身の一部とし、愛し続ければ良い』と。優しかった狼を狂わせたのは、ローゼへの恋心。勘違いから捻れに歪み続け、愛憎が殺意へと変貌する。何度も忠告されていたのに——狼に近づいてはいけない、近寄ってくる男に近づき過ぎてはいけない、と。猟師が言った忠告を無視した報いだったのかもしれない。


  猟師は彼女の実父だったのだ。彼女が幼い頃、両親は離婚し、母は別の男性と再婚した。後に再婚相手との間に息子が産まれる。彼女の弟である。弟が産まれた時期から彼女は家に帰らなくなった。狼につけ入る隙を与えてしまったのかもしれない。家に帰ったところで彼女には居場所はない。どんな気持ちで狼は好意を抱くまでに至ったのか、ローゼは考えていた。自身が死んだという事実を受け入れるのに時間はかからなかった。過去の事を、どうこう言っていても仕方がない。ドナード家の令嬢として育てられる。

 とあるパーティーでの出来事、両親の友人であるシェーンハント親子を招待し、ローゼは初めて幼馴染の「ヴィル・シェーンハント」と対面をすることとなった。ヴィルはローゼと同い年の少年だった。二人の出会いが信頼の絆となるのはもう少し先の話——。

——ポムフィオーレ寮の談話室。

  この日、ポムフィオーレ寮の寮長、ヴィル・シェーンハントは花の街、ノーブルベルカレッジへのくじ引きで代表選ばれた三名の最終チェック、という名の荷物点検をしていた。

「アタシが治める寮の代表として、ローゼ、アンタが手綱をしっかり握って、この二人の面倒をみるのよ?アタシはアンタの事は信頼してるけど、無茶だけはしないでよね」

「ふふっ!任せてヴィル!もう、あの頃の私とは違うから安心してちょうだい!!」

チェリーピンクの髪をなびかせた彼女はにこやかに微笑んだ。ポムフィオーレ寮の紅一点、ルビーレッドの瞳を持つ三年生のローゼ・ドナードである。

「心配は無用さ、麗しのヴィル!私がローゼの傍を片時でも離れると思うかい?答えはノン!プリエールを決して一人にはしないさ!安心しておくれ、毒の君(ロア・ドゥ・ポアゾン)」

声高らかに副寮長のルーク・ハントがにこやかに主張する。プリエールというのはローゼのことであろう。(※フランス語で、祈りを意味する)

「舞踏会とか、これっぽっちも興味ねぇけど…ローゼサンがいれば絶対大丈夫ですよ!!」

ヴィルが特に入念に荷物をチェックしていると一年生のエペル・フェルミエもにこやかに楽しい笑みを浮かべている。

ローゼ・ドナード、ルーク・ハント、エペル・フェルミエの三名により清々しくにこやかな笑顔が溢れていた。ああ、呆れるしかないと頭を抱えつつ、エペルの失言もとい一言でヴィルによるダンスレッスンが開始されるのは、数分出来事であった。

−END−